すごく久しぶりに、数十年ぶりに、フランシス・コッポラ監督の映画「友よ、風に抱かれて」を見ました。

Amazon プライムでレンタルできたので、懐かしさに駆られて。

私が大学生の頃オリバー・ストーン監督のアカデミー作品賞受賞映画「プラトゥーン」が上映され、ものすごいインパクトを受けて、ベトナム戦争が戦われていた頃私は子供で何の記憶もなかったので前知識なく見て、映画館で衝撃を受けたことを憶えています。

「プラトゥーン」のようにアメリカの暗部ともいえるベトナム戦争を正義の戦いという真四角な切り口ではなく、正義と悪が混じり合った戦争であったという切り口でベトナム戦争を捉えた映画があの頃はたくさん製作されました。

 

フランシス・コッポラ監督は「友よ、風に抱かれて」の前に「地獄の黙示録」を撮っていますが、こちらはあまりにも暗く難解すぎて公開当時、賛否両論でしたが。今見返すと、「地獄の黙示録」は名作だったと思いますねえ。内容がえぐすぎるけど

・・・。今となっては、かなり高い評価を得ている映画です。「地獄の黙示録」なくして、アメリカ映画史は語れないというか、かなり重要な位置づけの作品になっていると思います。

 

そのコッポラ監督が再びベトナム戦争をテーマに映画を撮るということで興味津々で映画館に見に行ったのだけど。「友よ、風に抱かれて」の方は戦闘シーンもなく。ベトナム戦争といっても、アメリカの戦死者を埋葬する第3歩兵隊(オールド・ガード)を舞台にした話で、ベトナムでの話ではなかった。当時見た時はなんだか拍子抜けしたことを憶えています。ただ、メアリー・スチュアート・マスターソンがかわいかったことだけが印象に残っていました。

 

しかし、今回見返してみて、すごくいい映画だなと思いました。静かに、市民目線で、ベトナム戦争の愚かさを語っていると思いました。そして、この映画で一番輝いているのは、アンジェリカ・ヒューストンだったのだと思いました。

 

第3歩兵隊のハザード軍曹(ジェームズ・カーン)の恋人がアンジェリカ・ヒューストン演じるサマンサで、彼女はワシントンポスト紙の記者です。ベトナム戦争反対です。

ハザード軍曹の部下、新兵のウィローくんは「ベトナムで闘いたい。戦争のフロントに行きたい」と希望し、結局ベトナムに行って戦死してしまうのですが。そしてウィローくんをアーリントン墓地に埋葬するシーンで映画は終わるのですが。

若い頃に見た時にはわからなかった渋みというか重みが、この映画にはありました。

 

ハザード軍曹は決して反戦でも反軍隊でもないけれど、ベトナム戦争を戦って、「There is no front in Vitnam」(ベトナムには戦争の前線なんてものはない)と、ベトナム戦争の愚かさと、アメリカ軍の敗北を予想しています。自分が鍛えた部下がベトナムに行ってどんどん死んでしまうことに絶望を感じています。そして、可愛がっていたウィローくんの戦死を機に、彼は再びベトナムへ向かうことを決めるのです。

 

サマンサはハザード軍曹を心から愛しているけれど、自分の信条は決して曲げない。反戦活動にも参加して捕まったりしている。ベトナム戦争はただの虐殺だといってはばからない。ハザード軍曹はそんなサマンサに腹を立てる。二人はよくベトナム戦争のことで口論する。

でも、この二人は愛しあっているのです。

お互いの信条と職業を尊敬しつつ、互いを尊敬しつつ心配しつつ。二人は愛しあいます。

ここらへんは、大人の恋愛だなあと思います。

ハザード軍曹がベトナムに行く決心をする時に、サマンサに「その間、君はどうしている?俺がベトナムに行くことは、君の主義に反するだろう?」と聞いた時のサマンサの答えがよかった。

「戦争に反対する気持ちに変わりはないわ。これからも私はプラカードを持って反戦デモにも参加するわ。あなたがあなたの道を行くように、私は私の道を行くわ」

と答えるのです。

かっこいいな~。こういうセリフを私も一生に一度くらい言ってみたかったわ(笑)。

ハザード軍曹はサマンサの答えに満足そうに笑った後、彼女にプロポーズして、サマンサはイエスと答えるのでした。

意見や主義主張が異なっても、お互いを尊敬し愛し合うことができる・・・。

アンジェリカ・ヒューストンの凛とした美しさ。素晴らしいです。

 

若い頃に見るのと、年取ってから見るのと。同じ映画でも、全然印象や見るポイントが違ってくるのだなあと思いました。(「地獄の黙示録」は、いつ、何歳で見ても、あのワーグナーのワルキューレをがんがんにかけてナパーム弾撃ちまくる空挺部隊のヘリコプター・シーンにくぎ付けなのですが・・・。もう、私の中ではワルキューレ=「地獄の黙示録」になっている・・・)

 

日本では「友よ、風に抱かれて」というタイトルでしたが、オリジナルのタイトルは「Gardens of Stone」。直訳すれば石の庭で、アーリントン国立墓地のことです。原作小説がありまして Nicholas Proffitt氏の「Gardens of Stone」。小説のタイトルを映画のタイトルにそのまましたのですね。

原作小説を読んでみたいのですが、電子書籍化はされておらず、中古本しかなく。ハードカバーでは1万円超え!ペーパーブックでも5千円くらいの値段がついている・・・。もう少し安く手に入らないかと探しているところです。どうも絶版状態らしい。ぜひ、電子書籍で復刻してほしいです。