011:最後の一線だけは越えさせない | ☆.。.:*きらりん+.☆きらきら○o。..:*

 

会社で同じ部署の同僚である君。

なんとなく気が合って、昼食を一緒に摂ったり。

残業の時は、一緒に夕食を食べに行ったり。

 

君は男で、私は女。

でも、男女の仲だけど、友だち感覚で。

でもバレンタインはひとつのイベント。

チョコはいつも渡していて。

 

君はいつも嬉しそうだったけれど。

なんとなく違和感を感じたのは。

 

今年のホワイトデー。

 

君から贈られたクッキーとキャンディ。

 

クッキーは「あなたとはお友達の関係です」。

キャンディは「あなたが好きです」。

 

今まではクッキーだけだったのに。

今年はキャンディが加わっている。

 

本命の「キャンディ」。

君は何を思って、キャンディを加えたのだろう。

君のこと、私が知らないと思っているのだろうか。

 

去年のことだった。

 

とあるテーマパークに私は一人で来ていた。

一人で集中して写真を撮りたかったから。

 

どんなテーマパークも夢のような空間だけど。

そのパークは私の一番のお気に入りで。

季節ごとに変わる景色。

それをゆっくり眺めたくて。

 

そうして、ゆっくりした歩調で歩いていた。

 

そこで見かけたのが、君。

一人で森の中のようなアトラクションにいて。

自然が好きな君だから。

そこにいることには疑問を持たなかったけど。

 

ふと何かに気づいたような君。

満面の笑みで君が迎えたのは、少女と女性。

 

少女は、呼びかけていた。

「パパ!」と。

 

道理でいつもクッキーなわけだと。

私は妙に納得した。

実際、私は君に友だちとして接していたし。

君も私のことは友人だと思っていたはず。

 

そっとその場を離れた。

君に見つかる前に。

たとえ見つかっても。

知らない人として振る舞える自信はあるけど。

 

女性は、当然君の奥さまなのだろうし。

お互い嫌な思いはしたくないし。

 

その後は普通に写真を撮って。

パレードを見ながら楽しんで。

夜の花火を見上げながら、なんとなくがっかりして。

 

君が友だちから恋人となること。

期待していなかったといえば嘘になる。

でもこれで、すっきりとしたのも事実。

 

同僚で、友だちで。

これからも私はチョコをあげて。

そのチョコを誰が食べていたのかは不明だけど。

 

そうして迎えた今年のホワイトデー。

クッキーにキャンディが加わったこの日。

 

まさか意味を知らずに贈られたわけじゃないはず。

様々な雑学に通じている君なら。

キャンディの意味を知らないわけがない。

 

その「好き」は友人としての「好き」なのか。

他の同僚とは、一応分けてくれているのか。

君にチョコを上げる女性は多い。

君には家族がいること。

そのことに気づいている人はいないと思う。

 

男性の同僚からは「いつ結婚するんだ」とか。

「恋人はいないのか」とか。

散々言われ慣れているような君だから。

職場では君は独り身だと思われている。

 

君からは「今回は家で開けて」と言われていた。

他の女性たちはクッキーをもらって。

みんなで交換して。

 

そのことを知っている君。

ひとりひとり別のクッキーを贈るとか。

交換するの前提で渡していたし。

 

私だけ表立って渡されなかったから。

女性の同僚は、気の毒がって。

私には多めにクッキーを配ってくれた。

 

君は。

ごめん、数、間違えた、と。

申し訳なさそうな演技。

だから私も、

 

いいよ。

みんなから分けてもらうから。

 

しれっと知らない素振り。

 

家で開ければ、クッキーとキャンディ。

周りに配ったものとは、別格のブランドで。

 

でも私は知っていたから。

君に家族がいることを知っていたから。

どんな意味があるのか、考えてしまった。

 

とりあえず。

最後の一線だけは越えさせない。

不倫なんて、もっての他。

 

君のことは好きだけど。

誰かと奪い合うほど好きかと問われたら。

 

多分私は引くだろう。

 

そこでスマホが鳴った。

かけてきたのは君。

 

ホワイトデーのプレゼント、わかった?

