私たち世代は聞いたこともない曲に乗せ、情感たっぷりに歌い上げる区隊付。

 

目の前には“日本最大の湖”、琵琶湖が広がっている。

 

歌の世界そのままといえばそのままなのだが、その場にいた約40人の新隊員は皆、

 

「私たちは何を見せられているんだろう…」

 

といった表情で、ただただその様子を眺めているだけだった。

 

 

「どうだ?いい歌だろう?俺はこの歌を聴くと何とも雄大な気持ちになるんだよな~」

 

ラジカセを足元に置き、区隊付が満足げに話す。

 

「これから終礼の時にみんなで歌うから、歌詞カードをなくさないようにしておいてくれ」

 

そう言い終わった瞬間、ラッパの音が鳴り響く。

 

「気をつけ!半ば左向け左!」

 

区隊付の号令に合わせて動くと、視線の先にある隊舎の屋上で、国旗を降ろしている隊員の姿が見えた。

 

「敬礼!」

 

区隊付が続ける。皆もそれに合わせて挙手の敬礼をする。

 

 

ラッパの音楽に合わせてゆっくりと国旗が降ろされ、音楽が途切れて別のメロディになるタイミングで「直れ」の号令がかかる。

 

「休め」の声の後、区隊付がまた話を始めた。ラッパの音はまだ続いている。

 

「歌に夢中になってて説明してなかったなぁ。今のラッパは国旗降下の合図な。最初のメロディで「気をつけ」をする。それから次のメロディの間に国旗が降りるから、旗が見えるところにいる者は国旗に向かって敬礼。見えなければそのまま不動の姿勢を取っておく。最後のメロディは「休め」の合図だな」

 

説明する区隊付に、別の班の女の子が質問をする。

 

「その後に流れていた曲はなんですか?」

 

「おう!それはお前らのお楽しみ、『食堂の準備が出来ましたよ!』の“飯ラッパ”だ。これにて課業終了!いっぱい食べて来いよ!」

 

 

気をつけ、別れ!の号令で区隊は班ごとに分散され、並んで食堂へ向かう。

 

お腹が空きすぎていて頭の中は食事の事で一杯。

 

皆、区隊付に聞かされた“謎歌”の事はすっかり忘れ去った様子で食堂へと行進していくのであった。

 

 

 

 

↑自衛隊のいろんな「音」が楽しめます。ダウンロードも出来るようなので、起床ラッパを目覚まし音にしてみるのも一興かと。

私は飛び起きちゃうので謹んで遠慮いたしますが(笑)。