激しさはない。
しんしんと降る雪だった。
これで明日は朝から除雪をしなければならないなあ~。
少し憂鬱な気分になりながらも、久しぶりに乗った路線バスに揺られながら私は家路へ向かっていた。
自分で運転するというストレスから逃れる事ができる。
それだけでもありがたい、たまにはバスもいいじゃないか。
乗車する客たちは誰もが、頭から肩に雪を乗せている。
効きすぎなほどにうなりを上げるバスの空調と、過剰なほどの水分を蓄えた乗客のせいで車内は高温多湿の状況になっている。
窓には外が見えにくいほどの結露が発生している。
座席はほぼ満席。
車内では2人の女子高生が吊革にぶら下がりながら、楽しそうに話している。
憂鬱な天候の事など、微塵も気にしていないようである。
若いとはそういうことなのであろう。
やがて、そのうちの1人が降車する、
またね、、明日ね~
と、声が聞こえた。
バスから降りた女子高生と、車内に残ったもう一人が手を振りあっている。ゆっくりとバスが発進しようとする。
その時だった。
奇跡が起きたのである!
車内から手を振っている女子高生の前に座っていた老人が、、、
何を思ったか、外から手を振っている女子高生にゆっくりと手を振り返し始めたのである。
車外の子も車内の子も、ビックリした表情をみせている。
私も、同じく驚いた。
な、、、なんだ、、このお爺さん!
降りた女の子はあんたに手を振ってるんじゃないぜ~!
よく見れば、このお爺さんは窓にぎっしりと着いた結露を手で拭っているのである。
しかし、そのタイミングがあまりにも絶妙すぎたのだ。
やがてバスは発進し、いつもの風景に戻るのだが、残された方の女子高生が必死になって笑いをこらえている。
お爺さんはまだ結露を拭っていた。
完
短い小説を載せました((笑))
今年はこれで納めます、病気から復活出来て内容の濃い日々を過ごせました。
これもひとえに皆々様のご尽力の賜物でございます。
深く感謝申し上げます。
皆様、どうぞよいお年をお迎えください。
そして、笑顔で来年お会いしましょう。
熊おやじ。