 

ちょっぴり不安そうな君の声。

だから私はことさら明るく答えた。

 

大好きな友だち、でしょう?
ありがとう。

 

本当はキャンディだけを贈りたかったんだ。

 

そう答える君。

だから、私はとどめるように言った。

 

奥さまとお子さまのことはどうするの?

 

君が電話口で息を飲むのがわかる。

しばらくして返ってきた答えは。

 

君は信じないかもしれないけれど。

もし君が見たのなら、おそらく従妹のことだと思う。

 

従妹?

 

思わず鸚鵡返しに聞いてしまった。

 

彼女は子供を産んですぐに旦那さんと死に分かれてね。

私が少し家計の援助をしていたんだ。

子供は私のことを「パパ」と呼ぶけれど。

いつも従妹はそのことで子供を叱っているよ。

 

じゃあ…。

 

そう、私は君のことが好きだ。

君は私を友だちとしてみていることは知ってる。

だから、一歩近づきたくてクッキーとキャンディをね。

 

今度は私が息を飲む。

私は君の特別になれるのだろうか。

本当に?

今の話に嘘はない?

 

私と付き合ってくれないだろうか。

 

君の言葉が重なる。

本当に、本当に、信じていいのだろうか。

 

もし信じられないのなら、ドアを開けて。

今、君の家の前にいる。

 

え。

家の前?

慌ててスマホを持ったまま玄関まで走る。
確かめもせずにドアを開けた。

 

飛び込んできたのは、一面紫の薔薇の花束。

様々な紫のグラデーション。

いったい何本あるのか咄嗟にはわからないほど。

 

受け取ってくれるかな。

 

君の言葉に促されるように。

花束は私の腕の中におさまった。

ふんわりと薔薇の香りが広がる。

 

これ、何本使ったの?

 

そう聞けば、君は嬉しそうに答える。

 

108本、だよ。

 

108本。

君から聞いたことがある。

108本の薔薇の花束の意味。

 

「結婚してください」

 

本当なら紫ではなく真紅を贈りたかったけど。
君は紫が好きだから、紫にしたんだよ。

「尊敬」の意味も込めてね。

 

じゃあ、本当に?

 

まだ信じてくれないのか?
やっぱりキャンディだけにしておけばよかった。


少し困ったように、君が笑う。

 

まぁいきなり108本は戸惑うだろうけど。

私は本気だから。

プロポーズ済みとして、つきあってくれると嬉しい。

君の気持ちが追いついてくるまで。

私は待つからね。

 

そう矢継ぎ早に言う君に。

やっと私は口を挟んだ。

 

君は知らなかっただろうけど。

私はいつだって本命チョコしか渡してない。

 

そう告げて、薔薇の花束を抱きしめる。

 

君以外は、買ったチョコ。

君のチョコは、私の手作り。

 

それを聞いて目を見開いた君をじっと見つめる。

 

以前から私の本命は君だけ。

だから。

この花束は、本当に嬉しい。

 

言いながら、涙が滲んでくるのを止められなかった。

嬉しくて。

絶対に一線は越えさせないと決めていたのが。

そんな壁が、崩れる音が聞こえる気がする。

 

今までと急に変わるわけではないけれど。

少しずつ変わっていければいいと思わないか?

 

そんな、私に逃げ道を作ってくれる君。

本当に優しい。

だから私は、君が好き。

 

じゃあ私は帰るから。

明日からまたよろしくな。

 

うん、またね。

 

薔薇の花束ごしに手を振る。

私の密かな想いは、叶ったらしい。

 

部屋に戻って、さてどうするか、と考える。

108本の薔薇は嬉しいけれど。

どう飾ろうか。

 

考えていたら、君からメールが一通。

 

「何本か飾って、残りはお風呂に入れて」

 

いや、それはもったいないだろうと思いつつ。

ひとまずバスタブで水上げ。

 

明日は花瓶を探しに行こう。

君の気持ちのこもった紫の薔薇たち。

 

ひとつも余さず受け取りたいから。

 

 

 

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