翌朝、珍しい人物の電話で私は起こされた。

夫だ。


私にここ数年も電話なんて掛けたことが無かった。


「なぜ?」


そんな疑問が私の頭を過ぎったが、出ないとかえって疑われると思い
彼が寝ているそばを離れ、電話を取った。


「もしもし?」


なんとも寝ぼけた声をしていると自分で感じていた。


「お前、どこに居るんだ?今日は帰ってこないのか?」


私のことを求めたことの無い人の言葉とはとても思えない。


「いったいどうしたの?」


夫の問いかけに私は質問で返した。

「休日出勤なんだ今日は、子供たちほっといていいのか?」

「・・・・・」

私は答えることが出来なかった。


「わかった何時に戻ればいいの?」


めんどくさそうに聞いた。


「昼過ぎには頼む」


そう夫は言って電話を一方的に切った。


私は深くため息をついて・・・彼の元に戻った。

なんて言おう・・そんなことを考えながら

彼を軽くゆさぶって起した。


「ごめん・・お昼から仕事が入ったの・・だから戻らなきゃ」


彼は、眠そうな瞳で私を見つめ


「仕事なの?」っと聞き返した。


「・・・うん・・」


「わかった・・仕方ないよね」


もしかしたら少し疑っていたのかもしれない。
でも、お昼には戻らなければならない為私には時間が無かった。

彼と過ごすひと時に後ろ髪を引かれながら私は車を走らせた。

まだ眠そうにしている彼は、私を横目に見ながら


「仕事は何時までなの?」


「・・・」


「仕事終わったら、一緒にご飯食べに行かない?」


「いいよ」


私は、軽く微笑んで答えた。


彼を家に送り届けて私は家路を急いだ。

土曜日の午前中は車も空いて居た

彼の家から自宅までは20分程度だ、急げば昼前に着ける。


帰りの車で私は考え事をしていた。
彼との昨晩の出来事を思い返し
この関係がいつまで続くのだろうかと・・・


情熱的な方ではない、そんな感情や想いは
結婚を期になくなってしまった、どこかで壊れてしまっていたと
人を好きになる事なんてもう無いと思っていた。


まして、強い思いを抱くまで気が付かないなんて
私も女であったのかとつくづく思い知らされていた。


自分の唇を指で軽くなぞらせた・・・


昨晩の情熱的で熱いキスを思い出していた。


私には二股は無理かもしれない・・・どうしたら
この先どうなるの・・そんな不安と彼を思う激しい愛情が交差し
私はどの道が正しい道なのかさえもわからなくなっていた。


彼にとても魅かれ彼なしの人生を想像する事さえも苦痛に感じる。


女は子宮で物事を考える生きもだと言う。
だから、セックスは女の勘を鈍らせる
これ以上のめり込んでしまえば彼に溺れることになる。


そして私は何もかも全てを彼に捧げ全てを捨てる事が出来るのだろうか・・・


その晩、夫が帰宅してから私は彼の元へ


また、私は彼との時間を選んでしまった。

ついにその日が来てしまった。
出会ってまだ3ヶ月、実際に会うようになってから1ヵ月
日が経つごとに、彼の声を聞くたびに
この日が来るのを待っていた。


頭では、「好きになってはいけない、求めてはいけない」と
言い聞かせて来たはずなのに・・・


私は、一線を越える事を選んでしまった。


金曜日の夜、彼の家で待ち合わせをした。
宿泊先は決まっていない、気が向くままに車を走らせる
私たちはたわいも無い話をしながら時にじゃれあいながら
本当の恋人同士のような会話を楽しんだ。


