いつ終わるとも知れない点呼要領の訓練だったが、回数を重ねるごとに少しずつましになり、森班長の、
「今日はこの辺で終わりにしておいてやろう」
という吉本新喜劇のようなセリフとともにお開きになった。
ヨロヨロと居室に戻ってベッドを上げ床にし、班のメンバーで揃って食堂へ移動、朝食をとる。
「アタシ、朝ごはん食べたいって思ったの久しぶりだよ~。マジで点呼終わんないかと思った」
ジンがお味噌汁を美味しそうに飲み干して言う。
「ホント、今まで朝なんてお腹空いてないからいらなかったよね。ご飯がおいしいなんて健康的だよ」
と、おおちゃんもうなずきながらご飯を口に運ぶ。
夜は10時に寝て、朝6時に起きる。生活リズムに限れば、確かに物凄く身体に良さそうだ。
食事を終え、部屋に戻って身支度をしていると、中田士長が入って来た。
「今日から入隊式の練習を兼ねた訓練を始めるからね。青ジャージとスニーカー、帽子でマルハチゴーマルに隊舎前に集合」
「マルハチ…えっと?」
るんこが首を傾げ、その場にいたメンバーもポカンと中田士長を見つめる。
「ああ、時間の読み方ね。自衛隊では聞き間違いを防ぐために、時間を24時間で区切って四桁で読むんだ。ヒト、ニ、サン、ヨン、ゴ、ロク、ナナ、ハチ、キュウ…ゼロ、はマル、ね」
皆の目の前で指を折りながら中田士長が説明する。
「だから、マルハチゴーマルは?」
「0850…8時50分!」
るんこがいち早く答える。
「そう。じゃ、5分前集合を忘れずにね」
中田士長が颯爽と去って行った後、早速教わった時間の読み方で遊び始める。
「起床時刻は?」 「マルロクマルマル!」
「お昼休憩は?」 「ヒトニーマルマル!」
「就寝時刻は?」 「ヒトマルマルマル!」
「えっなんで?24時間だから22時で、ニーニーマルマルじゃん!」
「あっそうか!友達と遊ぶのにそんな時間の言い方しないから間違えたわ」
そんなことを言って笑い合っている間に集合時間が迫ってきたのに気付き、声をかける。
「マルハチヨンマルだ。そろそろ準備しよう」
「シーさん、早速自衛隊用語使ってるじゃん!」
ゆうかがニヤニヤと冷やかしてくる。
「そりゃ、知識は使ってナンボだからね」
こちらもフフンと澄ましたふざけ顔を返しつつ、靴を履き替えてジャージを羽織る。
朝の点呼を遥かに凌ぐ、本物の「エンドレス」が待ち受けているとも知らずに、私たちは集合場所へと向かうのだった。