全国各地に、美しく豊かな自然のなか、きれいな水、美味しい水で有名なところがあります。山梨県にも、そんな名水サイトが多数あります。たとえば、1985年(昭和60年)に環境省が選定した名水百選では、山梨県で3か所選ばれています(参考文献1)。山梨県は全国との面積比では 1.18%、人口比では 0.65%(1%未満)なのに、名水比は 3 / 100 なので3%、と「名水密度」が高い県といえるでしょう。

 そんな、多くの名水サイトをかかえる山梨県のなかから、今回は「山梨県/北杜市 白州/尾白川」とその周辺をまわるツアーコースをたてる際、参考になるところを紹介します。

 まずは、尾白川渓谷(おじらがわけいこく)のクライマックスを味わいましょう。静岡県富士市付近を河口とする富士川をさかのぼり、甲府盆地の南で、笛吹川と別れ北西方向にさかのぼる川が釜無川。この川の河原のあちこちには、南アルプスからの急峻な沢をたびたびの大洪水で流されてきた巨大な白い岩や砂利がみられますが、この川沿いに長野県諏訪方面に向かう国道20号線の途中に、白州台が原(はくしゅうだいがはら)宿があります。
 国道沿いの、道の駅はくしゅうでは、尾白川渓谷関係のチラシを入手したり、観光情報を入手したりできますし、一応塩素消毒してると思いますが、尾白川水系の水汲みをすることができます。ここから、釜無川-国道20号線から、西の方にのぼっていきます。温泉やキャンプ場のある「白州・尾白の森 名水公園 べるが」を左手にみながら、竹宇駒ヶ岳神社をめざしてのぼっていくと、道の終点の巨大な駐車場にたどりつきます。
 ここからは、オートキャンプ以外は車進入は禁止です。10分ほど、なだらかな道を歩いていくと、修験の時代からの、石碑や不動明王像、岩から染み出る水場などがある竹宇駒ヶ岳神社の本殿に到着。神社のすぐ斜め裏には、尾白川渓谷のうえにかかる吊り橋があり、花崗岩の真っ白な岩や石や砂と清流、木々の緑と山の向こうの青空、を味わうことができます。吊り橋をわたって、右下におりて先ほど見下ろした白い沢を歩いていくと、尾白川渓谷の最初の滝の下、千ヶ淵に着きます。日光の加減では、滝つぼがエメラルドグリーンにみえたり、きらきらと日光を反射したり、と、ここで戻っても、この渓谷の美しさ、渓流の水の清らかさ、夏に訪れれば冷たい清水のありがたさが実感できますが、時間と体力に余裕があれば、さらに奥にすすんでみましょう(参考文献2)。

 尾白川渓谷の沢沿いの登山コースは、最初、沢の右岸を架設階段を上っていく道になりますが、そのあと、沢に下っていきます。旭滝の手前になりますが、小さな砂防ダムの向かい岸には、崩壊しかかっている階段が見えたりして、そちらをのぼって、下流方面にいくと、竹宇駒ヶ岳神社近く、日向山登山道に通じる廃道を通っていけますが、ちょっとのミスで相当な落差のある渓谷に落ちて落命してしまう危険なコースであることを指摘しておきます。
 さて、旭滝、百合ヶ淵、神蛇滝をとおり、不動滝までが一応、この渓谷の魅力を味わうスタンダードコースです。帰りは、来るときに通った急傾斜の階段などを下るのを避け、尾根道をとおるのが一般的なコースです。来たときに渡った吊り橋で元の道と合流しますが、その近くに、南アルプスの甲斐駒ヶ岳に登る登山口もあります。この登山口から上は、標高差1000メートルを一気にのぼる、日本三大急登のひとつ、黒戸尾根へとガンガン登っていくコースです。ここは、1990年に、今上天皇が皇太子時代に登山されたコースです。渓谷入口の大駐車場の売店の隣の説明看板のところの記念碑で、その説明をみることができます(参考文献3)。

 尾白川渓谷をあとにして、国道や道の駅に向かう途中、右寄りの、名水公園 べるが、に日帰り温泉があります。ここの源泉は、2種類あり、そのうちのひとつは、超高濃度の茶色くしょっぱいお湯で、渓谷歩きのあとの疲労回復にもってこいの泉質です(参考文献4)。湯船の温泉は飲泉はできませんが、脱衣場の外で、渓流水汲み場で水をゲットすることができます。

