【小説】きらきら 25 | ぶっかけ御飯は何の味?

ぶっかけ御飯は何の味?

ぶっかけ御飯のように
ごちゃまぜでも美味しい
そんなブログを書いていきたいな。。。

この上ヶ櫛の半島はメインロードを挟んだ形で南北を海に挟まれている。
南側にはこんもりと丘があり神社があるが、その向こう側には主に畑と森が広がり、しんがりに海が控えていた。
北側はメインロードから一直線に海まで駆け下りる長い坂がそこかしこに伸び、坂に添うような形で学校や公共機関、家々が密集している。そして海には小さな漁港があり、セリの行われる市場などが小さくもちゃんと備えられていた。つまり、主に開発され、人々が生活する場になっているのは半島のメインロードから北側ということになる。南側は森が多く残り暗いこともあって、畑があるか、よほどの用事がある人間しか滅多に近づくことはなかった。


「もう結構あっついね…梅雨明けたら夏だあ」

夏織が西日になるかならないかの太陽を仰ぎ見ながら嬉しそうに呟いた。その日の光を反射して、海の穏やかな波がきらきらと銀色に細かく反射している。

今、僕らは半島の北側、港の端っこまで歩いてきていた。コンクリートで固められた小さな埠頭の上。

夏織に突然海にいこうと言われたとき、どこの海だよ、と返したのだが、この辺りの小中学生にとって海と言ったらこの波止場だったことを同時に思い出した。この小さな半島には自然にせよ人工にせよビーチと呼べるような砂浜は備えられていない。半島の南側の海は岩場だらけでまともに海に入っていくことすら難しかった。その上波が高く渦を巻いて危険ということもあって、釣り人か、よほど覚悟を決めた密漁者くらいしか海に行くことはない。それに比べてこの南側の港は防波堤が沖にもあり、波は小さく、また海も汚れず綺麗ということもあって、田舎らしいのんびりさで、はるか昔からここの子どもたちはよく港から飛び込んでは泳いでいた。そのことを咎める大人も、教師も、ここには存在していない。何かにつけ責任責任と言う他の土地では大騒ぎになりそうなものだ。そうはいっても事故が起こらないための一応の不文律はあり、僕らが今いる、この港の一番端の埠頭だけが子どもたちが遊ぶのに許された唯一の場所だった。

「僕たち以外誰もいないなあ」

そう言いながら僕は地面に座る。だらんと垂れ下がった足の下には船の接岸用の古タイヤがいくつか下がっていて、ちょうどそのタイヤに足を乗せるような形で足を海の側に放り出した。
横で立ったままの夏織が腰に手を当てて嬉しそうな笑顔で答える。

「そりゃそうでしょ。小学生はまだ授業中だし。中学生はテスト明けで部活か…そうね、ゲームか昼寝ってとこ。で、漁師の人たちはもうとっくに本日のお仕事終了。こんな時間にこんなところに来てる方が珍しいって」

おまえが行こうって言ったんだろ、と口に出かかった言葉を呑み込む。また夏織にキレられてもかなわない。

「で、どうする?泳ぐの?波とかあるし…こんなとこで練習になるの?…って!」

僕がそう言って横の夏織を見上げると、夏織は制服の赤いリボンを外し、いきなりブラウスのボタンを外し始めたところだった。

「え、ちょ、なっ。ちょ、何、一体!?」

思わず視線を逸らして海に向こうに目をやると、一人でドキドキと鼓動を早くしてしまう。そんな僕を尻目に、何も言わず着ている制服をどんどん脱いだ夏織。すぐに…

どっぼん

という音と共に海にしぶきが上がる。

「なに考えてんの、センセー?ふふっ…えっちぃー!水着は学校からずっと着てきたんですぅ。残念でしたぁ」

海の中からその短めの黒髪をしっとりと濡らした夏織があかんべーをして僕に笑いかけた。
ふん、と僕も苦笑いと安堵の溜息。ぽりぽりと鼻の頭を掻いた。
夏織がゆっくりと泳ぎ出す。平泳ぎ、クロールをしばらくした後、彼女の専門、背泳ぎを始める。僕はそれを岸壁の上からずっと見続けた。いや、目が離せなかったと言った方が正しい。

青い海の中、彼女が泳ぐ様はとても綺麗だった。所作に淀みがない、と言えばいいのだろうか、泳ぐ様子がとても様になっていて美しいのだ。泳ぐように泳ぐ、と言ったら語弊があるが、そうとしか表現ができない。ぎこちないところがなく、自然に、身体がしなやかに水を掻き水を流し水と一体になって泳ぐ。まるで魚やイルカみたいだ、と彼女の泳ぎを見て思っていたことが、今日こうして海で泳ぐ様を見て確信になった。記録は大したことはないのだが、とにかくその泳ぐ様子は僕が今まで見たことのあるどんな人間よりも綺麗だった。