「お母さーん!」



「お母さん!お腹減ったー!」



「お母さーん!どこー!?」



「お母さーん!」






「ここよー!」



「またそこにいたんだー!お腹減ったよー!」



「ごめんごめん!ちょっと待って!お水あげてからね!」



「お母さんは僕の事よりいつもそればっかり世話してるんだからー!」



「何言ってるのーこれはとても大事なものなんだからねー!」



「それってそんなに大事なの?」



「そう!とっても大事!」



「なんでそんなに大事なの?」



「これには思い出がいっぱいつまってるんだよ!」



「思い出?」



「そう!お母さんとお父さんとの思い出!」



「ふーん、じゃあ大事なんだねー……それよりさぁ!お腹減ったよー!」



「よし!お水もあげたし、お昼にしよっか!」



「早くしてよ!お腹が減って死にそうだよ!」



「もう!大袈裟なんだからーすぐ作るから待っててね!」



「早くしてね!」



「はーい!」



「で、お母さんあれってなんて名前なの?」



「あれの名前?まだ知らなかったっけ?」



「うん、知らなーい。教えて」



「あれはね、サクラ草」



庭に咲いている一輪の花。



私が一番大事にしている花。



思えばこの花が私をいっぱい励ましてくれた。



今でも大事に育ています。



あなたとの約束を守る為に…



「ねぇ…お母さん!サクラ…草にはどんな…思い出がつまってるの?」



「汚いわねーちゃんと飲み込んでからしゃべってよ!」



「…ゴク。サクラ草の話教えて!」



「まだ話してなかったね。あれはね…」









キーンコーンカーンコーン。



「元気だしなよ!」



「グスン…」



「そうだよ!元気だしな!」



「…」



「だいたいさー男にフラれたぐらいでさーそんなに落ち込んでどうすんの!」



「ダッテ…」



「だってじゃないわよ!全くもう!毎回毎回泣きすぎ!」



「ソンナコトイッタッテ…」



「泣きすぎで片言になってるじゃない!」



「グスン…」



「初めての事じゃないんだし、もう元気だしな!」



「そうだよ!きっとまた新しい人現れるよ!」



「現れてもまたフラれるでしょうけど!ハハ」



「ビエーーーン!」



「ちょっちょっ!嘘だって!嘘だってば!」



今回で5回目。



最初の人は付き合って1ヶ月で別れた。
理由は家が遠いから。



その次は付き合って一週間。
理由はやっぱり好きじゃないから。



その次は5日。
理由は他に好きな人ができたから。



その次は2週間。
理由はすぐに泣くから。



そして今回は初めて半年続いた。今回は幸せになれると思ってた。絶対に絶対になれると思ってた。



理由は浮気。



信じられない。



男なんて男なんてみーんなバカなんだから!!!


って言える強さがあったらな…



「泣かないの!どーせまた好きな人すぐできるんだから!!」



う…



図星。



さすが友達。私の事すごくわかってる。



でも中学から高校3年までで5人の人と付き合ったけどぜーんぶフラれてる。



やっぱり私って魅力ないんだろうな…



幸せになるって難しいな。



「まぁ、3年になったばっかりだから次に現れる素敵な人に期待しよーよ!」



「ウン…」



「野球部のキャプテンの人なんてどう?」



「あれはヤバいね!」



「ダメもとであれぐらいの人にアタックしたら?」



「グスン…でも、私フラれたばっかだし…」



「何言ってんの!?あきれた!あんたフラれてもう2ヶ月たってんだよ!」



「グスン…」



「いつまで未練タラタラなのよー!」



「そろそろ新しい人見つける準備しないと!」



「グスン…」



キーンコーンカーンコーン。



担任の先生が入ってきた。朝のホームルームは、いつものセリフで始まる。



「早く席につけよー!…よーし、出席を取るぞー!赤井…」



クラスの一人一人がそれぞれのトーンで返事をする。



「次、那須!」



「ハイ…」



今日も泣きながらのホームルームだった。



そろそろしっかりしないと私もダメだな…



「…の具合はまだよくならないみたいだ。時間があったらみんなもお見舞いに行ってあげてくれよ!」



私の後ろの席。ちょうど教室の窓側の一番後ろの席。



3年になってから一度も登校していない人。



体の具合が悪いみたいでずっと入院しているらしかった。




「じゃあ今日も1日勉強に励めよー!」



体育担当の担任の声はいつ聞いても元気で、私はすごく羨ましかった。



「那須…那須…」



私の隣の席の男子。サッカー部でとても爽やかな人だった。



「昨日の英語のノート今のうちに見せてくんない?」



「うん、いいよ」



「サンキュー!」



いつも明るくてクラスの女子からも人気だった。


爽やかって漢字から、みんなに爽(ソウ)って呼ばれてた。




ソウは私の友達が片思いしている相手でもあった。



いつも私とソウがしゃべった後の休み時間に…



「ねぇねぇ!ソウと何しゃべった!?」



それはヤキモチじゃなくてソウの情報をただ仕入れる為の質問。



「ソウくんに昨日のノート見せてって言われただけだよ」



「私に頼めよなー!席替えがあったらソウの隣になりますように…」



私の友達でソウに片思いしている人。



活発でとても頼りになる女の人。女子からも男子からもリーダーって呼ばれてる。



リーダーとは小学校からの知り合い。私がフラれた時にいつも慰めてくれるうちの一人。



そしてもう一人の友達。


「うわー!英語の教科書忘れてきちゃった!ヤベー!」



ちょっと見た目はヤンキーチックだけどすごく友達思いのとってもいい女の人。怖がる女子も多いけどみんなからは、姉さんって呼ばれてる。



姉さんとは中学からの付き合い。



姉さんはマルと付き合ってる。



マルは私の席のちょうど反対側、廊下側の席。



ガッチリした体で目がマンマルだからマル。



とってもお似合いの二人だった。




続く。