前回の記事で天文学での超新星爆発の観測により宇宙の加速膨張が発見され、その原因として真空のエネルギーの値がゼロより少し大きい値になる、という話をした。

アインシュタイン方程式の宇宙項に該当する真空のエネルギーはダークエネルギーと呼ばれる。このダークという形容詞は"暗い"ではなく"未知"という意味。

また何十年も前から宇宙には正体不明の物質が存在することが、天文学の観測から明らかになっている。これをダークマターと呼ぶ。

ダークマターとダークエネルギーは天文学における最大の謎で、様々な説が提出されているが、現在に至るまで殆ど何も判明していない。

それら様々な説の中にはアインシュタインの重力理論そのものを修正しようとする説もある。それらの概略は以下の記事。

日経サイエンス2019年5月号 特集:宇宙の暗黒問題 暗黒物質は幻か? 修正重力理論の新たな展開

この記事とは別にTVのある科学情報番組で、この話題の近況を伝える中で修正重力理論に触れていて、その中に私が始めて聞く内容があり、非常に興味がわいた。

それがエントロピック重力。

エントロピック重力とは重力はエントロピー力だという主張。

ではエントロピー力とは何であろうか?

実はエントロピー力は我々の身近に存在する。例えば、小さなバネを親指と人差し指の間にはさんで、その指の間に押し込んだと考えよう。バネの無数の原子の間に指で押し込んだことによるエネルギーが溜まる。そのエネルギーの放出過程はバネが元の長さに戻ることと同じで力が働く。それがエントロピー力だ

カップにインスタントコーヒーの粉を入れ熱湯を注いでホットコーヒーを淹れても、時間の経過とともにコーヒーは冷めてしまう。これはホットコーヒーの熱が徐々に周囲に移っていく為で、物理的にはエントロピーの増加と表現される。

バネを指で押し込んでエネルギーを加えた場合も、ホットコーヒーと同じ様にバネは加えられたエネルギーを分散させようとする。熱力学では熱=エネルギーなので、バネが元に戻ろうとする力はエントロピーの増加と同じ現象で、その力をエントロピー力と言うのだ。

バネを押し込むと加えられたエネルギーの一部は熱にも変わるので、その意味でもエントロピーの増大に結びつく。

バネの両端の動きを考えると、バネを押し込んだ場合は斥力に相当するが、一本のゴムひもを両手で引っ張った場合は、ゴムひもの両端の動きは引力に相当する。

つまりエントロピー力は斥力にも引力にもなり得る。


次になぜ重力はエントロピー力と考えられるのか。

周囲に重力や電磁力の源となる物体が何も存在しない宇宙空間を考えよう。2個の岩石からできた帯電してない小惑星を用意して、2個の小惑星が接している状態を考える。2個の小惑星は重力で引き合っている為、2個の小惑星を引き離すにはゴムひもと同じでエネルギーを加えなくてはならない。丈夫なワイヤーを片方の小惑星に結びつけ、ワイヤーのもう片方をロケットに結びロケットのエンジンを噴かして引っ張る。

ロケットで引っ張ることにより2個の小惑星を構成する原子や分子の間に重力つまり万有引力のエネルギーが蓄えられる。これはゴムひもを引っ張った場合と同じ。ゴムひもの場合も小惑星の場合もそれぞれを構成する原子分子に蓄えられたエネルギーを解放しようとして力が働く。

バネやゴムひもの場合はそれらを構成する原子や分子が連続しているから、その中にエネルギーが蓄えられる。しかし万有引力の場合は原子分子が真空空間で隔てられていて状況が異なる。ただし重力を一般相対論で考えると時空の曲がりが重力を生む。一般相対論では時空をバネやゴムひもと同じ連続体と考えるので、連続体にエネルギーを加えて変形させることになる。一般相対論の考え方では小惑星の原子分子ではなく時空にエネルギーが蓄えられた状態となって、そのエネルギーを発散させようとしてエントロピー力が働く。万有引力と一般相対論の両方で考えても、重力はバネやゴムひもと同じ運動状態だと言える。

つまり重力もエントロピー力に該当する。


なお物理的にはエントロピーの数式から重力の数式を導けて初めてその主張の可能性が出てくる。

そこで次に重力がエントロピー力だと主張する論文を紹介しよう。

hep-th/1001.0785 On the Origin of Gravity and the Laws of Newton
    Erik P. Verlinde

