シロい雪が止んだその日、「ナ」はMさんとお花屋さんで花を買った。
Mさんが、沢山買ってくれた。「シロ」の為に。
「シロ」と呼ばれる白黒の男の子に出会ったのは、もう数年前になる。
その頃の「ナ」は、TNRという言葉や、飼い主の居ない猫の捕獲の方法なども一切知らない頃だったと思う。
近所のお店の方々が野良猫に御飯をあげている場所があり、そこが「ナ」の通勤路だった事もあり、仔猫を見かける事が有った。
可愛いな~と思って見てる間に、仔猫達はすぐに大きくなり、やがて減っていった。それが普通の事だと思っていた。
しかし、ある日仔猫の体に異変を見つけた。
少し大きくなった黒い子猫が足を引きずっていた。
他の子猫は、目がつぶれそうになり、鼻水を垂らしていた。
その子猫達と一緒に居たのが、その「シロ」だった。
大きな顔に、大きな体。そして、オッドアイが美しい美猫のシロ。
子猫に先に御飯を食べさせ、いつも子猫に囲まれ一緒に居た。
「ナ」は、母猫かと思っていた位だ。
「ナ」は、その近所のお店の方々と協力し、ボランティア団体さんにも協力して頂き、怪我をしていた子猫と目がつぶれそうな子猫達を捕獲して、治療をした。
幸い、怪我をしていた黒子猫とパステルミケの兄弟は、「ナ」の友人が家族に迎えてくれ、風邪ひき子猫達は、死んでしまった1匹以外は全員新しい家族が出来た。
そうしている間に、シロは居なくなってしまった。
数ヶ月後に、餌場から4ブロック程離れた住宅街でシロを見かけたが、あっと言う間に走り去ってしまった。
そうして、シロは餌場から居なくなってしまった。
それが、ほんの数週間前に、餌場に現れた。
「ナ」は、シロの姿を見て、驚いた。
大きな顔の割りに、体は痩せているのか、お腹が大きく見えた。
そして、右の足先が血で赤く染まってた。
人馴れしていないシロは、すぐに逃げてしまい、毎日居る訳ではないので、なかなか怪我の状態の確認が出来ないまま1週間が過ぎた。
時々、餌場で御飯を待っているシロに、近所のお店の人も御飯をあげていたが、シロの怪我に気が付く人は少なかった。
そして、シロの足先はだんだん黒くなった。
怪我が治って瘡蓋になったのかな…?そう思って、安心していた。
そしてまた数日がたった。
朝、餌場を覗いて、「ナ」は驚き、焦った。
点々と血溜りが続いている。水桶にも、血が点々と付いている。
辺りを探し回ると、それより大きな血溜りも見つけた。
「ナ」はすぐに、Mさんへ連絡をして、状況を説明した。
Mさんは「捕獲機持って、すぐ行く!」と言ってくれた。
午後になって、餌場で薄くまるシロを発見した。
捕獲機がやっと置けるほどの狭い通路にシロは動かないでうずくまって座っている。
Mさんが、マタタビやから揚げで誘っても、少しだけ逃げるそぶりを見せたが、シロは動かない。
隣のお店の方にお話を聞くと、「いつも夕方に出てくる。怪我をしているようだったので、心配していた。捕獲して治療してくれると嬉しい」との事だった。
捕獲機を仕掛け、見守りをお願いし、夕方に戻って来ると、シロは捕獲機の中でじっとしていた。
良かった!これで、治療が出来る!
近所の方にシロの事を伝えて、近くの獣医さんへ急いだ。
そして、シロの足先は、腐敗して黒ずみ、腐敗臭が漂っていた。
捕獲機の中のシロは、体が汚れ、見た目にも痩せていた。
入院し、足先の手術をする事になった。もしかしたら、断脚になるかも知れないと言われ、シロがずっと痛みに耐えていた事を知った。
ごめんねシロ、痛かったんだね
翌日の午前中にシロの手術は行われる事になっていたので、
血がかなり出ていた事を伝え、シロを預けて、Mさんと帰路についた。
帰りの車の中で、Mさんは「大型ケージかな?どう思う?中でOKかな?」と聞いてきた。
あっ…Mさんは、手術後のシロを保護してくれようとしている…。毎度の事ながら「ナ」はMさんの猫に対する思いやりを、改めて感じて、感謝と感動でいっぱいになった。
シロに御飯を上げていた方々にも状況を伝え、明日シロを迎えに行くんだ~と思いながら寝た。
昼近くになって、会社にいた「ナ」にMさんから電話が来た。
Mさん「あのね、今先生から連絡が来て…、シロの心臓が止まったって。今、蘇生をしているけど、未だ戻らないって。」
ナ:{えっ?うそ!ええええ!心臓が??}
シロは、素人目には、一見手先の怪我以外問題の無いように見えたので、心臓が止まったといわれても、すぐには状況が理解でき無かった。
ナ:{すぐに、行きます}と言うのがやっとだった。
Mさんと落ち合って、シロを迎えに行った。
1時間近く蘇生を試みてくださっていた先生も、もう出来る事が無くなっていた。
先生から説明を受けた。
人工呼吸器も付けて、他にも万全の準備で手術をし、出来る限り歩く事に支障が無いように考えて手術をしてくださっていて、手術は終わって、麻酔を覚ますだけの時に、心臓が止まってしまった。
シロの足は、数本の指の先が抉れていて、爪ごと無かった。その部分から腐敗が始まっていた。7~8歳であろうシロの犬歯は折れていて無くなっていた。
多分、このまま放置していても、やがてシロは死んでしまったであろう程の怪我だった。
何度も命を救えなかった事を詫びる先生に、「ナ」もMさんも感謝こそすれ、他には何も無かった。
子猫に囲まれていた時のシロの姿が思い出されて、思わず下を向いてしまった。
そして、先生が「この子、大きく見えたけど、体重が3Kgしか無かった。食べられていなかったようです。足も、怪我なのか、もしかしたら腫瘍が出来てそれが腐って崩れたのかもしれません」
大きな顔をしていたので、体が大きく見えたので、まさか3kgしかなかったなんて!
食べられ無いほど、具合が悪かったんだ…。胸が締め付けられた。
花を買ってきます…と伝え、Mさんと花屋さんへ向かった。
Mさんは、綺麗な花を沢山買って、シロの箱に入れてくれた。
御飯をあげていた方に状況を伝えると…
「3kgしか、無かったなんて…。あの子、此処で産まれ育ったし、未だ母猫が此処にいるから、自分の事分かっていて、最後に戻ってきたのかもね…。シロの為にありがとうね」
「ナ」は、号泣してしまった。
もっと早く、シロを保護していれば、こんな早く猫生を終えなくて済んだのかな?
何故、治ったのかな?なんて勝手な思い込みをしてしまったのか…
悔やんで悔やんで…。辛かった。
Mさんは「全部を救う事は出来ないけど、パナ子のように、救える子もいる。今回シロは救えなかったけど、これからも救う努力をして行こうよ!やれるだけの事はやろうよ!」と言ってくれた。
「ナ」も、次に怪我をしている子が居たら、様子を見ることはしないで、すぐ動こう!と決めた。