土曜日はみのや雅彦先輩のライブに伺った。
ツアーファイナルの大切な日にご招待していただき、大変に素敵な時間を過ごすことが出来た。みのやさんと知り合えたのも「風輪」さんの楽曲提供からのご縁。本当に僕はこういった縁に恵まれている。いつも心から音楽の神様には感謝しているつもりなんだよ。
素晴らしいライブだった。
衝撃。ここまで「歌が上手い」人を、僕は他に知らない。声量のコントロールは完璧で、音程を外すことは一度もなかった。マイクとの距離も自在で、音の語尾を丁寧に扱い、余韻を残す。豪快さと繊細さのコントロールが完璧なのだ。しかし、だからといって技巧が立つわけではない。上手い歌手の中には、その上手さの中にある何かが鼻につき、聴き手に素直にメッセージが届かないタイプも多くいるが、みのやさんはまるで違った。
彼の声の奥にある熱い塊――みのやさんがこれまで生きてこられた「想い」としか言いようのないもの――が、まっすぐに僕の胸に飛び込んできた。いつまでも聴いていたい。心から、そう思った。
ギターの弾き語りも圧巻だった。右手の小指をピックガードに乗せて、繊細に奏でるアルペジオ。言葉を優先したメロディの運び方も、とても馴染みがよかった。「うた」というのは、メロディに言葉を乗せて、想いを伝えるもの。そんな大切なこと、基本的なことじゃないか。なぜ世の音楽家たちはなおざりにしているのだろう。
合間に挟まれるMCがまた、僕を惹きつけた。語りの中に「二の矢、三の矢」的なオチが自然に用意されていて、語り始めのジョークやエピソードが、次の展開の前振りになっている。生放送のラジオを北海道で何十年も続けられたみのやさんは、トークのプロフェッショナルでもあった。誰も傷つけない語りだが、決しておもねることのない、強い生き様もしっかりと伝えてくれる。
終演後、ライブの興奮が冷めきらず、「ライブ、最高でした!」と僕はみのやさんのスタッフの男性に思わず言ってしまった。彼はにっこり笑って、「僕もそう思います」と言って、階段を指さして言った。
「二階でお待ちください」
二階席にはもう誰もいなかった。僕は、薄暗くなったステージを見下ろした。主人が去った後の楽器たちが、ぽつんと残されていた。さっきまでの音の残り香に包まれながら、楽器たちは静かに、でも確かに、呼吸をしていた。
すぐに楽屋に案内された。
こういうとき、気持ちを過不足なく伝えるには、どう言えばいいのだろう。僕にはわからなかった。だから、できるだけ大きな声で言ってみた。「本当にありがとうございました!」そして僕はみのやさんの手をしっかりと握って、しばらく離せなかった。
「野球のブログ、いつも読んでますよ」
サングラスを外したみのやさんの目は、どこまでもやさしかった。
「いやいや……お恥ずかしい限りです」僕は答えた。
「いや、僕にはわかりますよ。成瀬さんにとっての『野球』って、僕にとっての『プロレス』なんですよね?」
その通りです、みのやさん。みのやさんにとっての『プロレス』が、僕にとっての野球なんです。つまり、それは――人生、ということ、ですよね。
日曜日、23日。エスコンフィールドへ。今季8試合目の観戦。この日のファイターズも、強かった。
投手陣。先発は伊藤大海。6回2失点。冷静に、丁寧に、試合を支配していた。続く生田目も三者凡退に。気配も残さず、仕事を終えた。8回、松岡が少し崩れ、逆転を許す。でも、それが次につながるならいい。課題があるということは、伸びしろがあるということだ。安定感を身につけて、Do It Again!
試合は1点ビハインドで8回裏へ。が、重い空気はなかった。不思議なことに、当たり前のように逆転してくれる雰囲気があったからだ。
五十幡が内野安打で出塁。清宮がしぶとくバットに当てて進塁打。代打吉田が変化球を拾ってレフトへヒット。そして途中出場の矢澤が迷いのないフルスイングでライトへ同点打。球場が揺れた。仕上げは石井のスリーラン。これ以上ないトドメを派手に決めた。
エスコンでのオープン戦の成績、9戦7勝2分け。負け知らず。
僕は2001年のマリナーズを思い出した。イチローが加わり、116勝を挙げたあの年。勝つことが日常になっていた。今のファイターズにも、同じ空気がある。すべては競争だ。相手に勝つ前に、チーム内の競争に勝たないと試合に出られないのだ。
今年のファイターズは、優勝する。それは間違いないだろう。一体どのくらいの勝利数をあげるのか、そこが関心ごとになるのではないか。