この論文では2次元のホログラフィー面をベースにして、その面が持つエントロピーによりホログラフィー面からΔxの距離にある点にエントロピー力が働くと想定し、ニュートンの運動方程式F=maと万有引力の法則F=GmM/R^2を導き、さらに一般相対論のアインシュタイン方程式についても、最後まで導いてはいないものの、その導出方法が記述してある。

なお論文の著者Verlindeが書いているように、これ以前に熱力学の法則からアインシュタイン方程式を導いた以下の論文があり、それに触発されたようだ。

gr-qc/9504004 Thermodynamics of Spacetime: The Einstein Equation of State
    Ted Jacobson

またエントロピック重力の可能性を探る意味でダークマターとダークエネルギーに応用している。それが以下の論文。

hep-th/1611.02269 Emergent Gravity and the Dark Universe

    Erik P. Verlinde

Verlindeは弦理論の研究もしており、様々な理論的探求を行うという目的でエントロピック重力を取り上げたのだろう。

勿論、日本を含めた全世界で、重力は基本的な相互作用でエントロピー力ではない、とする考えが主流だ。


ただ単なる物理ファンの私が考えるに、エントロピック重力には重要なメリットが多くあると思われる。

勿論、私の空想に過ぎないし私の誤った理解と解釈かもしれないが、以下にそれらを説明しよう。

それらのメリットに番号をつけて、その根拠を述べながら示す。

仮に重力がエントロピー力であった場合、当然ながら、重力は基本的相互作用ではない。その為に以下の3つが明らかに言える。

1. 重力の量子化

重力の量子化とは重力を一般相対論で考えた際に、一般相対論のアインシュタイン方程式を量子化するという意味だ。ただ先程述べたように時空をバネやゴムひもと同じ連続体と捉えると、重力は基本的相互作用ではなく、時空連続体に蓄えられたエネルギーを解放する為に働くエントロピー力と考えることも可能だ。

重力の量子化の難しさは、重力が広がりを持たない対称性の保存量に依存するのではなく、質量を持つ領域に依存する力である為、くり込みが困難になる点にあるという。そして領域に依存するという性質は重力がエントロピー力であることの明確な証拠でもある。

物理学者なら誰であれバネやゴムひもの動作を量子化する必要があるとは考えない。

何故ならバネやゴムひものエントロピー力は、広がりを持つマクロな領域に於いて初めて意味を持つ力であり、その領域をミクロな視点つまり原子レベルで見ると、原子の振動状態が変化して、それが原子間の距離に影響を与えるだけで、エントロピー力自体は失われてしまうから。

同様に重力がエントロピー力であれば、ミクロなレベル、例えばプランク長に近いサイズで見れば、時空連続体が伸縮変形するだけで、重力は消え失せる。ただそれ自体が一般相対論の主張であり、その意味で一般相対論はマクロからミクロまでの様々なレベルでのエントロピック重力を表現しているとも考えられる。

一般相対論の等価原理や自由落下状態で重力が消えることはエントロピック重力の本質を表現している。一般相対論が発見された当時はエントロピー力という概念が普及していなかっただろうが、もしアインシュタインがエントロピー力を知っていれば、重力はエントロピー力であるとアインシュタインは主張したに違いない。

つまりエントロピー力とは力としてのミクロな本質を持たない見せかけの力なのだ。そこが素粒子の対称性に由来してミクロな領域でも存在する基本的相互作用と根本的に異なる点である。結局、エントロピー力は古典力学の範囲内でのみ扱うべき力で、その量子論は意味がなく、従って量子化する必要はない。

重力がエントロピー力であれば、重力を量子化する必要はなくて、何十年も前から開始され今でも殆ど進展がないままの重力の量子化の研究が実は必要なかった、という結論になる。

ブルフィンチの中世騎士物語に出てくるように、重力の量子化とは既に天に昇ってもうこの世に存在しない聖杯(サングリアル)を探求する無益な旅なのかもしれない。

2. 階層性の問題

我々人間に馴染み深い帯電した物体間や電子や原子核等に働く力である電磁力と、原子核のβ崩壊の際に働く力である弱い相互作用、原子核の内部で陽子と中性子を結びつける力の源となっている強い相互作用という3つの力は、既に量子化が完了している。この3つの力は明らかに基本的相互作用であり、それらの量子論をまとめて標準理論という。弱い相互作用とは電磁力より弱い力という意味で、強い相互作用とは電磁力より強い力という意味だ。ところが重力はこれら3つの力と比べて桁違いに弱く、これを階層性の問題と呼ぶ。