 尾白川渓谷から国道20号線、釜無川に下りてきたあたりの、白州台が原宿近辺には、この渓谷や、甲斐駒ヶ岳をはじめとする南アルプスの山体を長い年月をかけてろ過されてきた清らかな名水をつかった多くの飲食品の加工施設や工場、醸造場などが、多数あります。
 ・サントリー白州蒸溜所
 ・サントリー天然水南アルプス白州工場
 ・日本酒醸造 山梨銘醸 七賢
 ・シャルマンワイン ワイナリー 江井ヶ嶋酒造株式会社
 ・和菓子 台ヶ原金精軒
 ・洋菓子 シャトレーゼ白州工場

 サントリーでは、工場見学やテイスティングなどを楽しめますし(要予約)、ウイスキー博物館の最上階の展望スペースからは、ウイスキーを醸す名水のやってくる「裏山」の南アルプスの山々や、ウイスキーとしては世界でも稀な「森の蒸溜所」の全貌をみることができます。また、北杜市内の高校の探究活動と連携したり、水育を展開したり、といったESG活動についても知ることができます。
 ほかに手軽に訪れて、いろいろ楽しめるところとしては、白州台が原宿の中心部に向かい合ってある、日本酒 七賢の醸造所、山梨銘醸と、和菓子の台ヶ原金精軒がおすすめです。
 山梨銘醸では、お酒にまつわる施設などの見学や売店以外に、明治天皇が山梨ご巡幸の際のご宿泊所「行在所」の見学などもできます。近くには、酒蔵直営レストラン 臺眠(だいみん)や、大豆ミートなどの西洋風惣菜店(デリカテッセン)レストラン「koma」なども楽しめます。金精軒では、夏の頃の季節限定販売の、消費期限30分の、水信玄餅や、極上生信玄餅、大吟醸粕てら、など、名水を活かした王道の和菓子を堪能できます。

 時間があれば、日向山(ひなたやま)登山をおすすめします(参考文献4)。この記事の最初のところ、竹宇駒ヶ岳神社手前の駐車場から片道2時間半、あるいは、上の方、矢立石登山口から1時間半で登ることができますが、山頂付近は、途中の林のなかの登山道とはうってかわって、白い花崗岩とそれが風化した白い砂がおりなす、幽玄な趣の不思議な雰囲気のスポットです。そして、向かいの雄大な八ヶ岳や遠くに見える富士山の絶景の山頂から少しだけ下りてみると、サントリー白州蒸溜所を遙か下に見渡すことができます。ここから見ると、このウイスキー醸造所の「裏山」が日向山で、足元に降って地中にしみこんだ雨水が、真っ白な花崗岩の巨大な山体でろ過されて、ウイスキーの仕込み水になっていくんだ、ということが実感できることと思います。
 また、べるが、から3キロぐらい南の方に移動してきた、別荘地や、米粉パンの「米粉Plus」の近くの、中山峠から30分ぐらいで登れる中山もイチオシ、です(参考文献5)。中山は、標高888メートル。武田信玄の情報伝達手段である、狼煙(のろし)台の跡もあります。山頂には、南アルプスユネスコエコパーク関連の予算で建造された、高さ13メートルほどの、鉄骨の展望台があります。ここからは、360度雄大な眺めが堪能できます。西方は、白州台が原宿から、べるが、をとおり尾白川渓谷に遡り、日向山から甲斐駒ヶ岳、さらには、南アルプス前景の鳳凰三山が一望できます。遠く南方には富士山、東には、八ヶ岳から金峰山(きんぷさん)、瑞牆山(みずがきやま)、茅が岳(かやがたけ)の山なみが見えます。

・参考文献
(1)環境省選定 名水百選(昭和60年選定) https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/meisui/
(2)北杜市観光協会 北杜市白州町尾白川渓谷 日本名水100選定 https://www.hokuto-kanko.jp/hkk_core/wp-content/uploads/2017/05/ojirogawa-valley.pdf
(3)【公式】甲斐駒ヶ岳七丈小屋 特別な日 https://www.kaikoma.info/post/%E7%89%B9%E5%88%A5%E3%81%AA%EF%BC%91%E6%97%A5
(4)日向山(ひなたやま)ー天空のビーチを楽しむ | ほくとナビ https://www.hokuto-kanko.jp/sp/mt_hinata
(5)中山/里山散策コース/やまなしハイキングコース100選 https://yamanashi-hiking100.jp/course/detail/77