というわけで、遅くなりましたが「時代を彩った銘器と名曲」の続き。
プロローグとなる前回&前々回は、ビンテージシンセ系を中心に僕が愛用しているプラグインを紹介しました。
そして今回、記念すべき本編第一回目で取り上げるのは、電子楽器、いや、電子音楽の歴史を塗り替えたと言っても過言ではない銘器「Sequential Circuits Prophet-5」であります!
1978年発売、当時の価格は日本円にして170万円。
モノフォニック(=和音を演奏できない)かつ非プログラマブル(=作った音色を保存できない)のシンセが大半だった時代、「5音ポリフォニック、40音色メモリー」というスペックで衝撃をもたらした機種です。
コンパクトな割には音作りの自由度が高く、安定性にも優れていたので、世界的にヒットしました。
日本では、なんといってもYMOが愛用していたことで有名ですよね。
Daryl Hall&John Oates「Private Eyes」のPVに登場していたのも印象深いです(笑)
高価だったせいか、若手やインディーズが中心のニューウェーブ系ではそんなに使われていなかった印象があります。
Japan、Duran Duran、Naked Eyes、Howard Jones、New Order等が使っていましたが、いずれもナショナルチャートの上位に顔を出すような存在でしたし。
そういや、オフコースの武道館ライブで小田和正が一人で3台ものProphet-5を使っていたなあ。
YMOでさえ、各メンバー1台ずつだったというのに(笑)
庶民には高嶺の花の機種だったことも、リアルタイム世代のロマンを今なお掻き立てているゆえんでしょう。
Prophet-5の強みは、なんといっても豊富なモジュレーション(変調)機能にあります。
では、各部を見ていきましょう。
・オシレーター
2基のオシレーターで構成されています。
オシレーターAは「鋸波」「パルス波」、オシレーターBは「鋸波」「三角波」「パルス波」を搭載。
音作りの基本となる波形は、たったこれだけです。
Pulse Widthつまみでパルス波の幅を変更(真ん中で矩形波になる)、もちろんオシレーターシンクも可能。
・ミキサー
オシレーターA、オシレーターBの出力に加え、ノイズ(ホワイトノイズ)をミックスします。
ノイズがオシレーター波形のひとつとしてではなく、独立したジェネレーターとして搭載されているのがポイント。
(2基のオシレーターで作った音にノイズを少しだけミックスしたり、といった使い方が可能。)
・フィルター
-24db/オクターブのローパスフィルターを搭載。
このキレの良いフィルターが、プロフェット特有のサウンドを生み出します。
電子音とも現実音ともつかない不思議な質感になるというか。
後期YMO〜坂本さんのソロで多用されているレゾナンスを上げた「モホワ〜ン」としたパッドは、他のシンセではちょっと真似できません。
・エンベロープ
フィルターとアンプに、それぞれ「ADSR」タイプのエンベロープジェネレーターを搭載。
オシレーターには搭載されていませんが、後述の「ポリモジュレーション」セクションでフィルターの「ADSR」をオシレーターAに適用させることが可能です。
・LFO
変調用の波形は「鋸波」「三角波」「矩形波」「ノイズ」の4種類。
不便なのは、LFOのかかり具合をプログラミングできず、いちいちモジュレーションホイールを上げなくてはならないんですよね・・・
・ポリモジュレーション
プロフェットのプロフェットたるゆえんが、この機能。
オシレーター同士を掛け合わせることで金属的な響き(非整数次倍音)を生み出す、いわゆるリングモジュレーション効果は、「FREQ A」スイッチをオンにし「OSC B」ツマミでかかり具合を設定、そしてオシレーターBのFREQUENCY(音程)ツマミを適宜上下させてオシレーターAを変調することによって得られます。
さらには「PWA」スイッチでオシレーターAのパルス幅を、「FILT」スイッチでフィルターのカットオフ周波数を変調させられるので、より多彩な音作りが可能になっているんですよね。
YMO、JAPAN、一風堂でお馴染みの民族楽器っぽい音(ガムラン風の音や、チューニングの狂ったような音)も、このポリモジュレーションならでは。
また、フィルターエンベロープ(ADSR)を「FREQ A」「PWA」「FILT」に適用することも可能。
例えば、「FREQ A」スイッチをオンにし「FILT ENV」ツマミでかかり具合(この場合は音程)を設定すると、オシレーターAがフィルターの「ADSR」で設定した時間的推移で上昇する、いわゆるライザー効果が得られます。
オシレーターシンクとポリモジュレーションを併用して作ったベースやリードは強力!
