かつてフィルムカメラの規格に「110フィルム」というのがありました。普通の35㎜フィルムが「135フィルム」、中判カメラ用のいわゆるブローニーフィルムが「120フィルム」または「220フィルム」というのが規格の呼称ですがそれらと同様です。

ロールフィルムであることは135フィルムと同じですが、カートリッジが未露光の送り出し側だけではなく露光済の巻き取り側にもあって、フィルム交換が簡単にできるのが特徴でした。

規格を作ったのは米国コダック社でフィルム装填の失敗の無い規格として新しく作られました。1970年代の中ごろのことでした。当初はポケットサイズの簡易なカメラだけでしたが、日本やドイツのカメラメーカーは高級な仕様の製品を開発・販売しました。

日本では、ミノルタカメラ、旭光学(PENTAX)、富士フィルム、キヤノンの各社が熱心だったように記憶しています。主要なメーカーでは日本光学工業(Nikon)とオリンパスは最後まで製品を出さなかったと思います。

さて、そうした中でミノルタカメラと旭光学は一眼レフ仕様の110カメラを開発・販売しました。旭光学は「うちは一眼レフしか出さないからね」というポリシーでしたから(後にAF時代になってからコンパクトカメラも出した)、ブローニーのアサペン6×7と主力の35㎜判のKシリーズに加える形で『auto110』を出しています。

一方、ミノルタには一眼レフに拘る事情は無かったと思いますが(透視ファインダーの機種も販売)、カメラメーカーとしてのステータスを示そうとお考えになったのでしょうか、この記事で取り上げる『MINOLTA 110 ZOOM』を発売しました。一眼レフカメラではあるもののZoomレンズ固定式でレンズ交換はできません。後により一眼レフカメラらしいデザインのMarkIIモデルを発売しましたが、そちらもZoomレンズ固定式でした。

同じ時期に販売されていた35㎜判一眼レフカメラ『Minolta XE』と並べてみたところ。『MINOLTA 110 ZOOM』のボディはプラスチック製ですが、シャッターボタンやアクセサリーシューの部材は『XE』と共通の様で高級感があります。ちなみに『Minolta XE』は『LEICA R3』のベースになったカメラでもあり、別にファインダー交換可能なハイエンド機『X-1』があったものの事実上、ミノルタの最高級機でした。

この個体はネットオークションで3.5k円で入手しました。一応シャッターは切れるものの動作保証なしという条件でした。実のところ半世紀も前のカメラですから動く方が不思議なのかもしれません。実際に撮影をしてみましょう。当然、フィルムが必要ですが、最近、ロモグラフィーが110フィルムを出してくれています。3本セットで2k円程度なので35㎜フィルムに比べたら全くリーズナブルです。

現在のデジタルカメラから見たら誠にシンプルな構成のカメラですが、操作説明書も別途入手していたので見ながらフィルム装填をします。このカメラは絞り優先自動露出(『A』モード)なので電池が必要ですが、現在でも普通に入手可能なアルカリ電池『LR44』で動作可能です(本来は銀電池『G13』が指定されているが製造されていない)。

フィルム装填はポンと入れるだけなので簡単です。ちなみのこの個体は機械シャッターの『X』が故障していてシャッターが開きませんでした。一方、電池を入れたら電子シャッターの『A』モードは撮影可能でした。普通は逆なんですけれどもね。

さて問題が一つあります。このロモ製のフィルムの感度はパッケージに記載の通りISO200なのですが、110フィルムの規格ができたときはISO80~100のフィルムしか無く、このカメラもフィルム感度設定はできません。つまり自動露出では1~1.5段程度オーバー露光になってしまいます。リバーサルカラーフィルムなら致命的ですが、ネガカラーフィルムはオーバー側に2段程度まではラチチュード(露光許容範囲)があるので、そのまま撮影することにしました。あとで取扱説明書を熟読すると露出補正ノブが付いているので次回はマイナス補正して写すことにしたいと思います。

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九段の靖国神社に東京の桜の開花の標本桜を見に行ってみました。

やはり露光はオーバー気味でネガはかなり濃く仕上がってきました。頑張って補正をかけてこの程度ですが、逆光気味なのも影響しています。

桜の傍まで来ました。

うん、なかなかいい感じに撮れています。このカメラは110カメラとしては最高級機ですからこのぐらい写って当たり前? 現像をしてくださった写真屋さんもよく写っていますね~とびっくりなさっていました。

屋根の形とかとてもシャープです。

大鳥居。これはオーバー露光を補正しきれませんでした。

拡大してみると『砲兵工廠』の文字が鮮明に読み取れます。

レンズにカビが生えているので逆光は厳しいですね。

ちょっとマゼンタが被ってしまいましたが、桜が奇麗に撮れました。

なんとなくロモっぽい。

マクロ撮影モードも付いているのですがピント合わせが至難の業。

池袋の駅前の『イケフクロウ』のモニュメント。フレームの外側にも白っぽくなった画像の続きが写っています。ロモが想定しているフレームサイズよりもこのカメラのフレームが広いようです。たしかにパーフォレーションの穴の位置よりも上まで画像が写っているのでロモの方が正しい感じですね。

桜並木。 レンズの書店距離は、25mm~50㎜なので110カメラとしては標準~望遠といった画角になります。少し広い範囲を写そうと思うとかなり手間に引かないと画面に入りません。時代的に広角のズームレンズはまだ難しかったのでしょうかね。

このカメラのファインダーには焦点板にマイクロプリズムが付けられていますが、画像を見てピントを合わせるのは至難の業で、結果的には目測でピントを合わせざるを得ませんでした。

卒業式を終えた女子学生さんたちが、大正ロマン風のいでたちで靖国神社の境内を歩いていたのでとっさにシャッターを切りましたが、見事にピンボケでした。

 

画像のデジタル化は少々てこずりました。最終的には、田宮模型製の0.4mm厚の透明プラバンを短冊状にカットしたもので挟みニコンのスライドデュプリケーターDE-1に差し込んで写しました。光学ガラスではない普通のプラスチック板なので細かいキズなどがあり、鮮明とまでは行きませんでしたが、様子を確認するには十分でしょう。