「いいか!みんな!遠足のお菓子は300円以内だぞ!」

「バナナは別でいいですか?」

 遠足の季節になると恒例の先生と女子とのやりとり。昭和40年代前半、その頃の思い出だ。

隣の家のおばあちゃんは遠足と聞くと必ずお菓子を買って用意してくれた。それも300円ほどのお菓子を。

昔のことだから、チョコやガム、クッキーなどが3つ4つ詰め合わせられていた。自分でも買ってきてある。

どうしたものか、うれしいながらも、こども心に悩んだ。

 そのおばあちゃん、クリスマスになると必ずでっかいケーキを買ってきてくれた。今やあまり見かけなく

なったバタークリームケーキだ。ケーキと言えばこれだ。クリスマスならではの贅沢で大変ワクワクした。

 昭和40年代前半、高度経済成長の時代でもある。裕福とは言えないまでも、みんなが明日を信じていた

頃だ。そのおばあちゃんの家も決して裕福ではなかったと、こども心にも感じていた。それなのに小学生の

私に良くしてくれた。我が家も決して裕福ではなかったが、そのおばあちゃんを思うとなぜか切ないものが

こみ上げてくる。

 その時代には明治生まれの人が高齢ながら、たくさんいた。大概のおじいさん、おばあさんは明治生まれ

だった。ひるがえって令和の今、高齢者は大概、昭和生まれだ。私もそのひとりだ。今はまわりに小さい子

がいない。見かけても知らない子どもたちだ。へたにお菓子もあげられない時代だ。かつてのような近所つ

きあいはなくなった。

 あの小柄な腰の曲がったおばあちゃん。もうすでに、はるか以前に亡くなっていると思う。定年を過ぎ、

私も腰が曲がってきた。だからか、それにしてもなぜ、今頃思い出すのか不思議だ。

 浅き春の空を見上げていたら、なぜか懐かしく切ないそんな想い出がよみがえってきた。