2004年。36歳になる年だ。
相変わらず消防点検の仕事を続けていた。楽曲コンペには落ちまくっていた。
ある日の昼休みに、消防点検の親方の車の助手席で弁当を食べていたら、携帯が鳴った。送ったデモを聴いた作家事務所からである。落ち着いた話し方をする女性だった。
「他の事務所にもこのデモは出しましたか?」「はい」「反応は?」「全くないです」「そうですか、素晴らしいですのにね」
というわけで、コンペの窓口が一つ増えた。
このとき、僕を見出してくれたこの作家事務所とは今も仕事をしている。
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この年、初めて「キープ」を経験した。国民的女性ロックシンガーの弟、のコンペ。
2,3年越しに100曲以上出し続けた末の初めてのキープ。メールで連絡をもらった時は嬉しくて泣いた。自分で引くくらい泣いた。しかし、泣くとこではなかったことに気がつくのにそれほど時間はかからなかった。
キープには幅があって「ほぼ採用ね!」という意味のキープから、「とりあえず置いておきたいので他にはこの曲、出さないでね」という意味のものまである。この時のキープはどうやら後者だった。もちろん、その後、何の音沙汰もなかった。
人の心は、上げてから落とされるとかなりキツイ。もうダメだと思った。実際、完全に結果は出ていた。僕には才能がないし、僕の曲に需要はない。
なぜ、やめなかったか。
それは、自分のソングライティングが上達している実感があったからだ。作曲が上手くなっていた。そして、毎回、自分の決めたハードルを越える曲を作ることが出来つつあった。ここでやめられない。どうせやめるなら、自分が思う「世紀の名曲」を作って、それでトライして、ダメならやめよう。「世紀の名曲」を作りたい。
しかし、コンペに落ち続けることに疲れ果てていた僕は、逃げた。どこに?「 自分で歌うこと」に、だ。僕は一度あきらめたはずの「ステージの上」に逃げようと思った。たとえ少なくてもいいので反応が欲しかった。拍手が、欲しかったのだ。
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無謀にもまず広島〜福岡と回った。初めての場所で歌ってみたかった。広島の夜は忘れられない。2004年8月6日だ。
ステージに上がって、「FOUR TRIPSってバンドをやってました。聴いてください」なんてやっても、30人ほどの広島のお客様にはまるでピンと来ない。当たり前だ。誰だよFOUR TRIPSって。誰だよ、成瀬英樹って。
その日はなんと、中野督夫さんと共演だった。僕はラッキーだった。あのエンターテイナー督夫さんが、初めてのお客様を前に、ギター一本で盛り上げてゆく様をこの目で見ることが出来たから。野球に例えるなら、督夫さんはまさにメジャーリーガーだった。
終演後、督夫さんとゆっくり話すことが出来た。「君もこれからライブでやってゆくなら、こうやって、小さなハコをこまめに回ることを忘れてはいけないよ」という意味のことを名古屋弁で言ってくれた。督夫さんとはその後も縁があり、何度もステージをご一緒させてもらった。
督夫さんのライブを観て僕は当たり前のことにようやく気がついた。ライブとは、自分という人間のすべてをさらけ出して、お客様に楽しんでいただくものである。と。なぜそんな簡単なことがわからなかったのだろう。何をかっこつけていたのだろう。
書く歌も変わった。「自分」のことをしっかり歌詞にして、伝えなきゃ。「自分」で勝負しなきゃ。
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部屋にこもって、自分用の歌をレコーディングし始めた。その頃研究していた成果を全て出すべく。サンプラーでコラージュ的に作った曲。JT的な弾き語り、ナイアガラ的な諧謔、ウクレレのインスト。もう無茶苦茶である。一心不乱に作った。これを世に出そうと思った。売れるとか売れないとかではなく、ちゃんと自分の活動をアルバムとして、残しておかないと。
その前にFOUR TRIPSにしっかりおとしまえをつけるべく、編集盤を出すことにした。「THE REST OF FOUR TRIPS」。2000年の山中湖のRECから時代を遡って、1992年の結成時のデモまで。いつか娘が大きくなった時に「パパはこんなバンドをやっていたんだよ」と手渡せるものを一枚でいいから作っておきたかった。このアルバムは唯一、僕が心からおすすめできるFOUR TRIPSのアルバムだ。アマチュア時代のカセット音源も多数収録されており、音質や演奏は相当に拙い。が、それでも。これがFOUR TRIPSだ。
このFOUR TRIPSのアルバムでCDの自主制作の流れを覚えた僕は、初めてのソロアルバム「自由になりたい」を静かにリリースした。本名を名乗るのは気恥ずかしかった僕はNALUという名前をつけた。「成瀬英樹」という仰々しい名前で歌う気には、まだなれなかったのだ。
レーベル名もつけた。LAFS。
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このアルバム「自由になりたい」を携えて、懐かしの西荻窪でライブをした。久しぶりの東京。20人入ればいっぱいの小さなハコ。FOUR TRIPSをデビューさせてくれたTプロデューサーが来てくれた。彼はディレクターとしてBEGINを大ブレークに導いていた。朝まで飲んで話をした。正直わだかまりはあったのだが、酔った頭でロックバーでTHE BANDを大音量で聴いていたら、そんなことはどうでもよくなった。彼は僕をデビューさせてくれた恩人なのだ。それでいい。
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そして、馬場俊英さんも観に来てくれていた。当時はコブクロにカバーされたこともあったりで、ライブ活動で忙しい頃だったのに。その気持ちが嬉しかった。
ライブを終え、遠路を車で神戸の自宅に帰ったら、CDの注文メールが殺到していた。馬場さんが、ご自身のホームページで僕の「自由になりたい」収録の「a blue song」を推薦してくれていたのだ。腹をくくって自分の10代20代を赤裸々に書いた歌を、馬場さんに認めてもらえるなんて。ここは泣くところ、だろう?
一枚一枚、封筒に住所を書いてCDを梱包した。ストックしておいた封筒がなくなってしまうくらい、注文が入った。
いつもありがとうございます。
成瀬英樹
2018年12月1日(土)
成瀬英樹 生誕50祭@大阪
「ただいま!マスター!大ちゃん連れて帰ってきたでー!」
出演 成瀬英樹/白井大輔
場所 5th Street
http://www.5th-street.com
大阪市西区南堀江1丁目1-12 浅尾ビル2階・3階
開場 18:00
開演 19:00
料金 2800円
当日 3300円
※(1D別途)
ご予約は
へどうぞ!
2018年12月10日(月)
「成瀬英樹・生誕50祭 / ヒデキ感激!ナルーソニック!」
座りの座席は満席となりました。現在立ち見のご予約を受け付けております!
出演:
成瀬英樹
スペシャルゲスト:
石田ショーキチ
黒沢秀樹
榊いずみ
山崎あおい
SOWAN SONG
etc.
下北沢 風知空知
時間:開場18:30/開演19:30
料金:前売り¥2,800/当日¥3300
(共に+1Drink600円)
風知空知メール予約のみ(先着受信順整理番号付き)
●メール予約:風知空知 yoyaku@fu-chi-ku-chi.jp
*ご希望公演名、お名前、枚数、ご連絡先電話番号をご明記の上、お申し込みください。
2018年11月10日(土)
白井大輔×ナルソワン(成瀬英樹、SOWAN SONG)
"西の星、東の星と光る夜"
ナルソワンの初ライブ!特別な新しい曲を用意してお待ちしております!!
SOLD OUT !
場所 lete
東京都世田谷区代沢5-33-3
下北沢駅南口 徒歩4分
開場 18時半
開演 19時半
料金 2500円 1D別途