遙かなるトラキムブロド | 猫なでにき

遙かなるトラキムブロド

写真を見るジョナサン
ジョナサンは、ある日病床の祖母から、祖父の若き日の写真を受け取る。

「あなたのコレクションに加えてちょうだい」

そこには、今の自分によく似た祖父と、見知らぬ若い女性が並んで写っていた。その人は祖父の命の恩人なのだという。


イライジャ・ウッド主演の『僕の大事なコレクション(原題:Everything Is Illuminated)』(2005) は、ユーモラスで、やがて胸にじわりと染みてくる映画。主人公のジョナサンは、かっちりとした背広と分厚いメガネのユダヤ系アメリカ人。一般的なアメリカ人の若者とは違う、ちょっと変わった青年だ。

イライジャ・ウッドって、本当にこういう「個性的」な役どころにハマる役者だと思う。
なまじ「指輪」で顔が売れてしまっただけに、変ないじり方されると嫌だなあと思っていたが、どうしてどうして、本人が一番「判って」いるのかも。いいなあ、七三分けに黒縁ビン底メガネ。

壁一面のコレクション
彼は、家族に関する様々なものを集めている、ちょっと風変わりな自称“コレクター”なのだが、集め方がかなり変態的でよろしい。
部屋の壁一面に、コレクションが貼り付けてある画面が圧巻。

ジョナサンは、祖父の形見のペンダントと写真を手にウクライナへ飛び、トラキムブロドというどこにあるかわからない村を探す旅にでた。そこは写真が写された場所なのだという。

案内人アレックス
通訳兼ガイドのアレックスは、ブロークンな英語しか話せない“イマドキの”若者。

彼の憧れはマイケル・ジャクソン。“ニグロ”は黒人を尊敬する言葉だと信じている(!!)

アレックスの祖父
車を運転するアレックスの祖父は「わしは目が見えないんだ!」という頑固老人。(明らかに見えているんだが……)
爺さんはユダヤ人嫌いだという。

アレックスの祖父の犬
そして、爺さんの愛犬サミー・デイヴィス・Jr.Jr.(挙動不審犬

爺さんが目が見えないと言い張るから、保健所から貰い受けてきた「盲導メス犬(Seeing Eye bitch)」
アレックス曰く、「ちょっと頭がおかしいけどね」

ようするに、主要人物(+犬)が皆、一筋縄ではいかない。

通訳といいつつ、かなりいい加減な英語をあやつるアレックスと、それに戸惑う生真面目ジョナサンと、頑固爺さんの噛み合わなさ加減がかなり可笑しい!
言葉が通じない上に通訳がいいかげんだから、旅も行き当たりばったりに進んでいく(ように見える)。

名前間違っても平気
まず、基本的にジョナサン(Jonathan)の名前から間違っているんだな。陽気な彼は、全然気にせずに

「ジョンファン(Jonfen)!」

と呼ぶ。最初は訂正してたジョナサンも、諦めてしまう(笑)
そして、車に乗り込もうとすると、
後ろの座席に「犬」今度はサミー・デイヴィス・Jr.Jr.に威嚇されてしまい、犬が苦手だと主張しても、運転手である爺さんに

「そんな人間いるわけない」

と一蹴されてしまう始末。雇い主なのに妙に立場が弱いのもヘンで面白い。

肉は食べられない
田舎ホテルのレストランでは

「ベジタリアンだから肉のない料理を」

“ベジタリアン”が何か理解できない二人は

「何故肉を食べない? 体が悪いのか?」

キョトンとジョナサンを見つめる。
“ベジタリアン”って、アメリカ的文化だったんだな…。

アレックスもイイが、この頑固じいさんが非常にイイ。小さい目をショボショボさせた自称「目が見えない」爺さんの表情には、それ自体に歴史を感じる。

そんな風に、本来だったら絶対一緒に行動できない“異文化”な彼ら3人が(若いアレックスも、爺さんにとっては異文化の人間同然だ)共に旅するうちに、それぞれの心持ちに変化が起きてくる。
特に、ある時点からの爺さんの様子の変化に、アレックスも戸惑いと不安を感じる。

ひまわり畑の一軒家
彼らがこの旅に疲れを感じ始めた頃たどり着いたのは、見渡す限りのひまわり畑の中の、古ぼけた一軒家。

この一面のひまわり畑を見て、ソフィア・ローレンの『ひまわり』を思い出す人は多いんじゃないだろうか。同じロシア、ここも、かつて戦場だった場所なのだ。


その家には…
そして、そこにはいまだに終わらない戦争の時代を生きている、ひとりの老女がいた。

家の外には沢山の洗濯物。
でもそれは、なにか寂しい風景でもある。一人暮らしの一軒家で、老女は誰の為に洗濯を続けているのだろう。

「ここがトラキムブロド」
ジョナサンが探す「トラキムブロド」とは、どこなのか。何故、爺さんはこのひまわり畑へジョナサンを連れてきたのか。


過去の残像
その謎が明かされ、ジョナサンが祖父の過去を知る時、それはアレックスの爺さんの過去がよみがえる時でもあった。

爺さんが心にしまって生きてきた、忘れることのできなかった過去が。

それは、アレックスにとっても、知らなかった自分のルーツと、知らなかったウクライナの悲しい歴史と向き合うことでもあった。




この、ユーモラスな中に重いテーマを抱えた、しかし見終えたあとに爽やかさを感じるこの作品は、ある俳優が同名の原作小説に惚れ込んで作った、初監督(兼脚本)作品だという。鑑賞後にそれを知って驚いた。

確かにインディペンデンス配給だし、どちらかといえば地味な作品だが、これは良作だ。いや、傑作といってもいい。多分に私の趣味的評価だとしても。これが監督第一作とは!
一体、誰が撮ったんだろう?

主演二人と監督

写真左から、アレックス役のユージン・ハッツ、ジョナサン役のお馴染みイライジャ・ウッド、そして監督のリーヴ・シュライバー。

この顔を見て、海外ドラマ通ならばアッと思うだろう。リーヴ・シュライバーは、映画やTVドラマで活躍する達者なバイプレーヤーで、つい先日日本初放送のCSI:科学捜査班7ではマイケル・ケプラー捜査官役をやっていた。その印象的な顔と演技は、シリーズ屈指のエピソードで輝いていた。

いい役者が、いい監督でもある、というのは、なかなか楽しい“発見”だった。

まさに、

Everything Is Illuminated !


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