美術館は秘密の隠れ家 | 猫なでにき

美術館は秘密の隠れ家

クローディアという、もうすぐ12才になる女の子と、その9才の弟ジェイミーの二人がどんな冒険をしたのか、知っているだろうか?
彼らは、ニューヨーク郊外の町、グリニッジ・ヴィレッジに住んでいるごく普通の子供たち。バイオリンとトランペットのケースをトランクにして、彼らはある場所へ「家出」した。

児童文学作家、カニグズバーグの名著「クローディアの秘密」は、ちょっと好奇心旺盛な、どこにでもいそうな二人の姉弟の冒険物語だ。
彼らは、家出の隠れ場所を、都会の真ん中にある、誰でも知っている美術館……メトロポリタン美術館に決めたのだから、わくわくしないわけがない。

賢明な人はもうお気づきだと思うが、いろんな人の心に残っているあの曲、「メトロポリタンミュージアム」は、この物語の場面から発想されている。
バイオリンのケース トランペットのケース
トランクがわりにして 出発だ

大貫妙子が作詞作曲したこの曲は、背景に使われた岡本忠成氏
のストップモーション・アニメも重要な要素になっている。

このアニメーションは、「クローディアの秘密」の他に、1973年の映画『クローディアと貴婦人(邦題)』に影響を受けていると思われる。

クローディアと貴婦人1映画でも、子供たちの冒険が生き生きと描かれている。
これは実際のメトロポリタン美術館で撮影を許可された、初めての映画だったそうだ。いかに原作が愛され評価されているかが伺える。

メトロポリタン美術館にうまく隠れ住んだ彼らは、古いけど豪華な寝台で眠り、中庭の広い噴水の池でお風呂を使い、コインランドリーで洗濯し、お腹が空けば、メイシー・デパートで試食をするのだ。

なんて、わくわくする冒険! 子供が憧れる(大人だって憧れる)これぞ冒険!
しかも、誰も彼らのいることに気がつかないんだから。

クローディアと貴婦人3クローディアは夜の美術館をあるいて探検をするうち、倉庫にきたばかりの美しい天使の像を目にする。

そう、ここで曲のシーンを思い出してほしい。
冒頭、女の子に話しかけてくる天使の像、これがその像だ。


クローディアと貴婦人5この天使の像が重要な役割をするのだが、物語はカニグズバーグの創作なので、この天使の像も架空のもの。つまり、この映画の中にしか、視覚的なサンプルはない。
アニメーションの方も、この像をモデルにしているのではと思うのだ。

曲の背景も、クローディアが夜の美術館を歩き回るシーンが主な舞台になっているが、最後の「大好きな絵の中に…」という部分は、物語の核となる部分にからめてあるように感じる。(もちろん原作では絵の一部にはならないし、問題の「絵」も違うけど)

クローディアと貴婦人6
クローディアはこの像にすっかり魅了されてしまう。
どうですこの表情! 彼女は特別美人でも可愛くもない、普通の子。でもこの表情はちょっといい。

なんでもこの映画を、この女の子が「可愛くない、魅力的じゃない」という理由でよくないと評価してる人がいるようなのだが、とんでもない。顔立ちが可愛くないと、魅力的じゃないだろうか? ここにいるのは、とてもリアルな女の子だ。悩み、傷つき、行動し、何かを得るのだ。どこが魅力的じゃないんだろうか。
それに、カニグズバーグの作品に、外見ばかり人目をひくような可愛らしさは似合わない。

クローディアと貴婦人7
「天使像の秘密を知りたい」という気持ちに押されて、クローディアはとうとう元の持ち主であるフランクワイラー夫人の家を訪ねる決心をする。これまでの楽しい冒険を全部あきらめても、そうしたいと思ったのだ。

クローディアと貴婦人11
ちょっと気むずかしげな女主人、フランクワイラー夫人を演じているのは、あの名女優イングリット・バーグマン。威厳ある態度で子供たちに接する彼女の表情の変化も見所だ。
夫人は、子供たちの冒険心を読み取って、厳しく、でも実は優しく、彼らに接する。


イングリット・バーグマンは当時60才くらいなので、映画では実年齢よりも老けたメイクをしている。フランクワイラー夫人は80才を越えているのだ。

「秘密」について、映画の中でフランクワイラー夫人がこういう。
秘密ってものは心の中でじっくり育てるものよ 長い時間をかけて
じゃないと単なる情報にすぎず 風のように去って魂には何も…

クローディアと貴婦人9
クローディアはこの冒険の終わりに沢山のことをまなぶ。素敵なかけがえのない秘密をわかちあう大切さを。子供時代にも、そしてたぶん大人になっても(フランクワイラー夫人ほどになっても!)、秘密がどんなに大事な宝物なのかを。

1週間の家出生活の最後で、きっとふたりは少し成長したに違いないし、フランクワイラー夫人もまた、何か今までと違うすがすがしさを感じている。

原作も良いし、映画もまたよい。
そしてそこからうまれたあの名曲。
よいことづくしを、味わってみるのもたまにはいいね。

しかし残念なことにこの映画、日本では劇場未公開で過去にビデオ販売されたことがあるのみだ。良作が日の目を見ない典型だと思う。
今回の紹介も、以前に深夜放送されたものを鑑賞。
バーグマン作品としてでも、どこかのメーカーが拾い上げてくれるとよいのだが。

しかしこの作品を観ると、実際のメトロポリタン美術館に隠れてみたいと思ってしまうのは……仕方ないよね?



クローディアの秘密
E.L.カニグズバーグ作
松永ふみ子訳

クローディアの秘密



蛇足だが、私はみんなのうたの「メトロポリタンミュージアム」を怖いと思ったことはないので、そういう意見が新鮮だ。
ファンタジックであり、示唆に富んでいるとは思うのだけど。


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