「乗って。連れていくわ」

そう言ってメットが飛んできた。
魅音だった。人外というか何というか、フランス人形の様な美貌の持ち主だ。

愛衣がくれた鍵と型で易々と事務所に入れた。
そこから先もセンサーなど起動することなく割と堂々と地下まで降りることが出来た。

手首を上で縛られ天井から全裸で吊るされているなちが目に入った。肩で息をしているのが解ったからとりあえず生きていて安堵した。

とりあえずなちを降ろしてやらねえと・・・と、なちに意識が向いた時、俺の真後ろで金属音がした。まるでバタフライナイフを構えた様な音だった為、直ぐに後ろを向いた。
居るはずの人間が居なかった。

俺「待て!」

その言葉と同時か、僅かな差で聞こえたのは肉にナイフが刺さる音・・・ではなかった。
木製のお椀を床に落としたような、乾いたパカンという音。

俺「・・・トンファー?」

魅音がトンファーで京の頭を殴り、京は気絶していた。

俺「・・・頭割れたような音がしたが・・・」

魅音「知らないわよ」

あまり深く追求すると俺まで殴られるかもしれないので黙ってなちのロープを解いてやった。

瞬間、なちはむせて口から血を噴出した。

魅音「ミケ!ちょっとあんたは自力で帰れる?ミケを病院連れて行かなきゃ」

俺「だったら楓呼んだ方が早い」

魅音「・・・のくせに」

俺「は?」

魅音「ミケにとって脅威のくせにそんな奴に頼んないでよ!」

それもそうだ。訳分からない体液と血でグッチャグチャのなちを渡すとあいつは何するか解らねえ

俺「じゃあ親父・・・信呼んでこの事務所ちょい大人しくさせとくから。その間に俺ん所の運転手手配する。流石にバイクは無理だろ。なち意識無いんだし」

魅音「じゃあ先にシャワーで流してあげてくるから、手配しといて」

俺「解った」

トンファー使いの女と、情報のエキスパートな愛衣、そしてそれを纏めてる(?)のが、蓮の弟である玲音か。
愛衣と話してて、魅音と話して、思った。
まるで、そう、何も無かった頃のような空気だった。未琴も死なず愛理も死なず蓮も居る、そんな空気を感じさせる・・・俺たちにとっては痛くもあり、そして酷く感慨深い場所に感じた。

なちは、この空気に居て平気なのか?
なちを取り巻く環境の酷さに心が傷んだ。