お爺ちゃんの大冒険 | 猫なでにき

お爺ちゃんの大冒険

日差しがあるとまだ暑いが、風は随分秋らしくひんやりとしてきた。
電車に乗っていても、空調や人の服装に秋を感じる。

あれもこんな気持ちいい秋の日だったなあ…と、1年前のある出来事を思い出す。

その日、秋晴れの空が気持ちよくて、銀座にでも行くかとぶらぶら出かけてきた。
アップルストアを冷やかしたり伊東屋で文具にうっとりしたあと、数寄屋バーグでランチを食べ、一通り満足して

「さあ、日の高いうちに家に帰ろうかな♪」

と、有楽町駅に向かった。
横浜方面行きの電車にのり、いつもの駅で降りる……はずだったのが、ここで予想外の出来事が。

席に座ってうつらうつらしていたら、横に座っている爺さま達の会話が耳に入った。

「だから、どこ行くのあんた」
「うんうん。小岩。」
「小岩ってぇ、あのね、この電車、そんな駅いかないよ」
「うんうん。大丈夫。これ持ってるから」
「それ東京都シルバーパスでしょ。あのねえ、こっから先、神奈川だよ?」
シルバーバス(見本)


←こういうの。
 都内のバスや都電等で有効。
「大丈夫。これあるから」
「大丈夫じゃないよ、まいったなぁ……僕は川崎で降りないといけないし、あんたも一緒に降りて、反対方向乗り直しなさいよ」
「こんなことで降りたら、とんでもないことになっちゃう」
「うーん…まいったなあ」

電車は川崎に着くところ。
このままではちょっとボケてるらしいこの爺さまが一人残されてしまうらしい。

うー…………仕方ない。



「あのー私、時間の余裕ありますから、お爺さん連れていきますよ」
お節介虫こんにちは。




そんなわけで、爺さま連れの珍道中と相成った。
案の定この爺さま、素直に川崎で降りてはくれない。そうこうするうち扉は閉じて、次の鶴見でもまだ降りない。

「これ(東京都シルバーパス)、あるから。親切ありがとうね、大丈夫」
「いやでもね、この先横浜ですよ。神奈川なんです。お爺さん、どこにお住まいですか?」
小岩にいくの。新小岩の次。あ、ほら(と笑って指さす) 新小岩だ」
「違いますよ、あれは新子安
「うん、新小岩。次だよね」
「(違うんだけどなー;;)そうですね~次で降りますよ、ね。私も一緒に降りますから」

着いた東神奈川で、他の乗客の方が呼んでくれた駅員さんも手伝って、なんとか電車から降りてもらった。

爺さまが持っていたシルバーパスに自宅の電話番号があったので、電話をかけてみると奥さんが出た。昼前に外に出てから戻ってこないので、心配していたという。今、神奈川だというと、ビックリしていた。そりゃあそうだよなあ。

奥さんに一通りの説明をして、最寄り駅を教えてくださいというと「新柴又」だという。北総線の駅らしい。
駅員さんから乗り継ぎを教えてもらった私は、爺さまを連れてまた向かいホームへ。
帰る車中で、ひとつひとつ駅を戻っていくうちに、少し、間違えた方向へ来ていたことを自覚した様子で、

「あなたがいてくれなかったら、とんでもないところへ行くところだったねえ。千葉の向こうへいっちゃうとこだったねえ」

……うん、まだまるきり間違ってるけどね。
千葉と神奈川はまったく逆方向だからねー。でも「間違ってる」と自覚してくれただけいいか。

とりあえず、一緒にいるから大丈夫、駅に着けば奥さんが迎えに来てくれるからね、と励ましつつ、手をにぎると、うん、うんと頷く爺さま。

各駅停車で、乗り換えつつゆっくりゆっくり1時間半くらいかけて、新柴又に到着した時には5時をだいぶ回っていた。外はもう夕暮れだ。

改札の外には、爺さまの奥さんが心配そうに待っていた。

「すみません、わざわざ遠くから……どこまで行ってたんですか? この人は」
「ええ、横浜駅の手前まで(にっこり)」
「そんなところまで、どうして!(と、爺さまに向かって)
 どうもすみません、これたいしたものではありませんが…」

「あ、どうも~。ありがたくいただきます(^^)」

と、私は奥さんから紙包みをいただいた。ここは遠慮しないでおこう。

奥さんは案外しっかりした感じだったので、ちょっと安心(^^)
でも毎日大変だろうなあ……。


そうやってやっとこ自分の家に帰り着いた時には、7時過ぎになっていた。
秋晴れに誘われた朝からはじまり、長い一日だった。


爺さまの奥さんに戴いた包みの中には、
いただきもの
お菓子と飴が入ってた(*^_^*)
お駄賃って感じ。ほのぼの。

今は爺さまどうしてるかな。こんな天気の良い日には……また冒険にでかけてるんじゃないだろうか。
爺さまの行く先々に、今日も良い人がいますように。




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