福島第一原発事故

 

 明治維新で薩長土肥の藩閥政府が政権に就いて以来、東北地方は「白川以北一山百文」と差別されてきた。白河の関は今の福島県にあるが、その北側では山一つが千円ほどで買へる、といふ意味だ。まさにその福島県で2011年3月、東京電力福島第一原発事故は起き、地元の方々はいまも被害と差別を受け続けている。

 

2011年3月11日に大地震と津波により壊滅的打撃を受けた福島第一原発では、1号機が3月12日に水蒸気爆発を起こし、3号機は14日に核爆発を起こし、15日には2号機も内部爆発、4号機は停止中であったにも拘はらづ燃料プールが火を噴いた。一連の事故で、大量の放射線物質が大気中にバラ撒かれ、風に乗って東北・関東、さらに偏西風により世界中に拡散された。

 

 今日は、『被曝インフォデミック』西尾正道(著)、2021年3月発行、渓郎社、をもとに、日本政府がいかにして国民を騙さふとしてきたかを見てゆくことにする。「インフォデミック」とは、偽情報の拡散を意味するWHOの造語だといふ。それは正に、この事故の経過とともに政府と原子力ムラが行った悪行の数々を、見事に言ひ表す言葉である。

 

被爆の隠蔽その一:放射線量規制値の大幅緩和

 

 事故直後、政府はまづ体表面汚染を除染する基準を、1万3千cpmから10万cpmに引き上げた。8倍だ。人々は高濃度の放射性物質を身に付けたまま非難した。これで本人だけではなく、避難先の人々も危険に巻き込まれてしまった。

 

 次に居住者の被爆上限を、年間1ミリ・シーベルトから20ミリ・シーベルトに引き上げた。20倍である。これは今もそのままで、高濃度に汚染された地域に人々は帰還を迫られている。

 

 この数値がいかに異常かについては、放射性管理区域と比べてもわかる。病院のレントゲン撮影室などがさうだが、その内外境界では年間5.2ミリ・シーベルト以下でなければならないと定められている。20ミリ・シーベルトは、その約5倍に当たる。

 

 放射性管理区域では、飲食は禁止、18歳以下は作業禁止である。福島では、飲食も禁じられ、18歳以下は居てはいけないやうな場所、つまりレントゲン撮影室のやうなところでも、戻ってこいと政府は言っているのだ。

 

 さらに、同様な過酷事故を1986年に起こしたソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリと比較してみる。チェルノブイリでは年間5ミリ・シーベルト以上の地域は全員強制避難である。福島では、その4倍危険でも住んでよいことになっている。

 

しかもこれは内部被爆(体内に放射性物質を吸引した分)を含めての数字で、内部被爆2ミリ・シーベルト+外部被爆3ミリ・シーベルトとなっている。福島では外部被爆だけで20ミリ・シーベルトだから、福島の人たちはチェルノブイリの人たちの7倍近く放射能に強いといふことになる。そんなバカな!

 

被爆の隠蔽その二:モニタリングポスト内部操作で数値低減

 

 県内各地に置いてあるモニタリングポストの示す値が、公式な放射線測定値とされているが、琉球大学の矢ヶ崎克馬名誉教授が市民と共に行った調査では、ほとんどの場所でモニタリングポストの示す値が実測値を40~50%も下回っていた。西尾氏も実際に郡山駅前で測ってみたところ、モニタリングポストの値の方が42%も低かったさうである。

 

 こんなものを作れと圧力をかけられたのは、アルファ通信といふ会社だが、拒否したさうだ。当たり前だろ。それで、現在使用中の機器は、富士電機製なのださうだ。

 

 こんな数値で、将来裁判が起きたときに、実際の半分ほどの被爆しかなかったことにされてしまふのだ。なんでみんな怒らないんだ。

 

被爆の隠蔽その三:体内汚染除去剤と個人線量計の配布阻止

 

 ラディオガルターゼ(別名プルシアンブルー)といふ体内汚染除去剤がある。体内の放射性物質セシウム137を便として排出させることで、約4割も除去できるといふ優れモノだが、これを某社が緊急に大量輸入して無償提供を申し出たが、政府は許可しなかった。ひどい!

