君は薔薇の花が好き。
特に、真紅の薔薇には、何か思うことがあるらしい。
特別な日は、真紅の薔薇なの。
この言葉のとおり。
普段家に飾っている薔薇は、実に色とりどりだ。
ピンク、黄色、紫、オレンジ、そして。
もうひとつは、青薔薇なの。
青い薔薇。
薔薇には青い色素がないのだそうだ。
それが近年になって。
薔薇に青い色を乗せることが可能になった。
一輪ずつ届けられる青い薔薇。
淡い青の薔薇。
花言葉は、奇跡。
不可能を可能にする。
真紅の薔薇は、情熱。
この2種類の薔薇は君にとって特別。
必然的に私にとっても特別な薔薇。
結婚して、5年。
結婚記念日には、様々な薔薇の花束を。
今年はどうしようか。
君はどうやら真紅のワンピースを着るらしい。
それなら私は真紅の薔薇を贈ろうか。
本数は5本がいい。
意味は「君に出会えた事の心からの喜び」。
結婚記念日当日に、頼んでおいたフラワーショップに急ぐ。
できていますよ、と差し出された5本の真紅の薔薇の花束。
今回はミニブーケにしてもらった。
少しボリュームを出すためだろう。
白いかすみ草が添えられている。
ありがとう、これなら彼女も受け取ってくれるだろう。
奥さまは幸せですね、と店員の話が頭を流れて行った。
普段は質素すぎるほど質素な君だから。
結婚記念日の前だけは、入念に準備する君だから。
私も気合を入れて、毎年の花束を用意する。
次に、予約しているレストランに急ぐ。
君のためのケーキが出来ているはずだ。
これでいかがですか?
差し出されたケーキを見て、驚いた。
薔薇にちなんだケーキにして欲しい。
そう頼んでいたのだけれど。
これは…、すごいですね。
こんなケーキは初めてだ。
してやったり、といった表情のパティシエ。
パティシエとしては、負けているんですが。
これに勝るものはないと思ったんですよ。
びっくりさせたい、とおっしゃられていたので。
確かにこれには君もびっくりしてくれるだろう。
ディナーの最後に出してもらうようにお願いした。
ケーキなのだから、やはりデザートだろうから。
私の準備は整った。
ミニブーケを持って、家へ帰る。
玄関の前に、真紅のドレスを着た君が待っていた。
おかえりなさい。
綺麗な笑顔を見せてくれた君に。
はい、ブーケをどうぞ。
待たせてしまったかな。
ゆっくりと首を振る君。
ブーケを手に取ると、そっと香りを楽しんでいる。
気に入ってくれたかな?
そう尋ねると、君からの質問がくる。
5本の薔薇の意味って何?
本数の意味。
それを聞いたら、君は喜んでくれるだろうか。
「君に出会えた事の心からの喜び」。
5回目の結婚記念日だから5本。
ということもあるのだけど。
だったら、私が準備した薔薇も渡したい。
傍に置いていた紙袋から一輪の薔薇。
その色は。
青い薔薇、だね。
「喝采」だったっけ。
うん、と頷く君。
ありがとう。
今日のスーツのポケットに使わせてもらうよ。
着替えるから、君も一度家に入って。
そう促すと、大事そうにミニブーケを抱きしめる君。
ふと、視線が一点に止まる。
どうした?
そう聞くと、ちょっと嬉しそうな君。
この真紅の薔薇。
今日の私のルージュと一緒ね。
ブーケを覗き込んで、薔薇の花びらに触れる。
微かに君のルージュの色が移っている。
ちょっと直さなきゃ。
そう言って、君の唇を撫でる指先に恋したのは私。
いつもはキュートなイメージの君。
こういう時だけセクシーになるのは、君が仕掛ける罠。
せっかくだから、罠にはまりにいこうか。
君の唇を撫でる指を引き寄せて、指先にキス。
くくっと君は喉の奥で忍び笑い。
ずるいな、私が君に敵うわけないのに。
今日だけよ、いいでしょう?
今度は小悪魔モード。
様々な君の面が、次々と現れるのが結婚記念日。
そんな貴重な1日が年1回ある。
それはすごく幸せなことではないだろうか。
家に入って、急いで着替える。
青い薔薇に合わせて、ブルーグレーのスーツを選ぶ。
胸に青い薔薇を差して、髪を整えて部屋を出る。
パチン、パチン。
ハサミの音がキッチンから聞こえてくる。
その音に誘われて、キッチンへ入ると。
君がブーケを解いて、花瓶に入れ替えていた。
せっかくのブーケだし、長持ちさせたいし。
そう言ってにっこり笑う君は、とても爽やかだ。
あとは、無邪気に喜ぶ子供のような君が見たい。
ディナーは、予約しておいたレストランで。
個室を用意してもらっていた。
ワインは上質なものを。
料理はオーソドックスだけれど、見た目も楽しめるフレンチ。
ゆっくり料理とワインを味わって。
ここ1年の思い出を話していたら。
あっという間に時間は過ぎる。
通常なら食後はコーヒーになるのだろうけれど。
君が好む紅茶を楽しみながら。
奥さま。
パティシエが大きな箱を持って、君に呼びかける。
旦那さまからのお祝いのケーキをどうぞ。
そう言って、君のティーカップの位置を変えて。
君の真正面に大きなケーキの箱が置かれる。
これ、ホールケーキ?
目を丸くして、私に問いかける君。
いいから。
開けてみて。
君が蓋を開けた瞬間。
豊潤な薔薇の香りが広がった。
え、これって…。
箱に入っていたのは。
本物の薔薇で埋め尽くされた大きな薔薇のケーキ。
ブーケにも使った真紅の薔薇。
びっくりした?
そう問いかけながら、君の表情が変わっていくのを見守る。
すごい!
素敵!!
綺麗!!
ありがとう!すごく嬉しい!!!
歓声を上げる君。
それを見て、パティシエと私は目を合わせて頷き合う。
子供のようにはしゃぐ君は、本当に微笑ましい。
どうやら、今年の結婚記念日は成功のようだ。
これまでの4回も失敗はなかったけれど。
来年は、どう君を楽しませようか。
でもそれは明日から悩むことにして。
今は、喜んでいる君を見ているだけで幸せだ。
胸に差した「喝采」という名の青い薔薇。
まさに喝采だ。
願わくは。
しわくちゃな顔になってからも。
こうやって、結婚記念日を楽しめるといい。
そう思いながら、薔薇に楽しげに触れる君を見て。
改めて、君を愛おしいと思った。
「恋唄100題 その一」
お題配布元
site name : 追憶の苑
master : 牧石華月さま
url : http://farfalle.x0.to
