大宮さんの恋物語です。
毎日20時更新予定です。
ではでは・・・どぞ・・・。
*************************
Side.O
本番が始まる。
直前まで立ち位置に来ないニノ。
スタートの合図で俺は。
ニノと詳細を打合せしないままに。
演技を始めた。
宅配ルームの前。
IDカードがないと入れないことに気づき。
胸やズボンのポケットを探す仕草をする・・けど。
当然なくて。
はぁ・・・と軽くため息をついた瞬間。
すっと伸びてきた手。
壁のセンサーにかざされるIDカード。
ピ・・・と音がして。
カチャ・・・と鍵の解けた音がする。
?・・・と思う俺に。
・・・俺・・・に。
背後にいたニノが。
リハの時よりも数歩近い距離で・・・俺を後ろからのぞき込む。
そして。
がっつりと目を合わせたまま。
すーっと・・・小首をかしげると。
セリフ。
忘れたのか・・・と思うくらいの間。
実際は多分コンマ何秒なんだろうけど。
見つめ合う。
目が・・・離せず。
もう・・・ニノのことしか考えられなくなる。
触れている俺の腕とニノの体。
リハの時には触れていなかった。
感じる重み。
その肌の滑らかさまで見える距離。
まばたきに合わせてふるると震えるまつげ。
赤い唇。
口角は少しあがっている。
柔らかな・・・自然な笑顔。
俺を見つめる・・・水分をたっぷりと蓄えてキラキラ光る瞳。
俺が映っている。
俺は。
一瞬。
ホントに・・・一瞬
演技を忘れ。
ニノに見入る。
不覚にも・・・動けなくて固まる。
心の奥の奥から・・・好きの気持ちが沸き起こり。
もう・・・惚れているのに。
もう一度一目惚れをする。
どぞ
ニノの甘い声が・・・どこか遠くに聞こえる。
軽く震える体。
それを抑えるかのように。
きゅっと。
手を握りしめた。
カット!
その声で。
撮影中だった・・・ということを思い出す。
呼吸をする。
え。
今・・・俺。
俺・・・は。
何した・・・?
どうした・・・?
今俺は。
目の前のニノで・・・・頭がいっぱいだった。
今の。
今の演技・・・って言うか演技じゃないけど。
大丈夫だった・・・のか・・・?
「そのままお待ちくださーい!チェックします!」
スタッフさんの大きな声。
そっちの方をちら・・・と見て。
それから・・・俺を見たニノが。
小さく言った。
「難しいよね・・・きゅんとする演技って。」
「ぅ・・・ん・・・。」
「しかもさ・・・初対面設定とかってホントむずい。」
「・・・ん。」
「だってもうお互い知っちゃってるし。」
「・・・。」
「久しぶりに顔見るとかならまだしも・・・ね。」
「・・・。」
ああ・・・もしかして。
俺とずっと目を合わせなかったのって。
そういう意味だったのか・・・?
「だから・・・なの?」
「・・・ん?なにが?」
聞こうとして。
でも。
少し恥ずかしくなる。
だって。
それって。
本番前に・・・ニノが俺と目を合わせてくれなかったこと。
俺が認識してたってことで。
それってちょっと。
痛いっていうかきもいっていうか恥ずかしいっていうか・・・。
・・・。
・・・。
でも。
「無駄なあがき・・・的な感じ。」
「どういう意味?」
「ちょっとだけね。本番前におーのさんと距離とってみたの。」
「・・・。」
「今更だけどね。」
やっぱり。
そうだったんだ。
そういう意味だったのか。
「そっか。」
「そうなの。ぁ・・・OKだって。おーのさんさっすがぁ♪」
とん・・・と。
体をぶつけられる。
いや。
さすがなのは・・・ニノの方だよ。
多分きっと。
俺のことをよく知ってくれているから・・・だから。
こういうことしてくれてるんだと思う。
きゅんとしたりどきっとしたりって。
実際に心の中でしていたとしても。
見ている人に伝わるように演じるのは難しくて。
でもやり過ぎるとコメディになっちゃうし。
だから。
本当にそういうの・・・自然な演技って難しいんだけど。
それを。
ニノは。
俺に自然とさせてくれた。
さすがだな・・・と思いつつ。
やっぱり魅力的なニノ。
まんまときゅんとしてしまったことに。
恥ずかしいやら嬉しいやら・・・で。
改めて。
惚れていることを・・・認識した。
.
つづく