7月6日は零戦の日。

(正式には「レイセン」と呼ぶそうですが、「ゼロセン」の方が現代では通称として親しまれていると思います)

1939年(昭和14年)の7月6日に、零式艦上戦闘機の試作機が初めて飛んだ日。1939年というのが皇紀2600年だったということでゼロ、「零」という名称が用いられたそうです。

 

柳田邦男さんの傑作ノンフィクション『零戦燃ゆ』文庫本全6巻を読み終わりました。

胸に迫る作品でした。

私は「零戦=特攻」というイメージがあったのですが、そうではなく。

少なくとも昭和19年、1944年10月25日に、関行男大尉率いる最初の特攻隊が、フィリピンで米艦隊に突入するまでは、零戦は戦闘機として大活躍したのでした。

零戦が登場した当時は、まぎれもなく世界最高の戦闘機であり、アメリカも追いつけなかった。

零戦が本来の零戦として健闘した時代があった。

南の空で、零戦を駆って、必死に日本の領空を防衛したパイロットたちがいた。

そのことを『零戦燃ゆ』を読んで、よくわかりました。

 

柳田さんの執念ともいえる10年に渡る日本・米国両方の当事者や関係者、史料の徹底的な調査により、太平洋戦争を通じて零戦とそのパイロットたちがどう戦っていったかが見事に描かれていきます。

学校の歴史の授業では、太平洋戦争のことは、原爆や敗戦の玉音放送は教科書に載っていた記憶があるけれど、零戦のことや、ラバウルにあった海軍航空隊の戦いぶりなんてまったく載っていませんから、私は全然知らなかったのです、零戦がこれほど果敢に、激しく、雄々しく、南の海で戦っていたことを。

私はこの本で、下士官から慕われ尊敬された士官パイロットたちが多くいたことを知りました。

(『大空のサムライ』の坂井三郎さんのような有名パイロットは下士官が多い)

 

宮野善治郎大尉
笹井惇一中尉
納富健次郎大尉
 

柳田さんの本のおかげで、尊敬すべき士官パイロットたちの奮闘ぶりがよくわかりました。

 

でも、太平洋戦争の半ばを過ぎた頃からは、どれほど零戦が優れた戦闘機であっても、パイロットたちがどれほど勇敢で優れた技能を持っていたとしても、撃ち落としても、撃ち落としても、どんどん補充されて向かってくる米軍戦闘機たちに、物量面で太刀打ちできなくなり、南の空に零戦と共に散っていくパイロットたちが増えていくのです。

文庫本で言うと3巻後半あたりから、ラバウル航空隊の苦戦が描かれるようになり。

その後、最初の特攻が、「特別」でなくなり、特攻が日常化してしまう恐ろしい戦況になっていくのです。

だから文庫本4巻以降は、とても読むのが辛くなります。


『零戦燃ゆ』のあとがきで柳田さんは書いています。


「現代の戦争は、技術と工業力と情報の戦争であると言われている。アメリカはそのことを太平洋戦争ではやくも見せつけたのである。
エンジン出力が2倍の2千馬力のグラマンF6Fの大群を相手にしての空戦は、壮烈の一語に尽きた。零戦の若きパイロットたちはそれでもよく戦い、そして南海に散っていったのである。熱闘の日々であった。
零戦乗りの若者たちのそうした航跡をありのままにたどっていくことは、心の痛む辛い作業であった。しかし、若者たちがいかに戦い、いかに死んでいったかは、目をそらすことなく、しっかりと記録しておかなければならないというのが、この作品に取り組んだ私の、最初からの考えであった。空戦ごとの零戦隊の戦死者名をできるだけ多く記しているのも、その考えによるものである。」

本当に、読むのが辛くなってきたけれど、真実こういう辛い経験をして命を散らした人達がいたということを認識するためにも、最後まで読みました。

この本は零戦と零戦に関わった人達の墓碑銘だったと思います。

 

柳田さんが取材した頃は、零戦パイロットたちやご家族や関係者の方たちもまだ生きていて。貴重な話を収集できたことは本当によかったと思います。

日本は今戦争をしていませんが、世界では戦争が続いていて、ロシアとウクライナの戦争の前線は、日本の太平洋戦争の頃の状況と類似するような過酷さだと思うのです。かっての戦争でどういうひどい出来事があって、多くの人が命を落として傷ついたということを忘れないようにするためには、文字化して後世に残していくことが大切だと思います。

このような貴重な作品を書いてくれた柳田さんに感謝したいです。

 

あくまでも零戦の戦いについて書いているので、昭和20年、終戦近くなった頃に活躍した紫電改についてはほとんど書かれていません。私は菅野直さんのファンなので、紫電改343部隊のことが書かれていなかったのは残念でしたが、紫電改は零戦ではないってことなのでしょうね。

紫電改部隊の活躍については、『源田の剣(つるぎ』という、これまた、ものすごいノンフィクションがありまして。この本については別の機会で紹介したいと思います。ちなみに源田とは源田實(当時)大佐のことで、後の自衛隊航空幕僚長、ブルーインパルスの生みの親です。

 

『零戦燃ゆ』は映画化されていますが、宮野大尉も出てきます。主人公のモデルは空戦の神様と言われた下士官パイロット杉田庄一さんだと思われます。映画はまあまあの出来でしたが。早見優ちゃんがヒロインで出ていてすごくかわいかった。

ただ、私はラストで泣いてしまいました。ラストは、終戦を迎えて、零戦を荼毘にふすシーンなのです。このシーンは秀逸でした。泣き崩れるパイロットたち。燃える零戦に敬礼する整備士たち。そして流れる石原裕次郎の「黎明」。私は裕次郎さんのファンというわけではありませんが(さすがに時代が違う・・・)、この「黎明」はいい歌でした・・・。名ラストシーンだったと思います。