俺は山納銀之輔。
仕事は、“天然素材コンシェルジュ”。
それから、“空間デザイナー”。
どちらも日本ではあまり知られていない職業です。
天然素材コンシェルジュは、ドイツで学びました。
家を作る時、どこにどんな自然素材を使うかを提案するのが仕事です。
アレルギーがひどいお子さんやシックハウス症候群の奥さんがいる家をなおしてきました。
壁や床の素材を変えるだけで、ひどいアレルギーが改善するんですよ。
今では、自然素材100%、化学物質を一切含まない家を作れます。
この仕事は20年くらいやってます。
20年前ってまだ、どんな建材が原因で、どんなアレルギーが出るって、はっきりとわかってなくて。
シックハウスを気にしてる人はほとんどいなくって、情報を集めるのも大変でした。
きっかけは娘でした。
当時、俺には、初めて授かった娘がいました。
もう信じられないくらい、すごく可愛くて愛おしくて。
目に入れても痛くないとか、食べちゃいたいとか、俺の心の中は世間の親バカの気持ちそのまんま。
その子が、アトピーだったんです。
全身がかぶれて、夜は痒くて眠れない。
首や肘を掻きむしって血が出てくる。
腫れあがってボロボロになっちゃって泣くんです。
皮膚科に連れて行っても、ステロイド外用薬という、副作用が心配な薬を処方されるだけ。
医者は「アトピー性皮膚炎は完治することは難しいから、上手に付き合っていくしかないです」っていう。
「なんだよそれ、待ってくれよ、それでも医者かよ。娘を治してくれよ頼むよ」って。
いつも娘の痒がる姿が頭から離れないし、医者の言葉がぐるぐるして、仕事に身が入らなくなっちゃって。
気づくといつもアトピーのことを調べてました。
20年前当時、アトピーの子供の数が20年で13倍になってて。
そういえば俺が小学校の時は、学年に1人か2人しかアトピーや喘息の子はいなかったはず。(今では更にその10倍以上)
見渡すと、周りにもたくさん…。同じ症状の赤ちゃんがいました。
その子たち全員、医者から同じ言葉を言われてる。アトピーの子供があまりにも多すぎる…。
…日本は何が変わった?
何がこんな小さな命を苦しめているんだ?って。
俺がたどり着いた答えは、日本の住宅を建てるのに、ドラム缶一本分の接着剤を使ってて、他にもたくさんの薬品が使われてるってことでした。
無垢の木にも畳にも、壁も柱も天井もその中にも、薬品だらけ。何もかも薬品づけ。
その種類は500以上。量はここ最近でまた増えてる感じがします。
それをひとつひとつ、取り除いていきました。
長い時間がかかりました。
アトピーはシックハウス症候群の症状のひとつです。
症状が進んだ人は、日常生活を送れないくらい苦しんでいました。
症状が進むと、自分の家に入っただけで、高熱、頭痛、くしゃみ、めまいやしびれで立っていられないんです。
100円ショップやホームセンターにも入れないし、すれ違う人の柔軟剤の匂いに、フラフラとうずくまってしまうんです。
俺のところに問い合わせして来るみなさんは、食事制限やマクロビオティックなど、様々な自然療法を試しても治らなくて、建築素材の問題に注目した人たち。
これまで何件もの家を直しました。
そして、その人たちが治る。
その時にありがとうって言われる一人一人の顔。
これ、喋れって言われたら3、4日喋るよ。
それが、天然素材コンシェルジュの仕事。
一般的に、アレルギーは食べ物のせいだって思われてるんだけど、食べ物や洗剤などを変えても治らない場合、家を見直して欲しいんです。
娘のように、アレルギーで苦しんでいる人に、これからも伝え続けていきたいです。
そしてもうひとつの仕事。
つづく。