セブンイレブンの書棚のかまきり | ぴいなつの頭ん中

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殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

自分より幸せな人しかこの世にいない気がする

と、駅のホーム内のベンチで彼女はつぶやいた。お金がないから、彼女はここまでしかついてこれない。座ったまま、なかなかお互い、腰を上げることができないでいた。

前に彼女は、怖い怖いって電話をかけてきながら、ここを通る電車に飛び込もうとしたことがあった。
急行。
そのときも、自分より幸せな人しかこの世にはいないと思うと、思っていたからであった。
耳から離れて数日経ったイヤホンからは、ずっと、刺青だらけの外国人のラップが聞こえてきている。
そのギターの人が好きなの、と、ギターの音も聞き分けられないで彼女は言う。
いつもそうだ、細かいことを知らずに彼女はなんでも好きになる。嫌いなものなんて一個かそこらしかないみたいに。興味がないものはどんな手を使っても避けて通るが、ここからが楽しいんじゃないかと思うような細かいポイントを知ろうとしたり分析したりせずに、彼女は手放しでなんでも好きになる。
きっとあの青年のことも、手放しでもうすでに好きなのだろう。だからあんな態度をとるのだろう。救いを求めたり一緒に笑ったりするのだろう。
しかし彼女は、人間に対して、ここからが楽しいんじゃないか、というところで辞めたりするだろうか。
今までの様子からすると、彼女は人間に対しては、わりといつまでも知りたがり、噛み砕き、執着する傾向があった。あの青年はきっと彼女に骨まで味わい尽くされて幸福に暮らせるだろう。

けれど彼女はものたりないのだ。誰かのことや何かのことを好きでいるだけではものたりないのだ。だからと言ってほかに何が欲しいかは彼女は誰にも言ったことがない。ことばでうまく説明できないからだ。しかも、物足りないのを意識している一方で、もういっぱいだというほど、満足しているような気持ちに突如なることもある。満足すぎて苦しい気持ちになるか、物足りなくて口さみしい気持ちになるか、どちらかしか意識しない彼女は、他人ばかりいつもうらやみ、他人ばかりを意識し、すなわち、自分のことばかり考えているのであった。
他人がどう考えるかなんてどうでもよかった。他人が自分をどう見るかだけ、自分がどう映るかだけがすべてであり、そこに他者というものはなく、他者の目だけが無数にあった。ただこちらから見てどうかだけ、わかればよかった。