 

 個人線量計のガラスバッジといふものがある。実際の被ばく線量の5~10%ほどしか示さないものだが、緊急時にはないよりましである。国立がん研究センターの嘉山孝正氏が配布を申し出たが、これも政務次官がストップした。誰だ?

 

 それも2年後に許可した。バッジの表示が1ミリ・シーベルトを割ることを確かめた上で、政府に対する責任追及が避けられると踏んだ上でのことだらう。

 

被爆の隠蔽その四:放射性廃棄物の基準値を大幅緩和

 

 放射線を出す物質は危険だから、「放射性廃棄物」として管理区域内に保管しなければならない。その基準値は1㎏当たり100ベクレルだった。ところがこれを、いきなり1㎏当たり8000ベクレルにしてしまったのだ。80倍まで危険でも保管する必要はないから、売れるなら売るだらう。放射能は見えないからな。そして、姿を変えて我々の身近な製品に使はれる可能性がある。見ゑない殺人兵器だ。

 

ただのNPOでしかないICRPとIAEA カネに群がる原子力ムラ

 

 原発や原爆を論じるときに、マスコミが必づ参照するのが国際放射線防護委員会ICRPと国際原子力機関IAEAだ。しかし、どちらも原子力政策を推進する政府や企業などから支援を受けている、ただの民間団体なのである。だから、原子力政策を推進させるための提言しかしないし、庶民の被爆など無視して、非科学的でデタラメな数値を振りまくのだ。

 

 政府は電力会社と一体になり、政官学会と共にカネまみれになって、危険な原子力政策を推し進める。政府は電力会社に原子力交付金の札束をバラ撒く。電力会社はマスコミにスポンサー料をたんまり払ふ。東大には毎年4億円払って御用学者を育てる。官界からは天下りに高給を払ふ。そのカネはみんな税金と電気料金だ。ふざけるな。

 

 小中学校には、「日本の原発は世界一安全です」ってパンフレットをバラ撒く。そこに書かれている飲料水の放射線量基準値は、日本が欧米の100分の1、つまり100倍安全.そりゃさうだ。その値は、日本は平常時のもので、欧米は緊急時のものなんだから。詐欺!

 

 さうやって年に250㎏ものプルトニウム(長崎原爆250発分)を作って、「もう中国には負けないぞ」などとほざく。アホか。日本各地に50カ所以上ある原発に1個でもミサイル撃たれたら、日本はお終ひだってぇのに。

 

シーベルト:国際放射線防護委員会ICRPが定めたインチキ単位

 

 被曝量を決める単位シーベルトも、実はデタラメで、あまり役に立たない。そもそも計算方法が複雑すぎて、とても理解できない。マスコミの記者でも自分で計算した人はいないはずだ。予めコンピューターに計算方法を覚へ込ませた上で、数値を入力して、コンピューターに計算させるしかないからだ。

 

 複雑になるにはワケがある。係数の種類が多いからだ。そして呆れたことに、その係数はICRPが勝手に決めているのだ。被曝量が少なくなるように、特に内部被爆が測れないやうに設定されている。

 

 中学生だってわかるけれど、2X+3YにおいてX=1,Y=2だったら8になる。けれど、2のところが物質によってみんな違って、3のところが臓器によってみんな違って、おまけにX,Yだけでなく10個も記号があって、それぞれが二乗や三乗なんかになっていたら、計算する気にならないでしょ。ICRPの狙ひは、そこにあるとしか思へない。

 

 例へば「放射線荷重係数」といふのがあって、セシウムとストロンチウムでは違ふ。「組織荷重係数」といふのがあって、腎臓と膵臓では違ふ、といった具合で、しかもその値は科学的にではなく、ICRPの独断で決めているのだ。科学的に決めたら、労働者と地域住民の被爆が大きくなって、原発を動かせないからだ。

