悪しき心、無垢なる魂 | 猫なでにき

悪しき心、無垢なる魂

たしか私が10才くらいの頃だったと思うが、TVで見た映画のあるシーンに、記憶にやきついてしまうくらいの恐ろしいショックを受けた。

それはこんなシーンだった。

双子の片方の少年が、祖母と一緒にカラスを見つめている。「ゲームをしよう」と言い、カラスをじっと見つめるうちに、いつの間にか少年の視点はカラスと同調し(乗り移り?)、空を飛び風を感じる。
自由に飛び回って疲れた少年——カラスは、畑の藁の近くで羽根を休めていると、農夫がフォーク(藁を集める農具)を手に近づき、一気に串刺しに……その瞬間、少年は自分の体に意識が戻ってくる。汗が浮き呼吸は荒く胸が苦しい……今、彼は「殺される」体験をしたのだ。


自由な空を楽しんでいた情景から、地獄に突き落とされたような暗転。見ている自分も一緒に殺されたような苦しさを感じ、汗がにじんだ。
それは、その物語の顛末そのものを暗示する光景でもあった。

スペイン版ポスター
それは、トマス・トライオン原作の『悪を呼ぶ少年(原題:The Other)』(1972) という映画だった。

当時、姉が買っていた映画誌にこの映画の紹介があったので、映画を見終わってから記事を読んでみた。出演している双子は、二役ではなく、オーディションで選ばれた本当の双子だとのこと。
さすがに10才当時の記憶では、記事内容はこの程度しか覚えていないが、映画の方はしっかりと刻み込まれた。


舞台はコネチカット州のある裕福な農家。そこに双子のホランドとナイルズの二人がいた。
ふたりは「ある秘密」を共有している。それは家の跡継ぎに代々伝わる指輪に関することだ。それは、誰にも言えない二人だけの秘密だった。
しかし、その秘密が他の人間に知られそうになった時……

映画からの一コマ


少年の、現実を直視出来ない弱さ、それに拍車をかける“ゲーム”の能力。
常にひとりでは何も「決定できない」少年が、支配力のあるもうひとりの少年に精神的に依存し、選ぶ道は……。
保護者である大人もまた、なかなか事実を認めることができない。そうするうちに、抜き差しならなくなってしまう。切なく息苦しい物語だ。そして、恐ろしい。

ペーパーバック表紙
少年がどこか心細げなまなざしをむけるこのジャケットは、英語版ペーパーバックのもの。

作者であるトマス・トライオンは役者としても何本かの映画、TVドラマに出演していて、この作品は処女作だという。

発表後ベストセラーとなり、後にスティーブン・キングが自著の中で
「ニューウェイブ・ホラーのキックオフをつとめた三作品」
の一本として絶賛している作品でもある。その三作品の他二作は、「ローズマリーの赤ちゃん」「エクソシスト」である。このことからしても、当時どれだけ評価され、熱狂的に受け入れられたかおわかりだろう。



アメリカ公開時チラシ
しかし、何故かその後、この映画化作品は不遇な扱いをうけている。

同じく映画化された「ローズマリーの赤ちゃん」「エクソシスト」がホラーの代表作として広く知られ、さまざまにメディア展開されているのにもかかわらず、本国アメリカでさえ、DVD化されていないのだ。

それは、おそらくは、本作が「悪魔によって悪事を冒す」のでなく、無垢であるはずの子供自身が、悪そのものなのかもしれない、という衝撃をもたらすからなのではないかと思う。

しかも舞台は都会ではなく、牧歌的な田舎であり、画面的には静かな情景が多い。その分、クライマックスに心に落ちる闇は、よりショッキングだ。


悪を呼ぶ少年
今、なかなかこの映画を観ることはかなわないが、興味があれば原作を読んでみて欲しい。
もっとも、こちらも絶版で、古書店で探すしかないかもしれないのだが。

原作では、とある人物が、過去のある事件を思い出し語る…という導入になっている。やがて、それを語り終え、現実に戻ってきた時、その人物が誰なのかがわかる。事件のあと、どうやって生きてきたのかも。


秋の夜長に、静かな恐怖に身を沈めてみるのも、よいかもしれない。


-----10/20 8:32追記-----
本国でもDVD未発売と書いたが、少々情報が古かったようだ。
2006年10月にようやくDVD化されたらしい!
日本でも是非再評価されて、発売してほしいものだ。





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