この階層性の問題でも重力をエントロピー力と考えると、重力は基本的相互作用ではなく、電磁力と弱い相互作用と強い相互作用の3つの力とは本質的に異なる力である為に桁違いに小さい、ということが自然に納得できる。

3. 超対称性と余剰次元

前回の記事で、超弦理論の行列模型を応用した、無数の0ブレーンの集合で構成されるホログラフィー面と1ブレーンである弦とで構成した宇宙モデルを、私が勝手に提案した。それがエントロピック重力ではどうなるかを説明しよう。

私のこの宇宙モデルでは、素粒子を1ブレーンである弦の振動とは考えない。0ブレーンである点粒子の回転が素粒子であり回転していない0ブレーンは真空と考える。

弦はER=EPR説でのミクロなワームホールに該当すると考えて量子力学の重ね合わせ原理を適用するだけの半古典的な扱いとする。その為、ミクロワームホールとしての弦の作用を量子化する必要はなく、したがって超対称性や余剰次元も不要となる。

CERN LHCを含む全ての加速器実験で、超対称性粒子も余剰次元内の共鳴状態であるカルーツァ-クライン(Kaluza-Klein:KK)粒子も発見されてないから、我々の宇宙では超対称性も余剰次元も採用されていないと考えるのが妥当であろう。

様々な方向や方法の理論的探求自体は望ましいが、実験や観測の裏付けがなければ、私の空想と同じで、机上の空論と言われても仕方ない。

さらにエントロピック重力では、重力は基本的相互作用ではないのだから、重力子の役割を弦に持たせる必要がなく、弦の作用を量子化する必要性が完全に消滅して、非常にスッキリとした宇宙モデルに仕上がるという利点がある。

つまり超対称性と余剰次元を超弦理論から取り去って、弦の振動ではなくミクロなワームホール=量子もつれという新たな解釈を加えることにより、弦理論を救うという役割もエントロピック重力は担えるのである。

ただそこまで変更を加えると、もはや弦理論とは言えない別の理論になってしまうかもしれないが。


次のメリットの根拠となるものは、Verlindeの論文hep-th/1001.0785の25ページの以下の数式で、アインシュタイン方程式とは別にエントロピック重力の一般的性質を表現している。

  Fgravity = Th∂Sbh/∂x                                     (6.40)

Fgravityは重力、Thはホーキング温度、Sbhはベッケンシュタイン・ホーキングのエントロピー。つまりベッケンシュタイン・ホーキング・エントロピーを距離xで微分した値に重力が比例するという意味。面倒なので以下ではベッケンシュタイン・ホーキングのエントロピーを単にエントロピーと呼ぶ。

一見難しそうな数式だが、この論文のコメントにあるように、F=T∇Sと見れば簡単。勿論、∇はマックスウェル方程式でお馴染みのナブラ演算子。

上記の数式では、エントロピーの値が距離xに依存せず一定ならば ∂Sbh/∂x=0 となって重力Fgravityもゼロになる。F=T∇Sでは ∇S→0 なら F→0。

このエントロピック重力の性質により残りのメリットが挙げられる

4. アインシュタイン方程式の特異点

ペンローズとホーキングの特異点定理により一般相対論のアインシュタイン方程式には特異点が存在することが数学的に証明されている。特異点とはその点では理論に予言能力がなくなることを意味し、ブラックホールの中心やビッグバンの中心で何か起こっているのか理論的に解明することが出来なくなる。つまり特異点を解消し、そこで何が起きているのかを理解する為に、古典力学である一般相対論のアインシュタイン方程式の量子化、つまり重力を量子化する必要性があるとされるのだ。ただこの特異点は、重力がエントロピー力であれば状況が違ってくる。

アインシュタイン方程式の特異点は膨大な温度またはエネルギーにより時空の曲率が無限大になり破綻するという状況だ。宇宙には温度の到達限界があるという説もあれば到達限界はないとする説もあるが、到達限界がない場合でも非常な高温及び高エネルギー状態になるとその点での温度とエネルギーの上昇率は減少することが予想される。つまりエントロピーは温度やエネルギーが低い場合だけでなく高い場合でも変化しなくなる。

