「ハインリッヒの法則」労働安全に関わる者でこの法則を知らない者はいません。


ハーバード・ウィリアム・ハインリッヒ氏はアメリカ人で、損害保険会社に勤務していました。当時のアメリカでは現代の日本のような国による労災保険が整備されておらず、その多くを民間の保険会社が請負っていました。事故が減れば保険料率が下がり、より多くの企業に保険を提供できるとの考えから、ハインリッヒ氏は労働災害発生のメカニズムを知るために調査を始めました。数千件の労働災害のケースを調べ、導き出したのが1929年に報告された「ハインリッヒの法則」です。


330件の労働災害を分母としますと、そのうち300件がヒヤリハット(現象は発生しているが、被害は出ていない)29件が軽傷を伴う災害(いわゆる赤チン災害)、そして1件が重傷を伴う災害(重大災害)の割合になるというものです。簡単に言うと、「転ぶ」と言う現象が330回起こった時、300回はなんともないけど、29回はお尻に青あざができ、1回は頭を打って死ぬかもしれないという感じです。


「ヒヤリハット」というのは、ヒヤッとしたりハッとしたりという意味の日本語です。日本人のメンタリティには、結果重視の部分があります。不幸な出来事が起こっても、「終わりよければすべてよし」や「不幸中の幸い」という感覚で水に流そうとしてしまいます。そういう感覚で捉えると、「ヒヤリハット」は「セーフ」となりますが、ハインリッヒ氏はこの300について、「傷害を伴わない災害」とし、「アウト」だと考えていました。「ヒヤリハットを軽んずに、その現象が発生した原因を見つけて解決することで再発を防止せよ!」というのがこの法則の一つ目の趣旨になります。





この法則を図に表すとこのようになります。この三角形の底辺の部分に「不安全な行動」と「不安全な状態」がありますが、数としては数千になります。これらが原因となって現象が発生しているのです。従って、これらを取り除いてやることで、現象の発生を減らすことができ、労働災害も減らすことができるということになります。「転ぶ」で考えると、暗く照明がない道(不安全な状態)を、足元も見ずに歩き(不安全な行動)、転ぶということになります。この場合、照明などを設置して照度を高めると、不安全な状態が解消され、足元を注意深く見ながら歩くことで、不安全な行動がなくなります。これらのいずれか、あるいは両方を対策することで、「転ぶ」という現象を防ぐことができるのです。


ハインリッヒ氏の調べによると、労働災害における「不安全な行動」と「不安全な状態」の割合は、91で圧倒的に行動の要因が多くなっています。つまり、人間の不完全さや弱さが事故原因の大部分を占めるということです。ここにこの法則の二つ目の趣旨があります。「災害防止は、自分の弱さに気づくところから始めよ!」1世紀の時を超えて彼の声が聞こえてくるようです。