頭の中の湖

 

 


なつみの頭の中にはきれいな湖があった。

澄んだお水が静かに満ちる湖だった。




なつみのアウトラインをなぞるように頭から額へ、いいこいいこねと撫でると、細い髪の毛と薄い皮膚のむこう側にあるほねのかたちが、わたしの頭の中に描画される。


でこ、ぼこ。ごつ、ごつ。

とがってるところ、カーブを描くところ。


凹凸の多い複雑な感触が手のひらや指の腹を通して伝わる。


頭蓋骨どうしのあいだが開いている。すきま。骨のふちのぎざぎざを指先で感じて、すきまの大きさを確かめる。こんなに大きくすきまが開くんだなぁ。


骨を押し広げて勢力拡大し続ける水の存在について思いを巡らる。なつみの傍にいるとき、わたしはしばしば水について考えていた。




ちゃぷん。










なつみの頭は日増しに大きくなっていった。


見た目の大きさからもわかる通り、普通の子よりもかなりたっぷりと、何かがなつみの頭の中にある。なつみの頭を内側からじわりじわりと押して、風船がふくらむみたいに頭を大きくさせていた。



何かの正体は髄液。

脳室のなかに生まれた大きな湖。


 

髄液は体のなかでいちばんきれいな水とされている。成分のほとんどは水で、不純物がとても少ない。

以前、なつみの頭から抜いた液体を見せてもらったことがある。色味はごくわずかあるかないか、暗め黄色っぽい色が、うすーくあるように見える…とても透明度の高い液体だった。


通常であれば、髄液というものは毎日どんどん作られて循環して流れていくのだけれど、なつみの場合はなんらかの原因で、循環しきらず脳室の中に溜まってしまうみたいだった。


わたしよりも、夫よりも、大きな頭。

なつみの大切なからだの一部。

愛おしくて、抱きかかえたくなる頭。


安室奈美恵のウエストを軽々と超えて最後はゴジラ松井の頭囲すらも超えていた。


赤ちゃんはもともと頭の骨と骨がくっついていない。だから湖が大きくなっても、骨を広げて圧迫していても大人と違って頭痛はしないそうで、それだけは幸いだった。





なつみの頭の中には湖があった。


わたしはあの湖のことを、目にした水の色を忘れないと思う。なつみが見せてくれた景色。特別な湖。