そこでアインシュタイン方程式の特異点を中心としてそこから半径1mm程度の球を考えると、その内部では温度またはエネルギーがほぼ一定となる。温度またはエネルギーが一定ということはエントロピーの距離による変化も消えて、∇S→0となり、F=T∇S式でTが膨大な値でもF→0が結論できる。

結局、アインシュタイン方程式に特異点は存在するものの、重力がエントロピー力であれば、特異点に近づけば近づくほどエントロピーも一定に近づいて重力も弱くなり、特異点には永久に到達できない。実現される可能性がゼロの特異点なのだ。つまりアインシュタイン方程式の特異点は数式上だけの意味しかない幻の特異点であり、その意味でも重力の量子化は不要なのである。

言い換えれば、アインシュタイン方程式の特異点は重力がゼロになる極限点であり、特異点では重力に起因する現象は全て消滅する。

5. ブラックホールの情報消失問題

周囲の星や宇宙塵や星間ガスを全て吸収し終えた巨大なブラックホールを考えよう。その後のブラックホールの運命はホーキング放射により蒸発を待つしかないと以前は考えられてきたが、重力がエントロピー力であれば事情が異なってくる。

上記のアインシュタイン方程式の特異点で説明したように、特異点の近傍から外部へ向かって温度またはエントロピーがほぼ一定である領域が徐々に広がっていく。

勿論、それ以外の領域は∇Sがゼロではなく強力な重力が働き、特に事象の地平面の外から見るとブラックホールには全く変化がない。その点は通常の恒星や惑星やガス星雲等でも同じで、十分な広がりがあり周囲から物質やエネルギーが供給され、または中心部から外部に向けて物質やエネルギーが放射されて、温度差つまりエネルギー差が常に存在するので、エントロピー力としての重力は決してなくならない。

ただ周囲に吸収できる物質やエネルギーが何も存在せず蒸発を待つだけのブラックホールの場合は通常とは状況が異なる。ブラックホール特異点の近傍から広がった∇S=0の領域が巨大ブラックホールの全体に広がるまで実に膨大な時間が必要だろうが、ホーキング放射で巨大ブラックホールが蒸発し尽くすよりも短い時間であるのは明らか。

そして巨大なブラックホールが一旦均一なエントロピー状態になると重力は失われ、事象の地平面も消失してブラックホールは自爆する。そしてブラックホールが蓄えてきた全ての素粒子とエネルギーと情報は通常の宇宙空間に放出される。

つまりエントロピック重力ではブラックホールの情報消失問題が完全に解決されるのだ。

前回の記事で素粒子はミクロブラックホールという話をしたが、では素粒子は自爆するかという問いには、素粒子の生成消滅は日常茶飯事なので自爆するとも言えるが、そもそも素粒子は重力により発生した巨大なブラックホールとは構造が異なる。

素粒子ではその対称性空間の中にエネルギーが回転する粒子として蓄えられていると想定すると、素粒子は広がりを持たないし重力により形成されたものでもない。広がりを持たないからエントロピーの勾配∇Sは意味をなさず、生成消滅に関しても、エントロピー力ではない基本的相互作用としての電磁力や弱い相互作用や強い相互作用が働いた結果の一つとして捉えるべきだろう。

6. ビッグクランチ

前回の記事でも触れたが、宇宙は加速膨張している。遠い未来を予測すると宇宙はビッグフリーズ(熱的死)かビッグリップ(ダークエネルギーの増大により原子分子でさえ破壊された状態)と予想されるが、遥か過去の世代の宇宙或いは別の宇宙に於いては、物質とダークマターを合わせた引力がダークエネルギーによる斥力を越えて、ビッグバン以降、膨張から収縮に転じて、最後には全宇宙が一点に凝縮し、ビッグバンの状態に似た高温高圧で高エネルギー状態の終末つまりビッグクランチに達すると予想される。

このビッグクランチでも全宇宙が凝縮した領域が均一なエントロピー状態になると、重力が失われ、その高エネルギーによりビッグクランチはビッグバンに移行する。

このようにエントロピック重力ではビッグクランチからビッグバンへの移行が自然にスムーズに実行され、サイクリック宇宙が誕生する。

7. 宇宙創成とインフレーション

無の領域からの宇宙創成時を考えると、無の領域から量子ゆらぎによって宇宙の種が発生した際、相当な高エネルギー状態だったがインフレーションからビッグバンへと発展した。ただ宇宙創成時に位相的欠陥のような何らかの重力源が生じる恐れがある。全エネルギーのどの程度が重力源でどの程度が宇宙項として斥力を生むか不明だが、重力が斥力に勝った場合、創成領域がブラックホール化して潰れインフレーションもビッグバンも発生しない可能性が出てくる。