そして湖に辿り着いた。


彼は車を止めた。


辺りは人気が無く、街灯もない静かで湖の水面が美しい光を放っていた。

彼はなんとなく私のほほに触れた。
私も彼の腕にそっと手を置いた。


どれぐらい時間が経ったかわからない不思議な感覚
私たちは見つめ合っていた。


彼はハッと我に返ったかのように
私の頬から手を離して少し照れているのかシートを倒して横になり
仰向けになった。
私も同じようにシートを倒した。


上を見るとサンルーフから見たことも無いくらいの輝く星たちが
私たちを見下ろしていた。


私は思わず

「すごーい。まるで宇宙に居るみたい。」


彼も夜空を見上げて

「うん、都会では見られない星の数だね」


「そうだね・・・・」


そしてまた沈黙が辺りの静けさに溶け込んでいった。

彼の鼓動が聞こえるぐらいの静けさだ。


私もまた、ドキドキと鼓動が高まっていくのがわかった。


彼は恥ずかしそうに一言

「いい・・かな?」

とつぶやいた。


こんな事を聞いてくるなんてやっぱりまだ経験が浅い証拠だなと
私は言葉も無くうなずいた。


彼が私に触れてきたとき、私はなぜかふっと思った。


『彼は私の事を愛しているのだろうか?』


馬鹿な思想だ、私は結婚もしていて子供が居る事を彼には言っていない
確実に不誠実なのは私の方なのに


彼に対して誠実を求めようだなんて・・・


でもどうしても聞きたかった。


もし、彼が私を彼女として自分の物として手に入れようとしているのなら
私はそのまま彼に身を任せるつもりだった。


そうではなく、単に都合の良い女に思われたくないという事もあったのかもしれない。

なぜ私はそんな事を考えてしまったのだろうか・・・
未だにわからない。


その考えが、言葉として出てくるまでそんなに時間は掛からなかった。


「私の事、どう思っているの?私たちの関係はなに?」


私は言って欲しかったのかもしれない。
彼の口から「付き合って欲しい」と言う言葉を・・・
本当におかしな話だ。私は妻でもなく母親でもなく女になっていた。


まだ、彼から聞いていないその言葉を待っていた。


彼は戸惑っていた・・・そして出てきた言葉は私の期待を裏切っていた。

「わからない・・ただ、もっと君を知りたい」


耳を疑った。


「・・・私を好きではないということ?」


「いや、そうじゃない。」


無理もない、まだ実際に会うようになってからこれが4回目
若い彼にとっては、どうしていいのかわからない状態なんだろう


彼は私と唇を重ねた。


その瞬間私は何ともいえない感情が湧き表に出てきた。


『彼を愛している』と言う気持ちだ。


もうなにもわからないぐらい激しくキスをした。

彼の唇が私の首筋に触り、彼の手が私の胸を優しく掴む

ものすごい興奮が私たちの身体を駆け巡り、彼の息遣いが更に私を刺激した。


久しぶりに感じた刺激だった。


その夜、湖の畔車の中で私は、超えてはいけない線を越えてしまったのだ。


彼の寝顔を見て・・・私は幸せを感じていた。

これからの関係がどうなるのか、そんなのもうどうでも良かった。
彼を手放したくない。その思いだけを噛締めていた。


彼もそうであって欲しいと願った。

電話で彼が


「今週の休みは予定はあるの?」


と聞いてきた。


私は戸惑いながら


「・・・まだ、今は無いよ」


と答えた。


本当は、予定なんて何もない。


どちらかと言えば「一緒に過ごしたい」と言いたい。


でも・・・それは彼には感じさせない。


彼は少し考えてから


「週末、ちょっと遠くに行ってみない?」


と控えめに聞いてきた。


私は、喜びを隠しながら


「・・うん・・・いいよ。」


と答えた。


彼は免許は持っているが車を持っていない。

だから私が車を持ち出すことになる。


でも、遠出すると言うことは宿泊するということ

そうすると2日間家を空けることになる。

一瞬そんな事が頭をよぎり、夫にどんな理由を

言えばいいだろうかという事だけが頭の中を支配した。


彼は、「どこに行きたい?」と聞いてきた。

私は、「うーん・・あなたが行きたいところに」


彼は、困っていたが「じゃぁ、考えておくよ」


と言って電話を切った。


この電話をする前に、夫と口論になっていた。

いや、口論ではない夫は何も言わないのだから・・・

なんともむなしい喧嘩

どんどん私の中に「隙間」が現れてくるのがわかる。


「寂しい・・虚しい・・」


この何年間同じ思いを何度もしてきた。


その度に私は自分に言い聞かせる


「大丈夫・・まだ大丈夫」


そして夫を愛そうと努力をしてみる。

好きなご飯を作ってみたり

夜、夫の気を引こうとみだらになってみたり。


でも夫には何一つ届いていない。


虚しさだけが私の心に焼きつく


「もうダメ・・これ以上ダメかも」


そう思いながらもなんの行動も取る事が出来なかった

今までは・・・・


喧嘩の原因は、「お金」である。


夫の収入は、激減していた。

私の収入をあてにしているのか・・・・

それ以上がんばろうとはしない。


「いいじゃないかこのままで」


それが口癖


極め付けが


「何を目標にすればいいのかそれがわからない」


と言う。


