詩人尹東柱(ユン・ドンジュ)、獄死から70年 | なりあやの韓国シネマ留学記

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2017年、3度目の韓国留学。
ソウルの大学院で映画を勉強します!

詩人の尹東柱(ユン・ドンジュ)ってご存知でしょうか。

韓国では教科書にも載るような国民的詩人ですが、日本でもけっこうファンは多いようです。





イケメンですよねキラキラ

はかなくも27歳で獄死したという彼の人生と、のこされた純粋すぎる詩、そしてこのルックスで、亡くなって70年を経てもますます、それも若者に愛されている詩人です。


1945年2月16日、福岡刑務所で亡くなりました。

あと半年生き延びれば、終戦でした。


同志社大学在学中に逮捕された、ということで、同志社大学のキャンパスには没後50年の1995年に詩碑が建てられました。


1月末日の今日、詩碑を訪ねましたが、雪もちらつく寒さ。

70年前の刑務所はさぞかし寒かったろうと、思います。


没後70年の今年2月、詩碑前で献花式など記念行事が開かれます。

ノーベル賞候補の詩人、高銀(コ・ウン)さんも来日し、講演するそうです。





同志社大学が記念に作ったバッジ。


取材していて知ったのですが、尹東柱の詩碑は、韓国の若者の間では有名な観光コースになっているようです。





30分ほど詩碑前にいたら、旅行中という3組の大学生や高校生が詩碑を訪ねてきました。

大学広報によると、年間1万人弱の韓国の高校生が、修学旅行で詩碑を訪れているそうです。

韓国で人気とは聞いていましたが、正直、ここまでとはあんぐり



詩碑に刻まれているのは、代表作、「序詩」です。


죽는 날까지 하늘을 우러러

한점 부끄럼이 없기를、

잎새에 이는 바람에도

나는 괴로워했다。

별을 노래하는 마음으로

모든 죽어가는것을 사랑해야지

그리고 나한테 주어진 길을

걸어가야겠다。


오늘밤에도 별이 바람에 스치운다。



死ぬ日まで天を仰ぎ

一点の恥じ入ることもないことを、

葉あいにおきる風にさえ

私は思い煩った。

星を歌う心で

すべての絶え入るものをいとおしまねば

そして私に与えられた道を

歩いていかねば。


今夜も星が、風にかすれて泣いている。


※金時鐘さんの訳です。詩碑は別の方の訳。





詩集「空と風と星と詩」が世に出たのは、亡くなって3年後の1948年。

逮捕時に押収された詩はいまだ見つかっていませんが、留学前に友人に手渡した詩集、留学先から手紙で友人に送った詩が、幸い、残りました。


先日、「空と風と星と詩」を日本語に訳した在日の詩人、金時鐘さんを訪ねました。


金時鐘さんは、序詩に出てくる「すべての絶え入るもの」の一つは、母語だったと言います。

ハングルで書き続けることにこだわった詩人でした。

「時節とは無縁の詩が、逆にすぐれて政治的だった」と。

独立運動にかかわったわけでもなく、ただただ、出版のあてもない詩を書いていた尹東柱が、治安維持法違反で捕まり、懲役2年の判決を受けました。


詩碑の前においてあった芳名録には、ハングルで尹東柱にあてたメッセージが毎日いくつも、つづられています。

こんなメッセージ。


하늘나라에서는 자유롭게 한글로 시 짓고 계시죠?


天国では、自由にハングルで詩を書いていらっしゃいますよね?


母語で詩を書くことすら許されなかった時代でした。

獄死の真相はいまだなぞですが、何らかの注射を打たれて亡くなったという証言もあります。

注射のせいでなくとも、戦時下の刑務所で、栄養状態が悪かったのは間違いありません。尹東柱が亡くなって1か月足らずで、一緒に捕まった同い年のいとこもまた、同じく福岡刑務所で獄死しています。


最後に、わたしが一番好きな、尹東柱の詩。

悲しい詩です。

朝がくるまで、なんとか生き延びてほしかった。


「쉽게 씨워진 詩(たやすく書かれた詩)」


窓밖에 밤비가 속살거려

六畳房은 남의 나라、


詩人이란 슬픈 天命인줄 알면서도

한줄 詩를 적어 볼가、


땀내와 사랑내 포근히 품긴

보내주신 学費封筒를 받어


大学노-트를 끼고

늙은 教授의 講義 들으려 간다。


생각해 보면 어린때 동무를

하나、 둘、 죄다 잃어 버리고


나는 무얼 바라

나는 다만、 홀로 沈澱하는 것일가?


人生은 살기 어렵다는데

詩가 이렇게 쉽게 씨워지는 것은

부끄러운 일이다。


六畳房은 남의 나라

窓밖에 밤비가 속살거리는데、


등불을 밝혀 어둠을 조곰 내몰고、

時代처럼 올 아침을 기다리는 最後의 나、


나는 나에게 적은 손을 내밀어

눈물과 慰安으로 잡는 最初의 握手。



窓の外で夜の雨がささやき

六畳の部屋は よその国、


詩人とは悲しい天命だと知りつつも

一行の詩でも記してみるか、


汗の匂いと 愛の香りが ほのぬくく漂う

送ってくださった学費を受け取り


大学ノートを小脇にかかえて

老いた教授の講義を聴きにゆく。


思い返せば 幼い日の友ら

ひとり、ふたり、みな亡くしてしまい


私はなにを望んで

私はただ、ひとり澱のように沈んでいるのだろうか?


人生は生きがたいものだというのに

詩がこれほどたやすく書けるのは

恥ずかしいことだ。


六畳の部屋は よその国

窓の外で 夜の雨がささやいているが、


灯りをつよめて 暗がりを少し押しやり、

時代のようにくるであろう朝を待つ 最後の私、


私は私に小さな手を差しだし

涙と慰めを込めて握る 最初の握手。


※金時鐘さんの訳です