しかしエントロピック重力はその可能性をゼロに出来る。何故なら創成時のミクロな領域が短時間でエントロピー一定となり重力が消滅するから。時空の曲率による重力が消滅しても斥力は残る。そしてインフレーション後にエントロピーの不均一が生じて重力も復活、あとは従来の経過をたどる。

8. ホログラフィー原理、AdS/CFT対応、RT公式

Verlindeの論文hep-th/1001.0785によれば、エントロピック重力は2次元ホログラフィー平面をベースにして導くので、ホログラフィー原理が成り立つことは自明であろう。

次にAdS/CFT対応だが、CFT場が強結合の場合は重力が弱くCFT場が弱結合の場合は重力が強くなることの説明が必要になる。エントロピック重力も一般相対論のアインシュタイン方程式を再現するのでその点は問題ないが、F=T∇Sの計算値でも同じ状況が再現されるかが疑問だ。

簡単化した例として、横軸に距離x、縦軸に結合エネルギーEをとった図を考えよう。

F=T∇S式を見ると温度つまりエネルギーが高い方が力Fが強いように見えるが、実際に効いてくるのは∇Sの方で、エントロピーの勾配(gradient:∇とスカラー量との積)つまり距離による変化率が重要となる。

なお熱いコーヒーがエントロピーが少なく、冷めたコーヒーはエントロピーが多いことを考えると、エントロピーはエネルギーに逆比例するはずだが、それについてはエネルギーの図の上下を逆にすればいい。勾配や変化率の絶対値をとれば上下逆でも同じ結果となる。

強結合では距離xを増加させるにつれ結合エネルギーはエネルギーゼロの状態から急勾配で急激に高くなり高エネルギーを保ったまままた急激に下がるという曲線を描くと考えている。簡単な図に書くと以下の通り。
 

                           ******
                           *       *
                           *       *
                           *       *
                          *         *
                          *          *
                          *          *
                          *          *
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---------------------------------------------------->x
この図で、急激に変化する箇所でF=T∇Sは大きな値を示すが、それ以外は殆どゼロという結果で、平均すると弱い重力となる。

次に弱結合の場合を図に書くと以下の通りであろう。

                                ****
                       *****       *****
            ******                        ******
 ******                                              ******
----------------------------------------------------->x
この図で、なだらかに高くなるので広い範囲にわたってF=T∇Sは相応の値を示し、平均すると強い重力となる。

実際のエネルギー曲線はもっと複雑で、ファインマン図のエネルギーを立体的に表すと、3次元の山が多数折り重なったような形で、弱結合が広大で起伏に富む丘陵、強結合が狭く急峻な山脈の形容がふさわしく、それらに∇を作用させた場合の概略平均として、弱結合=強い重力で強結合=弱い重力という状態が生まれていると私は考えている。

勿論、CFT場は2次元ホログラフィー面に対応し、重力場は我々の宇宙と同じ通常の3次元空間つまりフリードマン計量の4次元時空となる。つまりAdS場の負の曲率の反ド・ジッター計量という望ましくない状況から脱却できるというメリットも発生する。

アインシュタイン方程式から直接計算した計算値とエントロピック重力のF=T∇Sの計算値を比較することによって、重力が基本的相互作用かエントロピー力かを判断することが出来るはずだ。おそらく様々なケースで、AdS/CFT対応のAdS場のアインシュタイン方程式からの計算値とF=T∇Sの計算値を比較し、さらに実験での測定値と比べて、その妥当性を判断すべきなのである。

ただ実際には強結合や弱結合を表現するファインマン図のエネルギー曲面を詳細に表現する作業は難しいかもしれない。

最後にRT公式については、RT公式の量子もつれエントロピーに比例する曲面の面積は上記の強結合と弱結合のエネルギー曲面の面積とも比例していると思われ、その意味でもRT公式とエントロピック重力とは整合性があるに違いない。


以上がエントロピック重力の利点だと私は考えている。

なお最初に取り上げたダークマターとダークエネルギーに関する私の発想は、次回提出するつもりです。