今日は、読書会でした。
課題本は、『マザーランドの月』サリー・ガードナー作/三辺律子訳(小学館)
時は1956年、独裁政治下のマザーランド。
主人公のスタンディッシュは、下層社会〈ゾーン7〉で祖父と暮らす。両親は、突然消えた。
孤独でつましい生活を続けるなか、となりに、スタンディッシュと同じ年頃の男の子のいるラッシュ一家が引っ越してくる。以前は〈ゾーン1〉の住民だったが、組織にたてつき、放逐されたのだ。
そんな中、マザーランドは国家の威信をかけて月面着陸を計画していた。
ところが、その裏に隠された陰謀に、スタンディッシュは徐々に気づいていく。
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前半は、話が前後したり、状況がつかめにくかったりして、読み進めるのに苦労したけれど、物語の方向性が見えてきた真ん中あたりから、ページをめくる手が止まらなくなりました。
スタンディッシュは、生き延びられるのか?
陰謀を暴くことができるのか?
最近は、児童書でもYAでも容赦なく悲劇的に終わるので、安心できません。
実際、この作品も諸手をあげたハッピーエンド、とはいかないのです。
でも、読み始めは難解という印象だったが、読み終えてみると、案外エンターテイメント性が高かったような。
難解そうであって、実はプロットはいたって単純。
そこに文学的な読みごたえを添えているのは、作者の豊かな表現力と独特な比喩です。
★ゆで卵みたいにおかたいフィリップス先生のまん中に、こんなふわふわのやさしいところがあるなんて、思ったこともなかった。
★じっと座って待つ。時間がしたたり落ちていく。
★心臓が、ふっとうした湯の中で鍋にあたりまくってる卵みたいに暴れてる。
★おれは、フライドポテトに塩コショウをかけるみたいに言ってのけた。
★一発の銃声が響き、校庭をはねまわった。
★じいちゃんは、へそから地震が起こったみたいにガタガタとふるえていた。
★時間はおれを忘れた。
どれも独特な表現だけど、しっかりとイメージが伝わってきます。
読書会の良さは、ひとりで読んだだけでは気づかなかった作品の良さや欠点に気づくこと。
今回も、自分にはない視点に驚くやら、感心するやら。
この振れ幅が、まさに読書の素晴らしさなのでしょうね。