”今日は一日誰も部屋に来るんじゃねぇ”
険悪な表情でそう言った副長。きっと誰にも知られてはいけない事でもあるのだろう。仕事熱心な副長を心の底から尊敬している。あの人のようになりたい。
それは巡察中のことだった。
今日も京は何事もなく、平和そのものであった。そろそろ切り上げ、隊士達に帰る指示を出していた時であった。
副長らしき後ろ姿をした人が、何やら周りを気にしながら人の間に紛れるように歩いていた。
もしかすると、俺を探しているのやもしれぬ。今巡察に出ている隊は三番隊のみ。それを知って副長が直々言いに来るぐらいだ、きっと大きな任務に違いない。
意を決して、そっと土方副長の後ろをつける。
だが返って来た反応は俺の想像を遥かに超えた土方副長の驚いた顔であった。
それから直ぐ、裏通りへ連れて行かれ、痛いぐらいの力で肩を掴まれた。殺気にも似た眼差しで俺を見る副長。
「斎藤、お前が今見た俺は土方副長に似た全くの他人だ!!いいな?!わかったら返事しやがれ!!」
何を突然言い出すのだろう……切羽詰まる、とはまさにこのことだろう。だが、余程この場に居ることがバレたくなかったと言うことであり、その理由は俺には教えてももらえない事実だけは理解した。
「御意」
そう一言言いその場を後にした。
何事もなかった顔で屯所に戻る。夕食時になっても土方副長は現れなかった。皆が口々に”部屋に行こう”と言い出した。
「一日誰も部屋に入るなとの命令だ。守れ」
静まり返った部屋に、突如明るい声が響く
「けど僕、土方さんがコソコソと屯所を抜けて行ったの見たんだけどなぁ」
総司が言う。
口元はにんまりと笑っていた。
「他人の空似、ではないか?」
副長が何を隠しているかはわからないが、先程強く掴まれた肩が今になって痛みだした。