大宮さんのBL物語です。
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近づくにつれ。
心臓が早鐘のように鳴る。
どんな顔をしてくれているのか。
俺は・・・どんな顔をしている?
何年ぶりだ?
何を言う?
何もまとまらないまま。
ニノの眼の前にたどり着いた。
絹のような滑らかな肌。
記憶よりも少しふっくらした頬。
でも・・・確かにニノで。
俺が愛した・・・俺の大好きなニノが。
そのままでそこに立っていた。
「・・・久しぶり。」
「・・・はい。」
ありきたりなセリフだけど返事をしてくれたニノ。
瞳とその声に優しさが見えて。
少しだけほっとする。
思ったよりも柔らかい表情に安心する。
と同時に。
もう。
俺の事で苦しんではいないんだな・・・と。
少しだけ寂しく感じる。
それでも。
先に俺に気づいていたはずのニノ。
出会うのがイヤなら避けられたはず。
それをしないってことは・・・。
少なくとも俺は。
避けられていないんだって事に気づき。
ちょっとだけ勇気を得る。
「元気・・・だった?」
コクン・・・と。
首を縦に振る。
その仕草が・・・子供みたいで。
まるで俺に甘えているみたいで。
心の奥の奥がうずく。
忘れていた甘いうずき。
ふわっと心が浮き上がるような感覚。
少し上ずる声。
「どうして・・・ここに・・・?」
「残業で・・・終電に乗り遅れちゃって。」
「・・・。」
「仮眠して始発を待ってたから。」
「・・・そう・・・。」
その・・・あまり緊張していない声に。
もう。
俺とのことは過去の事・・・と割り切っているように思えて。
もしかしたらもう。
愛する誰かがいるのかもしれない。
俺とのことはもう。
なんとも思っていないのかも。
それが・・・いいのか悪いのかわからないまま。
でも。
俺以外の誰かを愛するにはもう十分すぎるくらいの日が経っているのだから。
あの頃二人で描いた未来とは違うけど。
君が幸せならいいと思わなくちゃ・・・と。
一瞬で頭がフル回転する。
朝帰りとは思えないクリアさだ。
って言うか。
え・・・残業・・・?
残業って・・・え?
「え・・・会社って・・・どこに・・・」
「傘。」
「・・・ん?」
「傘・・・閉じて。」
「・・・。」
言われた意図がわからないけど。
言われるがままに傘を閉じる。
・・・と。
ふわっとさしかけられた宇宙傘。
ぎゅっと近づく距離。
一瞬で。
あの頃に戻ったような錯覚に陥る。
固まって立ち尽くす俺の腕にそっと触れ。
促すようにして・・・往来の邪魔にならないように・・・と道の端へと誘導された。
まだシャッターの閉まっている店の前。
あまり目立たないところへ二人立つ。
そこで・・・ニノが俺に言った。
「この方が・・・声がちゃんと聞こえる。」
甘えを含んだ声。
少し笑って聞こえる。
それって。
どういう意味?
俺の声が・・・聞きたいの?
なんて。
都合のいい考えが頭に浮かぶ。
「ねぇ・・・大野さん。」
「・・・ん。」
「これ・・・この傘。」
「・・・。」
「返さなくてもいい?」
「・・・いい・・・けど・・・。」
「返したくないの・・・・これ。」
「・・・どう・・・して・・・?」
「だって・・・。」
黙るニノ。
その淋しそうな表情に・・・心臓がきゅっとなる。
「あなたの傘だから・・・僕が持っていたいの。」
「あなた」と俺を呼ぶニノ。
その響きが懐かしい。
「僕ね・・・後悔してるの。別れたこと。」
「・・・え・・・。」
「大好きだったのに・・・なんで別れちゃったんだろうって。」
「・・・。」
眉根を寄せた苦しそうな表情。
なのに・・・口元は笑っていて。
いや。
笑ってるんじゃないよなそれは。
声が。
もっと声が聞きたくて。
少しだけ近づく。
「子供だったんだよね・・・僕。」
「・・・。」
「我慢できなかったの。」
「・・・。」
「もてるあなたが・・・あなたを見ているのが辛かった。」
「・・・。」
「いつか僕から離れて・・・かわいい女の子のところへ行ってしまうんじゃないかって。」
「・・・。」
「怯えてた。」
ごめん。
本当に悪かったって。
そう思ってる。
「今なら・・・。」
「・・・。」
「僕も少し大人になったから・・・。」
「・・・。」
「今なら・・・今の僕なら・・・。」
「・・・。」
「絶対にあなたと別れたりしないのに。」
潤んだ瞳で見上げられる。
雨・・・のせいじゃないよな。
つづく
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最終話は16時のアップ予定です。