この国の生まれではない
こげ茶色の瞳で私を見つめ
「うちはパパがフリンしたんだよね。
だからママと2人なの。
ここにいられるのもあとちょっとなんだ。」
と言いながらブランコをこいでいたあの子は
どこへ行ったのだろうか。
毎日下駄をはいて学校に来て
大人でもとても描けないような精密な絵を
鉛筆一本で描き続けていた
何の話をしても面白かったあの男の子は
いったいどこへ行ったのだろうか。
ふわふわで湿ったあの子の毛は?
しわしわなのにすらりと伸びたあの人の美しい手は?
眼鏡の奥から心配そうに私を見つめる目は?
何度も重ねた肌や
生まれてこなかった命は。
一体どこへ行ったのだろう?
私には、自分の辿ってきた道が
とても地続きだとは思えない。
過去も
未来さえも
まるで別人のもののようだ。
でも同時に
すべては今ここにあるのもわかる。
目に見えるものだけを道標にするには
この世界は
愛おしすぎるんだ。
とてもじゃないけど
抱きしめきれないんだよ。