 

 シーベルトの換算方法は、そもそも外部被爆と内部被爆を区別せづ、全身化換算「実効線量」とすること自体がおかしいのだ。西川氏の喩へによれば、「外部被爆とは、まきストーブにあたって暖をとること。内部被爆は、その燃える“まき”を小さく粉砕して飲み込むこと」で、どちらが危険かは幼児でも理解できる。ICRPの委員たちには理解できないのだ。

 

溜まるトリチウム水

 

 2021年3月のNHKニュースから引用。

「福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料の冷却などによって1日140トンのペースで汚染水が発生しています。

 

この汚染水は敷地内の専用の浄化設備に送られ複数の吸着剤を使って多くの放射性物質が取り除かれますが、『トリチウム』という放射性物質は取り除くことが難しく処理された水の中に残ってしまいます。この水が大型のタンクにためられているのです。

 

福島第一原発の構内に設置されたタンクの数はおよそ1000基。容量はあわせて137万トンにのぼりますが、すでに9割にこの水がためられていて、さらに日々増え続けています。

 

福島第一原発の敷地内には空きスペースもありますが、国や東京電力はタンクを増やし続けることはできないとしています」

 

トリチウムとは

 

こんどはウィキペディアからの引用。

「三重水素またはトリチウムは、質量数が3である水素の同位体、すなわち陽子1つと中性子2つから構成される核種であり、半減期12.32年で3Heへとβ崩壊する放射性同位体である」

 

「三重水素は、その質量が軽水素の約3倍、二重水素の約1.5倍と差が大きいことから、物理的性質も大きく異なる。一方、化学的性質は最外殻電子の数(水素の場合は1)によって決まる要素が大きいため、三重水素の化学的性質は軽水素や重水素とほぼ同じであることが多い」

 

 水素といへば水の素。常温では色も味もない気体。水には溶けにくい。酸素と混じって高温になると爆発して水になる。これらの化学的性質は、トリチウムもほぼ同じ。しかし、重さは3倍で、放射線を出しながら、12年ほどで半分がヘリウムになる、といふことだ。

 

トリチウムの危険性

 

 NHKの報道でもさうだが、マスコミは、トリチウムの危険性は少ないやうな報じ方をするが、とんでもない話だ。

 

 水になったトリチウムでも放射線を出しているのだから、体内に入れば内部被爆する。海水で薄めればいい、なぁんて馬鹿げた話はよしてくれ。プールでおしっこした奴がいたら、どんなに薄めたって気持ち悪いだろ。そんな汚い喩へでなくとも、トリチウムを多く放出する原発の近くでは、現にがんが多発している。

 

 カナダのピッカリング重水炉周辺都市では、小児白血病や新生児死亡率が増加、ダウン症候群が80%増加。イギリスのセラフォード再処理工場周辺でも小児白血病が増加。日本でも玄海原発周辺で白血病増加。北海道の泊原発では、泊村と岩内町のがん死亡率が道内で、稼働前の22位と72位から、稼働後には1位と2位に急上昇。

 

トリチウムの生体濃縮

 

 人間の体の60%は水だ。そして常に出入りする。トリチウムはここに混じる。ところがなかなか出て行かない。重たいからだ。動植物の体内でも同じで、出て行かないうちにまた入ってくるから、だんだん溜まる。海藻やプランクトンからエビや小魚へと移動すると、さらに溜まり、イカやカツオ、マグロとどんどん濃度が上がる。生体濃縮だ。

 

トリチウムは空気中にも出ていくから、陸上でも家畜や野生生物を通して生体濃縮は進む。そして、人間の食卓へ「こんにちは」も言はづに上がってくる。

 

 しかも、トリチウムは放射線を出して周囲の細胞を傷つけてがん化させた上に、崩壊してヘリウムになっていく。細胞の分子構造が変はってしまふのだ。その細胞は、もはや元通りの働きはできない。

 

 これが細胞の核内で起きるとだうなるか。DNAが破壊される。体の設計図が壊れ、死に至るだらう。恐るべし、トリチウム。

 

