芸能人の方が税務調査を受け、設立した会社が過去3年間全く申告をしておらず、所得隠しもあったということで、無申告加算税や重加算税が課されたという報道がありました。

 

憲法30条に規定する「納税の義務」を果たしていないので許されることではありません。

 

芸能人は個人事業主に該当する場合が多いので、事業所得として確定申告をする必要があります。

(今回の方の事案は個人の所得税率が高いので、節税目的で法人を設立していました)

 

事業所得者の所得隠しと聞くと、「クロヨン(9、6、4)」「トーゴーサンピン(10、5、3、1)」という言葉が頭に浮かびます。

 

これは、課税庁による所得捕捉率を面白く表したものです。

 

サラリーマン、OLなどの給与所得者は、源泉徴収制度により9割(10割)方課税庁によって所得を把握されるのに対し、事業所得者は6割(5割)、農業等所得者は4割(3割)、政治家に至っては1割ということを意味しています。

 

事業所得者は自分で収入・経費を集計して確定申告するわけですが、あくまで申告納税方式に基づくため、課税庁が全ての所得を漏れなく把握することは難しく、昔からその捕捉率は5~6割と言われてきました。

 

給与所得者はその所得のほとんどが捕捉されるわけですから、事業所得者の捕捉率が低いことに理解が得られないところがあります。

 

給与所得は収入金額から給与所得控除を引いて計算されますが、この給与所得控除は概算経費としての意味合いを持っています。

(サラリーマンが仕事に必要なモノは会社が全て用意してくれるとの考えから、概算経費を給与収入から控除しています)

 

事業所得の捕捉率の低さに加え、事業所得には実額経費の控除が認められているのに、給与所得には実額経費が概算経費(給与所得控除)を上回った場合でも給与所得控除しか控除できないことは不公平であると争われた裁判があります(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集第39巻2号247頁(大島訴訟))。

 

結論としては納税者敗訴でしたが、裁判官の補足意見が興味深いものとなっています。

 

以下、そのポイントを記載します。

 

(租税負担の差について)

「納税者割合、課税所得割合の較差のある程度の部分が実質的な所得の差に基づいていることは否定できないとしても、その少なからぬ部分は、源泉徴収及び申告納税という徴税方式の違いを主因とする所得捕捉の不均衡や、各種の租税優遇措置によるものと考えられるのであつて…事業所得者の租税負担が給与所得者のそれよりもかなり低くなつており、しかもそれが特定年度における特異な現象ではなく、相当長期にわたつて継続しているというものができ、この点が給与所得者に対し租税負担の不公平感を抱かせる原因となっているものと考えられる…租税負担について給与所得者層の持つ不公平感は無視し得ないものとなつているのが実状であつて、その是正に向けての早急かつ積極的な努力が払われなければならないものと考える。」(裁判官木戸口久治の補足意見、下線は筆者)

 

(給与所得者の実額経費控除について)

 「一般論としては、給与所得者の必要経費の実額が給与所得控除の額を超える場合の存する可能性がないとはいえず、超過の程度が著しいときは、給与所得に係る課税関係規定の 適用違憲の問題が生ずることになると考えられる…また、右の超過の程度が著しいとはいえないときであつても、超過額の存する限り所得のないところに課税が行われる結果となり、それが直ちに違憲の問題を生ぜしめるものではないとしても、純所得課税という所得税の基本原則に照らし、安易に看過し得ないものといわなければならない。したがつて、右のような課税が行われることがないよう、給与所得者にも必要経費の実額控除を認め、概算控除と実額控除とのいずれかを任意に選び得るという選択制の採用の問題をも含めて、給与所得控除制度についての幅広い検討が期待されるところである。」(裁判官島谷六郎の補足意見、下線は筆者)

 

あくまで補足意見ですが、事業所得者と給与所得者の租税負担の是正に努める必要があること、給与所得者にも実額経費の控除を認めてもよいのではないかということが述べられています。

 

この大島訴訟を受けて、昭和63年に給与所得者にも実額経費控除を認める「特定支出控除」の規定(所得税法57条の2)が創設されましたが、特定支出の範囲が限定されており、さらに、特定支出の合計額が給与所得控除額を超えた場合しか適用できなかったので、導入当初この制度を適用できる給与所得者は相当限られていました。

 

そこで、平成25年に弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費、勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費等)が特定支出の範囲に追加され、平成28年には適用判定の基準が給与所得控除額の2分の1を超える場合に緩和されました。

 

また、令和2年以降は、勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅行で給与の支払者により証明された通常必要な支出(職務上の旅費)も特定支出になります。

 

参考:給与所得者の特定支出控除(タックスアンサーNo.1415)