a×n。

現実世界とは一切何の関係もありません。理解できない方は閲覧禁止。

 

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ぎゅっと瞑っていた目を開いた時でも、隣の人はまだ手を合わせていた。
「何をそんなにお願いしてたの?」
「んー……秘密」
人ごみを抜けて夜の静かな街中を二人で歩く。夜風が身を切るように冷たくて、ぎゅっとダウンジャケットの襟元を掴んだ。
「にの、寒いの?」
「まあ、人並みに」
「人並みって」
楽しそうにあいばさんが笑う。この人が笑ってくれると俺はほっとする。友達は多いけれど人見知りで、いつもニコニコして誰にでも優しくて、だからこそ無理しがちなこの人が、俺の隣で心から安心しているような顔をして笑ってくれたら、俺はそれでもう十分なのだ。

少しの間黙って歩く。無言もこの人となら怖くない。風に乗ってどこかの喧噪がかすかに聞こえる。その喧噪に紛れるくらい小さな声で、彼が何かを言った。
「あのさ、」
「ん?」
彼が立ち止まるから、俺もつられて立ち止まった。
「さっき神様にしたお願い、にのが叶えてくれない?」
「え?俺?」
「そう」
街灯が俺の後ろにあるせいで逆光になって、顔が見えない。
「俺、神様じゃないよ」
「そうだね。でもにのにしか叶えられないんだよ」

「あと1年、俺と一緒にいて」
……俺のお願いが口に出ていたのかと思った。びっくりして黙ってしまった俺の手をあいばさんが掴む。近づいてきた彼の顔が見える。

「あと1年でいいから、俺のそばにいてほしい」
小刻みに震える手は寒さのせい?緊張のせい?それとも震えているのは俺?

「……1年でいいの?」
「え?」
ぎゅっと手を握り返す。
「俺も、神様にお願いしたんだ。だけどそれだけじゃ足りないや」

「できるだけずっと、一緒にいてほしい」

一瞬ぱっと灯りが消えて、点いた時には俺は彼の腕の中にいた。
「んふふ、2回目」
「え?」
「さっきから『え?』ばっかり言っているね」
「だって、言葉が出ない」
「ははは」

繋いだ手はそのままに、夜の道を並んで歩いていく。
「ね、何が2回目?」
「んー?抱きしめられるのが?」
「え、でもちっちゃい時も含めたら数えきれないくらいあるんじゃない?」
「それもそっか」

先のことは分からない。けれど今が幸せなら、多分ちょっと先の未来も幸せだし、もっとその先も幸せな気がするんだ。ネガティブ思考のはずなのにこんなことを思うのは、きっと彼の考え方がうつったから。お互いの考えていることが分かるようになるくらい、これから先も一緒にいたい。

「あ、忘れてた!」
あいばさんが急に大きな声を出す。それから横を向いて俺と目を合わせて微笑んだ。

「あけましておめでとう」
「今年も、その先も、それから先も、ずっとよろしく」
 

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今年になって投稿を始めました。お読みいただいた方、フォローしてくださった方、本当にありがとうございました。

あまりにもゆっくりペースですが、来年もぼちぼち投稿していくつもりです。sさんとjさんが普段から会っているなら、多分aさんとnさんも会っていると思うんです。そんな強い思い込みを持って、来年もあらしとanとsjを推していきたいと思います。来年もよろしくお願いいたします。