⑪  患者さん

 

 検査などの日の前日には基本的にコーディネーターから確認の電話が入る。

仕事中などで出られない時は留守電にメッセージが残される。それでも、なお出るまでしつこく掛かってくる。折り返すと、『こちらからすぐ掛けなおしますので。』と言って切り、即掛かってくる。おそらくこれがバンクの決め事なのだろうが、出られないときは出られないし、メールなどの連絡手段も使ってほしい。が、そこには事情があるようで、メールには病院や施設名などは記すことはできないらしい。メールって残るので、後々、それで不都合が生じることがあるのだろう。一度、タイミングが合わず、再三電話に出られなかったことがあったが、さすがにメール(電話番号のメール)で連絡が来たが、“いつもの病院で”とか“この前の場所で”とかそんな言い回しであった。

 

  さて、自己血採血の前日確認が入り、それにはMさんの同行はないため、手順の説明を受ける。またその日はMさんが、別件で偶然にも同じ病院にいるとのこと。しかしドナー同士が顔を合わせてもいけないのか、もしお会いしても軽く頭を下げるくらいしかできません。とのこと。そういう規則があるのだろうと推察し、『もしお見掛けしても無視させてもらいます。』と答えておいた。

 

この電話のついでにずっと訊きたかったことを質問する。『もしよろしければ患者さんの大まかな情報を教えていただけませんでしょうか?』と。

Mさんは『知りたいですか?』

いやぁ、さすがにそこは知っておきたいでしょ~。と思いながら『はい。』と答える。

骨髄バンクでは、ドナーと患者間での情報は教えないことになっている。そこに利害関係が発生し、いくつかの問題の起因となるためだ。でも、大まかな情報は教えてくれると知っていたのでその情報は得ておきたかったのだ。

『男性の方です。○○代の○○地方の方です。』とのこと。 

 

 正直、自分より年上の方とは思っていなかったが、血の繋がりがないのに奇跡的に型が一致しているということも何かの縁。遠い昔、親戚だったかも知れない、先祖が同じかも知れない。ひょっとしたら前世では兄弟だったかも知れない。私は勝手に今回の患者さんを“お兄(おにい)”と呼ぶことにした。

 

 きっとお兄にも家族があることでしょう。奥さんやお子さんがいらっしゃるかも知れない。その方達のためにも私は絶対、採取日まで絶対に無事で過ごすぞ!と決意を強くする。まず禁酒。車の運転も最小限にし、自転車は一切乗ることを止めた。今は自分一人の身ではないと言い聞かせたこの期間は、私が今まで生きてきた中で、一番体調に気を遣ったと言っても過言ではないだろう。自分ひとりの身ではないとはこのことか?

 

 採取当日、私から採取された骨髄液は即、何らかの交通手段で運ばれていくらしい。

何とか無事にその時まで過ごし、生きる希望を届けたい。

 

※次回⑫自己血採血(1回目)ヘ続く。