ある少女がいました。

その子はいつもうつむいて

元気がなく

自分からなにかをしたいとか

これが好きとか

それは嫌だとかも

いっさい  語らない少女だったので

気になっていた私はあるとき 

チャンスをうかがって

話しかけてみることにしたのです。






その子は  

自分がお母さんからの愛をもらえていないという事実を

黙って受け止めることに

そのことを宿命のように思いながら

ただ、日々を過ごしている…ということがわかりました。


私はちょっとびっくりして

それは、本人の誤解じゃないのかな?

そう思ったので、じっくりと話を聞くとにしました。





最初に出てきたのは

幼稚園のころの話。



仕事をしていた彼女のお母さんは

日頃お迎えに来ることはなかったそうです。


ある時

頭が痛み出したのを感じた少女は

先生にそのことを訴えました。


先生は、具合が悪いのなら

お母さんにお迎えにきてもらおうね、

と、言ってくれました。



‼︎   お母さんが?   

私のためにきてくれる?

ほんとに?



少女はものすごくうれしくなったのを覚えているそうです。

園の中で待つように先生が言うのも聞かずに

門のところで


今か  今か  今か  もうすぐか


お母さんのお迎えを待っていました。


自分のことを心配して

お母さんが来てくれる‼︎


もう、そのことだけで

彼女の頭も心も、いっぱいになったそうです。




お母さんが

大丈夫?と笑顔で話しかけてくれること、

そして、いっしょに手をつないで帰ること、



そのときのお母さんの笑顔を

ぐるぐるワクワクしながら

待っていたそうです。



{94FABC0E-0899-4A3F-82A6-A345BABE00E6}





やがて  向こうの方から

お母さんがきました。





きた‼︎







お母さんは

自分の娘が門のところにいるのに気がつくと


その瞬間






くるり






背中を向けて


歩き始めたのです。





そして

少女は気がつきました。




失敗しちゃった

怒らせちゃった

お母さんの手をとっちゃいけないのに

めんどうかけちゃった…




そばにきてくれることもなかった母親の後を

少女はついて歩き始めました。


家に帰り着くまで、

彼女の目には

歩く自分の靴先しか

入ってこなかったそうです。






この話を聞いて

この経験がどれだけ彼女の心に影響を与えてしまったか。

そして、これに限らず

こうなる背景には

家族のいろんな、深い事情があることも

うかがい知ることができました。





話だけで

すべてがわかるわけではないので

私は彼女に なんて言えばいいのか

わからなくなってしまいました。




あなたなら

なんて声をかけますか?




そしてもうひとつ



すべてをあきらめてしまった日のことを

少女は

ぽつぽつと 語ってくれました。




小学校に上がっても

うまく母親と関わり合うことのできなかった少女は

ときどき 母親に手紙を書くことにしました。




言葉でうまく伝えられないことも

手紙でなら伝えられるかもしれない

そして

それなら受け止めてもらえるかもしれない



そんな願いがあったそうです。






そして 小学3年生のとき



なにか食い違いがあって

激しく叱られた少女は

わかってほしかった自分の気持ちを手紙に書いて

母親に渡しに行ったのです。


鏡台の前に座っていた母親に

少女は これ読んでと

手渡しました。




彼女のお母さんは

それを受け取りながら


はっきりと


こんなものはもう読まない


そう言い切って


その手紙をゴミ箱に捨てたそうです。





そして


少女は  あきらめた、と言いました。


これまでも何回もこんなことを繰り返していて

もう、 自分の心を守れない

これ以上 こんなことがあったら

自分の心が壊れてしまう。






「そう感じたの…

だから、やめた

お母さんから愛をもらおうとか

願うのやめた

愛してもらうことや

気持ちを受け止めてほしいと思うことも

ぜんぶ  ぜんぶ

やめたの

シャッター下ろすことでしか

わたし 自分の心を守れない…

そう    思った 」





そこから

彼女の記憶は真っ白です。

思い出  という彩りのあるものはほとんどなく、

なにがあったとか

なにをしていたとか

あまりわからず

ただ夜寝るときにだけほっとしていたこと。

それをすごく覚えているそうです。



いろんな事情をかかえていた家庭の中で、
気持ちを外に表すことをやめてしまった少女。




話を聞いて

わたしは

どうしたらいいだろう…

なんて言えばいいんだろう…




そう  思いました。




後編に続きます。