 生物ピラミッドの頂点にいるヒトには、トリチウムが最高濃度で蓄積する。動物の体細胞は常に入れ替わっている。皮膚や爪、毛髪を考えればわかりやすい。しかし、そんな簡単に入れ替わってしまったら困る器官もある。ヒトで一番、入れ替わったら困るのはどこだらう。

 

 脳だ。脳細胞が入れ替わってしまったら、記憶が壊れてしまふ。そこにトリチウムが蓄積される。そして放射能を出し続ける。すると、だうなるか。脳科学の第一人者、黒田洋一郎氏はかう述べる。

 

「アルツハイマー症、パーキンソン病ばかりでなく、一般の精神疾患も、福島事故以後に日本で増えていることは、放射線によるDNAの突然変異だけでは説明し難いのでしたが、脳への影響がトリチウムの脳への長年の蓄積によるとすれば説明できます。…トリチウムからの放射線はシナプスに至近距離で当たりますので、たいへん危険です」

 

人間が作り出したトリチウム

 

 2021年7月16日、人類初の被爆を受けたヒロシマにIOC会長が現はれた。1945年7月16日、アメリカのマンハッタン計画初の核実験「トリニティ作戦」は「成功」した。以来、アメリカだけで1000回以上も核実験を繰り返し、世界中にプルトニウムやトリチウムを含む放射性物質をばらまいてきた。

 

 連合国=国連の主要各国はアメリカの後を追って、原水爆実験を繰り返して、放射性物質をばらまいた。日本を含む多くの国が原発を稼働し、放射性物質をばらまくと同時に排水を捨てて海を暖め、地球温暖化を進めた。

 

 マスコミは例によって、ICRPとIAEAの催眠術にかかり、トリチウムは自然界にもあるなどと報じる。なんともおめでたいオツムである。トリチウムのほぼ100%は人間が作ったものなのだ。

 

トリチウムを捨てるな

 

 プルトニウムの半減期2万4千年に比べると、トリチウムの半減期12.3年は一瞬だ。100年保管すれば、半減期が8回だから2の8乗で、256分の1にできる。それに、そんなに待たなくても、重さが3倍も違う物質を分けることができないほど、人類はバカぢゃないだらう。

 

 現に「東洋アルミニウム」「アース・リ・ピュア」などのチームは既にトリチウム分離の目途を立てているといふ。ここに政府が補助金を出せば良い。オリンピックや強盗キャンペーンなどにカネを遣っている場合ぢゃない。もっとも今のスカ政権では、補助金どころか、妨害交策を仕掛けかねない。政権交代させねば危ない。

 

 タンクだって石油タンクの技術もある。場所だって福島第二原発もある。海洋放出などもっての他だ。だうしてもやりたければ、竜宮城の乙姫さま以下、全海洋生物の同意書をもらってからにしていただきたい。

 

 そもそも汚染地下水を増やしているのは、地下水が原子炉下部を通るからなのだ。通らないやうに鉄板で原子炉下部を囲めば良い。そんなことは10年前から言っているんだが、東京電力はまだ、不完全な凍土壁に拘っている。この方が費用がかかるから儲かるんだらうね。そのカネはみんなが払っている税金と電気代だよ。この国の国民はなんで怒らないんだらうか。

 

「福島第一原発事故:原子力ムラの棄民政策」お終ひ

 

 74歳におなりになる西尾正道氏、力作を世に問ふてくれ、本当に感謝致します。横浜市では図書館にありましたので、貧困者でも読めます。みなさまも、ぜひご一読を。

 

 今回は日本政府の棄民政策ぶりを描きましたが、アメリカの原子力ムラはもっと恐ろしい悪魔の様相を呈します。それを描いた大作『プルトニウム・ファイル』上下巻、アイリーン・ウェルサム(著)、渡辺正(訳)、翔泳社、の話もする積りでしたが、これは次回にしませう。

 

(2021年7月20日 深12号お終ひ)