「インティマシー・コーディネーターって昔はいなかったんだね。本当はいて当たり前なんだけど」

「昔は自己犠牲が当たり前だったから、いらなかったんじゃない?」

「そうかもね。宗教2世のように考えを縛られていたんだ」

 考えを縛られるが嫌な人もいる。そこでこういう風に色々な人の立場が尊重されるようになったのはいいかもしれない。

 『ヤー!パワー!』のような言葉ではごまかせない、そんな闇が少しでも減ればいい。

「そうだこども家庭庁って期待できる?」

「できるわけないよ。そもそも家庭第一主義、家庭が大事という宗教から離れなきゃ、困っている人を助けることはできないのに」

「だよねー。この国って狂ってる。どうせ困っている人を助けるなんてするよりも、自分の理想とするような人に育てるのが目的なんだろう」

「そうだね。それ以外の可能性は無いって」

 咲茉は笑う。

 この世界はあまりにも生きづらいから、私達は何も期待できない。メタバースでの交流もしたくないし、一番いいのは家で引きこもっていることだ。

「最近野球関係だときつねダンスやBIGBOSSが流行っているみたいだよ」

 重くなりつつある雰囲気を変えるためか、今まで黙っていた陽翔がそう言った。

「私は野球に興味ないから。それよりはオーディオブックで、声優の朗読を聞きたい」

「咲茉、最近スマホショルダーいくつか持っているのは、そのためなの?」

「いやそうじゃない。ルッキズムを気にしないようにしたいけど、やっぱり可愛くできるよう努力はしたいから」

「へーそうなんだ」

 咲茉はお洒落とか興味が無いってイメージは無いけど、それでもやっぱり少しは気にしているんだ。そこが意外だ。

「まあ国葬儀のように私のお洒落基準が分からないところがあるから、澪には理解できないかもしれない」

「そーんなことないよ。私だってお洒落しないから、何がお洒落かどうかなんて分からないだけ」

「村神様の活躍や、大谷ルールによる大谷選手の活躍とかも目覚ましくて、最近野球はいっぱいバズっているよ」

 私と咲茉の不穏な空気を察したのか、陽翔が別の話を始めた。

「ぶっちゃけ私野球興味なーい。『SPY×FAMILY』の方が興味ある」

「そんなこと言っても、令和の怪物格好いいとか言ってたじゃん?」

「それは名付けが格好いいと言ってただけで、野球に興味ないから」

 陽翔と咲茉が話を楽しそうにしている。

「あっもう時間だ。ごめんもう出かけるね」

 これから私はとある喫茶店に友達と一緒に行く事になっているのだ。

 そこで私は咲茉と陽翔と離れて、一人で出かけるのだった。

 

 

「久しぶり~。最近どう? 私はよくキーウの情報を集めている」

「久しぶり。陸はウクライナに行ったことがあるんだよね。だから気になるの?」

「そうそう。また行きたいからさ~。まあヌン活でするような明るい話はないけど」

「そうなんだ。インボイス制度の影響出た?」

「まだまだ。インボイス制度が始まるのは来年だし。私は会社員が本業だからあんまり影響ないかもしれない、まあよお知らんけど」

「そうだよね~」

 陸と話すのは楽しい。咲茉や陽翔と違って一緒に住んでいるわけじゃないし、頻繁に連絡を取るわけでもない。でもなぜか時々会いたくなってしまう。

「そうそうヤクルト1000って飲んだことある? ストレス緩和や睡眠改善するらしいよ」

「もし本当にそうなら飲んでみたい。私はまだ飲んだことはないよ」

「じゃあガチ中華のお店に行ったことはある?」

「それはない。この値上げが続く時代に、知らない食べ物に挑戦することはリスクがありすぎるよ。せいぜいコンビニの知らないパンをてまえどりするっていう地味な挑戦しかできない」

「それもそうか。丁寧な説明だけじゃあ味は分からないから、しゃーない。悪い円安が進んでいるし、節約はした方がいいかもね」

「そうそう、コロナのオミクロン株も定着しちゃったし、気をつけたいんだ」

「私も。色々と気をつけないとまずいよね~」

「そうだね」

 陸との会話は軽く弾む。あんまり考えなくてもできるので、かなり楽しい。

「リスキリングして転職しようかな~。昇給ウチの会社ないらしいし」

「ウチの会社にも昇給はないよ。むしろ雇用保険料が上がって、入ったばかりよりも手取りは減ったし」

「それは私もそう~。『#ちむどんどん反省会』なんてツイッターで調べるよりも、もっとお金になりそうなことを調べなていこう~」

「『ちむどんどん』見てたんだ」

「流行ってたからね、今の生駒山上遊園地が登場した朝ドラも見ている。『青春って、すごく密なので』ていう言葉もあるじゃん。私達は青春とはほど遠いかもしれないけど、充実した生活を送りたいなって」

「そうだよね~。マスクが顔パンツのように馴染みほど、世界は変わっていっているからさ、私達も変わる必要があるのかもね」

「OBNことオールド・ボーイズ・ネットワークには負けないように、お互い頑張りましょ~」

「おー頑張ろう」

 本当は変わることが苦手だ。

 それでも変わらないと、この先どんどんいきづらくなるような気がした。

 変わりない日常を守るためにも、生き方を変えないといけない。それは辛いけど、もう仕方ないんだ。