大宮さんのBL物語です。
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「まいったよ。待ち伏せみたいのされてさ。」
「手作りとか・・・勘弁してほしいよなぁ。」
「これなんてさ・・・なんかガチっぽくて。」
「俺モテ期なのかもな。」
浮かれて話す俺。
きっとヘラヘラと笑っていたんだろう。
ただただはしゃいでいた俺。
調子にのっていたんだ。
だから。
ずっと気づかなかった。
あの子が。
一言も発していないことに。
もうすぐ駅ってところで。
すっと立ち止まるあの子。
俺はしゃべっていたから気づかなくて。
数歩進んでから・・・雨の中置いてけぼりになっているあの子に気づき。
あわてて戻り声をかけた。
「どうしたの?」
うつむくあの子。
俺の言葉に反応しない。
「どう・・・したの?」
もう一度聞く。
でも俯いたまま動かないあの子。
そこで・・・やっと気づく。
異変に。
ドキン・・・と心臓が跳ね上がり。
急に現実に戻ったように足からジワジワと寒さが上がって来る。
「・・・。」
声がかけられなくて。
ただ雨の降る中二人たたずむ。
どれくらい立っていたか。
車が急にやってきて・・・だから俺は。
そっとその子の腕を持ち。
くいっと引っ張って道の端へと引き寄せた。
おとなしく引っ張られるあの子に。
少しだけ安心しながら顔を覗き込み。
もう一度声をかけた。
「どうしたの。」
すると。
顔を・・・すっと上げたその。
その・・・その子の瞳が濡れていたんだ。
絶句する俺に。
あの子は淡々と話しはじめた。
「大野さん。」
「・・・。」
「あなたと別れたい。」
「・・・え・・・。」
「あなたのこと・・・好きだけど。」
「・・・。」
「一緒にいると・・・辛いの。」
そう言うと。
さっと俺の傘から抜け出して駆けだして行ってしまった。
呆然と立ちすくむ俺。
え。
なんで。
どうして?
好きだけどって言ってた。
なのに別れたいって。
どういう意味?
いや・・・うん。
そういう意味。
そのままの意味だ。
・・・。
・・・。
傷付けた。
傷付けてしまったんだ。
調子に乗りすぎた。
なに・・・やってんだ俺。
あわてて傘をさしたまま走る。
足は俺の方が早いから。
マジで全速力で走ればすぐに追いつける。
なのに。
走っても走っても追い付けない。
距離が全然縮まらない。
あの子の本気にあせる。
俺は傘をたたみスピードをあげた。
顔をたたきつける雨。
耳をかすめる風。
水たまりも気にせず真っすぐにあの子へと走る。
今までこんなに本気で走ったことないっていうくらい走って。
息を吸うためにあけた口が雨水だらけになったけど。
やっとの思いで。
駅へと向かう最後の曲がり角であの子をつかまえた。
「待って!」
腕をつかみ引き寄せた。
振り向いたその瞳。
目が合う。
びしょびしょに濡れていて。
でもきっと。
それは雨のせいじゃない。
初めて見る泣き顔に少しひるむ・・・と。
「はなして。」
ゆっくりと腕をとかれた。
その静かさが。
逆に心の傷の深さを物語っているようで。
閉ざされた心が見えて。
・・・。
・・・。
拒絶。
それを感じて俺は。
・・・。
・・・。
何も言えなくて。
ただ立ち停まりびしょ濡れのまま。
二人向かい合っていた。
何か言わなくちゃいけない。
何を言う?
何か言わなくちゃって思うのに。
今。
静かにとかれた腕が。
その感触が・・・全然強くもないのに。
触れられた感触が消えなくて。
心が焼けるように痛む。
下を向いたままで。
俺を見ようとしないその子。
あんなに近くにいたはずなのに。
心が遠のいていくのを感じて。
もう。
ここにいられない。
どうしたらいいのかわからない。
俺は。
その子の手を取り。
すっと・・・俺の傘を握らせ。
そして・・・そのまま。
その場を走って。
・・・。
・・・。
逃げた。
俺は。
そう。
逃げたんだ。
そこから・・・電話もメールもLINEも通じなくて。
俺達ホントに別れたんだ・・・と自覚したのはかなり経ってからだった。
後からサークルの子に聞いた話。
あの子は・・・バレンタインのチョコを・・・義理も含めて全部断わっていた・・・ということ。
俺は。
なんてバカだったんだ。
・・・。
・・・。
ガキだったんだな・・・と。
そんなこと思い知った。
つづく
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次は12時アップ予定です。