空がきれいで、川もきれい。

 こんな青い空を見るのも今日が最期。その事実に何も思うことはない。だって青くても青くなくても空は空。例え今が泣いているような雨空だとしても、どうでもいい。

 大きくて無機質なビルが、ここから見える。私が住んでいる地域にはない、大きなビル。この大きなビルはコンクリートと鉄とかガラスでできていて、とてもおしゃれ。それでいてこのおしゃれさに反して、暖かさは少ない。まるで冷たいおしゃれの町のように見える。

 そこでビルを見るのを諦めて、私は歩道橋を見る。

 眼鏡をつけていないから見づらい。だけど歩道橋は人がいっぱいいて、みんな大きなビルのある方向へ向かっていくのは分かる。私も通勤の時に使っていた会社へと向かう道だ。時には走っている人もいるし、人をかきわけて歩こうとする雰囲気の漂う、救いのない道。

 ここに幸せがあるのか、それは分からない。

 ここに不幸しかないのか、そうとも思えない。

 でもこの街は暖かさとは無縁な、冷たくて苦しい場所である。

 楽しいイベントがあるわけでもなく、ただ決められたことを淡々とする。正しさや間違えよりも、ルールが大事にされている。そんな固くて苦しい、そういう町。

 私はこの町のことをよく知らない。だって会社以外には行ったことがないから。でも毎日のようにこの町を歩いていて、楽しさや幸せがなにもないことは分かる。

 そこでこことお別れができるっていうことはいい。

 寒くて、薄着になると凍えそうな場所。そんな中で持っていたカバンを地面に置いて、そのうえに着ていたコートをかぶせる。この先寒さをふせぐ必要がないから、コートはいらない。必要なものがないから、カバンがいらないのと同じで。

 コートを脱いだから、寒さが増す。早く実行しなくちゃ、そう考える。

 この寒さのようにほっておいたら辛さがましになるってわけじゃない。寒さが身体と心をむしばむように、このまま生きていたってろくでもないことにしかならない。

 早く実行しなくちゃ。

 早く実行しなくちゃ。

 分かっているけど、身体が動かない。

 会社に行けないのなら、ここで終わるしかない。そしてここで終わらないのなら、会社に行かなくちゃいけない。

 それは分かっている、分かっている。でもここで終わらせることも会社に行くこともできず、柵を持ったまま固まる。

 早く動こう、早く動こう。

 私は柵を掴んだまま、ゆっくりと行動する。柵を乗り越えようと、足を上に動かす。

 ここで決めるんだ。そうじゃなければ、一生不幸のままだ。