あきれてしまう。


こんなダメ夫でも一度は愛し、結婚し、子供を産んで幸せだと

勘違いしていた時期もあった。


でも、今なら言える


これは幸せではなかった。


私は、週末にこんな疲れた生活から逃避行することにしたのだ。

あの晩から彼のテンションは上がったのだろう


毎日20件以上のメールでのやりとり
彼は仕事が終わるとすぐに電話を掛けて来る。
私が、電話に出ないとメールで拗ねて見せる。


「仕事で夜は食事に行くの」と言うと嫉妬してみせる
彼は、嫉妬していると見せないようにしているが
電話の声、トーン、雰囲気で一目瞭然とても愛らしい。


「会いたい」とは直接言うわけではないが
ニュアンスで会いたい気持ちが伝わってくる。


「今日は仕事終わったら何してるの?」


私は、仕事を終え自宅に帰り、子供にご飯を食べさせ
お風呂に入って出掛ける準備をする。


夫とは、会話がない、だから例え私が居なくても
別に気にも留めないだろう。


夫が帰る時間はいつも8時前後、その前に私は家を出る。
顔を合わせたくないからだ


毎日彼と過ごしたいという気持ちが強くなる
でも、家を留守にする回数が増えると夫に浮気の事がばれてしまう。
例え、その証拠が無くても疑われる事は間違いないだろう。


私は、彼の家に車で向かう

気持ちが高ぶってくるのがわかる。

「ドキドキ」鼓動が高ぶる彼に会える喜びが身体を伝わる


デートと言っても車でドライブしたり食事に行ったり

触れてくる回数が増え、彼との距離が縮まる
彼の期待を分かっているのに私はそれに応じない。


彼に抱かれ、彼に溺れ、私の心と身体は満たされるに違いない
なのに、一歩を踏み出せない自分がいる。


別れ際の寂しそうな顔を見ると後ろ髪を引かれる思いがする。

そして、彼が寝付く頃私は自宅に帰り着く

寝ている子供と夫の顔を見ると罪悪感が沸き起こる。


自分の気持ちを優先させてしまって良いのだろうかと
このまま突き進んでしまって良いのだろうか・・・


翌朝、夫が「昨日の夕飯美味しかったよ」と言って仕事へ行った。

いつもはそんな言葉さえも掛けてくれないのに


「なんで?!」


心の中で驚いた。

そして、予想外に喜んでいる自分が居た。

若い彼は、とても情熱的で私を楽しませてくれる

わがままで、甘えん坊で今までにない愛情がこみ上げてくる。


「会えないと寂しい」「君をいつも想う」


そんな言葉をもらうとドキドキしてしまう。

体が火照って会いに行きたくなる。


そんな言葉、情熱的な感情を何年も忘れていた。


彼と出会ってからすぐに彼の家に泊まりに行った。


泊まるつもりは無かった。

でも彼の言葉が私を大胆にさせしまう。


「そばに居て欲しい」


彼は、私の髪の毛を触ったり私の顔を見つめてきたり

落ち着きが無くソワソワしている。


私も彼の指をなでたり、手を触ったりドキドキしているのが

見ていてもわかる。


とにかく見ているだけで可愛いという気持ちが湧き上がる。


まだ、若いせいなのか中々手を出せないでいるようだった。


私からとも思ったのだけど、ここは焦らしてやろうと魔性の女を演じてみた。


初めて会って、そういう関係を持った時点で私は捨てられてしまうのでは

無いかと言う不安もあったかもしれない。


でも、今は彼がみせるもどかしい言動を見ているのが楽しい。


私は、若い子に負けたくないという気持ちからかその日は大胆な洋服を着ていた。

上はキャミソール1枚 ちょっと角度を変えると胸の谷間が見える服だ。


正直挑発的な服だと言っても良いだろう。


その日は、何もさせないまま、私は自宅へ戻った。


彼は寝れなかったのか、翌日のお昼過ぎまで眠っていた。

今から、3ヶ月前出会いは突然訪れた。

ネットで知り合った男性と唐突に会うことになった。

それまで、電話とメールとで連絡を取り合い

お互いに会う事はなかったのだが、惹かれあっていた。


彼は、私よりも年下で夫と12歳も離れている。

最初は戸惑いがあった、まず結婚している事は彼は知らない

ましてや中学生の子供が居ることも。知らない。


言い訳をする気は全くない。

結局不倫を選んだのは私で、どんなに夫に不満があり

たとえ夫が浮気をしていたとしても、彼との中を進展させたいと

願っていたのには変わりはない。


毎日、仕事と家の往復で家に帰れば家族の為に家事をこなし

時々思う「私は、このまま老いて女としての人生を終わらせてしまうのだろうか?」と

侘しい気持ちでいっぱいになる、寂しく、哀しい気持ちで胸が痛くなる。


そんなときにネットを通じて彼に出会った。

最初は、友達としてネット上での会話や、ゲームを楽しむだけの関係だった。


メール交換をして、毎日他愛も無い事をお互い伝え合い

時々、夫の目を盗んで電話で話をしたり


今まで家庭と仕事だけを考えて生きてきて寂しいと思っていた心に

本当に自然に彼が沁みこんできた。

そして、それは日ごとに大きくなり、彼が中心となる生活が始まった。


その頃、夫との仲は正直良いとは言えなかった。

家庭内別居状態でセックスももう半年以上無い状態。


離婚を考えて夫に離婚を申立てたが、結果玉砕


子供の事を考えるとやっぱり離婚は考えてしまう・・・・


だから、私は不倫と言う道を選んだ。