「今時珍しいよね、ラブレターなんて」

「そうだね。でも差し出し人がないから、ちょっと不気味かも」

 私はお洒落な封筒と、それに合わせた雰囲気の便せん。それを取り出す。

 封筒には私の名前と、私の住所。そして便せんにはラブレターと言われるような、告白みたいな文章がきれいに書かれている。

「恋猫のようにあなたのことを忘れられません。この空なる恋、叶わないことは分かっています。徒恋であることは分かっています。でも恋の奴である私はあなたのことが好きです」

「朗読しないで」

 私は慌てて、ふうりの声を止める。

 こんなこっぱずかしい文章、他人に読まれたくない。ましてや声に出して、言われたくない。

「今日は七夕でしょう。短冊のかわりにこれをつるしといたら?」

「いやおかしいから。確かにあちこちに七夕の笹はあるけど、短冊じゃなくて便せんを飾ってたら変だよ」

「まあそうだよね。じゃあどうするの?」

「清めて捨てようかな。なんか妙な気がこもってそう」

 なんせ恋猫だの空なる恋だのという、今ではあまり使われない言葉のオンパレードである。そこら辺が不気味で、できることなら手元に置いておきたくない。

「こーいう言葉せつな先輩好きそう。じゃあさせつな先輩かもしれないよ」

「あの1人で生きている格好いいイケメンが、私にラブレターをくれるわけないでしょ」

 せつな先輩は中性っぽさがあり最近流行のボーカル&ダンスグループにいそうなほどのイケメンだ。私とは名字が偶然同じということで接点はあるけど、逆に言えばそれ以外の接点は同じゼミなだけだ。

 そんなせつな先輩が昔の本や、昔の言葉に関する本を読んでいたことを知ってるけど。それだけでラブレターをくれたのが、せつな先輩だと決まったわけじゃない。

 そう本当にそんなわけないから、そんなわけ、あるわけないから。