みんなドラマチック | 本日もしらたま日和

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冴えない人妻(無職)の冴えない日常を殴り書いています。

そう

とりわけ感じるのは





電車や車の窓から外を眺めるとき。






マンション、アパート、マンション、マンション、一軒家、一軒家、マンション






ものすごい数の人が暮らしていて





でも

一生、すれ違いさえしない人がほとんどなんだろうと思う。





総武線。

向かいの席ではおばあちゃん手前のおばちゃんふたりが盛り上がっている。



隣では、じいさん手前のおっさんが、ちょっと煩そうに顔を顰めている。





おばちゃんのひとりは


目鼻立ちくっきり。若い頃は、相当美人だったんじゃなかろうか。


服装も、どことなくおしゃれだ。






もうひとりのおばちゃんが


リュックから小さな箱を取り出す。



どうやら、キャラメルだ。




一粒受け取りながら


美人だったのであろうおばちゃんが言った。





「あら、懐かしいわね」



「この懐かしさがいいでしょう?」












包装紙を開いて


口に入れると、ふんわりと甘い香りが広がり


目を閉じた。





ああ、クリスマスの香りだわ、と思う。





子供心にも、自分の家があまり裕福でないことは


なんとなく察しがついていた。





着るものは全部、近所のお姉さんのお下がり



おもちゃだって、ねだったりしない。






だからこそ、クリスマスが楽しみだった。





去年、私のところにサンタクロースが来てくれなかったのは



私がいい子にしていなかったからだろうか。




でも、今年こそは自信があった。




毎日お母さんのお手伝いをしたし


勉強だってがんばった。





「お父さんがいなくてさみしい」


それも一度だって言わなかった。



去年は、これを言ってしまったのがいけなかったのかもしれない。





私のお父さんは、私が生まれたすぐあとに



戦争で死んでしまった。




外国からの帰りの船の中で


病気になったのだそうだ。





「私、いい子にしていたよ」



写真でしか知らない、お父さんに話しかける。








クリスマスの朝


私の枕元に置かれてあったのは




汚れたゴム毬と


小さな象






違う…


私が欲しかったのは




同じクラスのみっちゃんが着ていたみたいな



絵本に出てくる外国の女の子が着ていたみたいな



ヒラヒラのついたブラウスだ。





言わなくても、サンタクロースには通じるかと思っていた。




来年は、ちゃんと手紙を出そう。






「サンタ、来た?」




顔を覗かせたお母さんが、言った。





私は、なぜだか



お母さんをがっかりさせたくなくて




とびきりの笑顔を作って




「うん」



と言った。






小さな象は


背中にキャラメルをふたつぶ乗せていた。





あの象は、何処へやったんだっけ…






「…でしょう?やっぱりねぇ」




「えっ、なんだっけ」




「いやあね、聞いてなかったの?」




「ちょっとうとうとしちゃった」




「やあだ」









小岩駅で、おっさんが降りた。







(※おばちゃんがキャラメル食ったところまでは現実、以下妄想です。)







一生に一度、すれ違うだけの人も




一生会わないで終わる人も





日々それぞれの生活があって



聞いてみなきゃわからない、ドラマがあるのかもしれないなあ



そう思うと、なんだか不思議な気持ちになります。





上手く言葉に出来ないけど




よく、そんな風に思います。








昔、友達が言った言葉。





「なんていうか


舞台に上がる人と、そうじゃない人っているじゃん?


私は、上がらない人間なんだなあ って。」








確かに

私の人生も



特にドラマチックなことなんか起きてないし




これから先、起こる予感も無い。






だけど



人生って、聞いてみないとわからない。



人生って言ったら大袈裟かもしれないけど




例えば、自分の全然知らない分野の仕事や趣味の話が



聞いてる側からしたらすんげー面白かったり



本人からしたら、そうでもない経験が、すんげー興味深い場合もあるじゃない?







よく、そんなようなことを朧げに思っているのだけど





最近読んだ本により



その気持ちが強くなったので、書いてみました。




全篇通してのテーマとは違うのだけれど



短篇のなか、いくつかの作品で



「何でもない日常も、ドラマなんだなあ」




と、すごく感じました。



photo:01



荻原浩

『月の上の観覧車』





荻原浩さんは、何でもないおっさんやおばちゃんの日常を、ドラマにしてしまう人です。






私の話も、書いて欲しいなあ。笑