機能面の解説はこれくらいにして・・・
では、Prophet-5を使った名曲を実際に聴いてみましょう!
「Bamboo Music」
David Sylvian / Ryuichi Sakamoto
化粧が濃い!(笑)
1982年リリースということで、JAPAN「ブリキの太鼓」、YMO「テクノデリック」の延長線上にあるサウンド。
プロデュースとエンジニアリングをスティーヴ・ナイが手がけているので、どちらかというとJAPAN寄りのサウンドかな?
リフやオブリガートに使われている金属的な音は、まさにProphet-5のポリモジュレーションによるもの。
裏メロのオルガンっぽい音(YMO「Pure Jam」等でも使われている音)は、フィルターの自己発振によるサイン波にノイズを混ぜたものと思われます。
Bメロ(?)でリフを弾いている琴っぽい音は、イミュレーター(サンプリング)でしょうか?それともやはりProphet-5でしょうか?
(ビデオではProphet-5を弾いてますけど、当て振りなので・・・)
ベンダーの粘るような使い方もポイント。
ノイズや非整数次倍音の多用が、この時期の坂本さんの脱近代・非西洋文化志向を如実に示しています。
とにかく、Prophet-5の可能性を極限まで追求した素晴らしいサウンドです!
「以心電信(You’ve Got To Help Yourself)」
Y.M.O.
1983年リリース。
「Bamboo Music」とは打って変わり、例の「モホワ〜ン」サウンドを筆頭に柔和な音作りになっています。
時代背景的にも、先鋭的・前衛的なニューウェーブからネオアコなどに流行がシフトした頃ですよね。
「パステルカラーテクノ」なんて言葉もありましたっけ。
モロに「マジカルミステリーツアー」の頃のビートルズを彷彿とさせる曲調ですが、ストリングスセクションをProphet-5だけで作っているのがお見事!
トランペットはイミュレーターでしょうか。
このトランペットと「モホワ〜ン」サウンドの組み合わせは、坂本さんのソロアルバム「音楽図鑑」に収録されている「森の人」でも耳にすることができます。
多分、同時期にレコーディングされたのでしょう。
ディレイの使い方など、空間処理も絶妙ですよね。
個人的には、「CUE」や「PURE JAM」と並んで後期YMOを代表する名曲だと思います!
ちなみに、この「夜のヒットスタジオ」の放送、僕はリアルタイムで見ました。
司会の井上順に「中年隊の皆さん(少年隊をもじったもの)」とか「この曲、ビートルズっぽくない?」とか言われて、御三方がビミョーな顔をしていたのを思い出します(笑)
なんとも幸せな気分になるビデオ。
Prophet-5を用いた名曲・名盤は枚挙に暇がありませんが、今回は2曲のみということで。
すいません!
その代りに、と言ってはなんですが・・・
僕が作ったARTURIA「Prophet-V3」のサウンドレシピをご紹介。
同製品を持っている方は、試しに同じ設定で鳴らしてみて下さい。
ではでは!(^-^)ノ~~~
・YMO「Pure Jam」風サイン波リード
プロフェットには、あらかじめサイン波が搭載されていません。
そこで、レゾナンスを目一杯上げてフィルターを自己発振させ、サイン波を作ります。
この場合、音程はカットオフポイントで設定。
ここでは「140.7Hz」です。
カットオフポイントを変更すると「鍵盤のド=C」ではなくなってしまうので注意!
オシレーターの波形はA・B共にオフでも構いませんが、ここでは鋸波と矩形波をミックスしました。
・アジア風Pluckシンセ
ポリモジュレーション+ノイズで、アジアっぽい響きのPluckサウンドを作りました。
オシレーターの音程は、OSC A「-2」、OSC B「-12」です。
POLY MOD・FILT ENVを「2%」にして、アタックに微妙なピッチ変化を付けています。
短いディレイをかけてみて下さい。
・坂本風「モホワ〜ン」パッド
フィルターのカットオフ、レゾナンス、エンベロープのさじ加減がポイント。
ディレイで左右に飛ばすと効果的。
・EDM系シンセベース
オシレーターシンクとポリモジュレーションを併用して、エグ味を出しつつも芯のあるベース音を作ります。
オシレーターの音程は、OSC A「-3」、OSC B「-12」です。
POLY MOD・FIL ENVは「30%」。
OSC Aの音程、POLY MOD・FIL ENVのパーセンテージ、OSC A&OSC Bのパルス幅を変えることで、様々なバリエーションが作れます。