食事を取った後、班付の声掛けで区隊全員が娯楽室に集められた。

 

皆、何となくきちんと整列して話が始まるのを待っている。

 

「これから班付に声をかけられた者は列から外れてドア近くの一番端に並ぶこと」

 

森班長が指示を出すと、各班付が順に声を掛けていく。

 

「椎名、あっちに並んで。山下と高橋も。中川は…まぁいいか」

 

何を基準に選別されたんだろう?と思っていると、中田士長が黙ってビニール袋に入った何かを差し出してきた。

中には「ビ〇ン ヘアカラー 黒染め」と書いた箱がいくつか入っている。

 

 

「おまえらは髪の毛が茶色すぎる!これで今日の風呂の時間に染めてくること!」

 

「えええっ!」

 

列から外されたメンバーがどよめく。

どうやら髪の毛をカラーリングしていたのがまずかったらしい。

 

確かに私も明るめのヘアマニキュアをしていたし、山さんも同じくのようだ。ジンに至ってはほぼ金髪…。

まぁいいか、と言われたりーやんは元々の色素が薄いようなので、茶色っぽくても追及されなかったのだろう。

 

 

 

「それから、これから言われた者は髪が長すぎる!明日午前中に切るぞ!」

 

班付に指名された隊員が悲鳴を上げる。髪を染めろと言われた2班のメンバーは幸い皆ショートカットだったのでその難は逃れたが、肩上の長さだったまっちゃんとバラは散髪を指示され、うなだれていた。

 

 

 

毛染め隊は少し早く入浴しても良いと許可をもらったので、班の毛染め組で連れ立って浴場へ向かう。

 

「まさか髪の色まで指定されると思わなかったわ~。マジびっくりだよ」

 

山さんが笑いながら言う。

 

「私なんてせっかく高校卒業まで待って、憧れだった金髪にしたのに…。まだ1か月も楽しんでないよ!」

 

ジンが嘆く。

 

「私も髪は切ってきたけど、そこまで頭が回らなかったよ。自衛隊員は髪の色まで気を遣わなきゃならないんだね…」

 

そんな事を話しながら脱衣室に入る。

 

 

「いやでも髪切らなくて済んで良かった!コレ、ムラにならないように染めあいっこしようよ!」

 

陽気な山さんがひときわ明るい声で提案してくれたおかげで、何となく沈んだ空気が軽くなり、浴室では皆でキャッキャ言いながら、お互いの髪の毛に毛染め剤を塗りあった。

 

 

説明書にあった時間放置した後、頭を洗う。

黒い黒い水がいつまでも出てきて、皆何度もシャンプーをつけては流し、つけては流ししてようやく毛染めが終了した。

 

時計を見ると、毛染め隊の入浴指定時間を過ぎそうになっていた。

慌てて浴場を出て、揃って部屋に戻る。

 

 

ロッカー部屋に戻ると、他のメンバーが一斉にこちらを見て、わっと笑う。

 

 

「何なに?なんでそんなに笑うの?」

 

山さんが慌てて反応する。

 

 

「だってさ、みんなの頭、すごいよ」

 

リーやんが心底面白そうに笑いながら言う。

 

私も含め、毛染め組が急いで自分のロッカーを開け、内扉に付いた鏡を覗き込む。

 

 

「わぁぁ!」

 

ほぼ3人同時に声を上げる。

鏡の中には、緑色の頭をした自分がいた。

 

「すごいね!髪の毛って黒に染めると緑に見えるんだね!」

 

まっちゃんは感心したように私たちの頭に見入っている。

 

「なんで緑に見えるのかな?高級な海苔みたいなもんか?」

 

るんこは真顔で不思議そうにしている。

 

 

ひとしきり皆にいじられて、改めて鏡を覗いてみる。

 

言われるように、黒というより緑の自分の髪色に吹き出してしまう。

 

 

『黒染めは髪の毛が深緑色になる』

 

自衛隊に入ってこんなことを学ぶことになろうとは…。

 

当分外を出歩けないじゃん…と落ち込んでいたものの、その心配は必要なかったことが、こののち明らかになるのであった…。