一色高の戦評コラム/TM VS SC相模原
奈良クラブの関東遠征も最終日となりました。地域リーグ決勝大会のための3日連続のトレーニングマッチ、最終日はその地域リーグ決勝大会に出場するいわばライバルであるSC相模原です。正直なところを申しますと、僕はSC相模原の試合を観るのは初めてですし、Jリーグ準加盟が承認されている地域リーグのクラブ。という情報しか持っていませんでした。どういったサッカーをするのか、実力の程は?個人的にかなり不気味なライバルクラブという印象でした。
<メンバー>
GK1日野(16星野)
DF20谷山、18眞野、6橋垣戸(15黒田)、5吉田
MF23蜂須賀(22浜岡)、10李、34三本菅、13辻村剛(26矢部)
FW19檜山(17岡元)、7牧(9嶋)
吉田監督はここ2試合ベンチスタートだった蜂須賀躍をスターティングメンバーで起用しました。3日間で3試合という日程の地域決勝において、3日間同じ先発陣というのはやはりパフォーマンスの低下が避けられません。そういった意味でもここで蜂須賀先発というのは吉田監督が地域決勝を強く意識しているということの表れでしょう。また、蜂須賀もこの2試合途中出場であまり結果を残せていないだけに、この試合でアピールしたいところでした。
SC相模原のサッカーに驚愕した試合
この3連戦の対戦相手を確認した時、正直3日目は勝てるのではないかと思っていました。奈良クラブは関西サッカーリーグ1部を11勝2分1敗というほぼ完璧な成績で優勝したクラブです。SC相模原には申し訳ないですが、関東2部のクラブなら3連戦の最終日でも問題なく勝てるだろうと思っていました。しかし、試合が始まってすぐにその根拠なき予想は打ち砕かれることになりました。
SC相模原は試合開始から攻撃の意識を明確に出してきました。スピーディーなパス回し、サイドバックの積極的なオーバーラップ、奈良クラブDFの裏を狙うスルーパス…。特に印象的だったのは前を向いてパスを受けるという意識の高さ。それはつまり受け手を走らせるパスを出すということです。これが本当に徹底されている。受けてもスペースを見つけて絶えず動いているから前を向いてパスが受けられる。それはつまりフリーでボールが受けられるということにもつながります。そして決定機が生まれる。あまりにも見事でしばし呆然としてしまうサッカーでした。
奈良クラブはこのSC相模原のサッカーを受けて防戦一方となってしまいました。絶えず動きまわる相模原の選手を捉えきれず、簡単にパスを通されてゴール前まで運ばれる。3連戦の最終日で疲れもある中で、さらに守備で走らされるという厳しい試合を強いられてしまいます。選手層の薄さもこの3連戦で明確に課題として表れた印象です。そして攻められ続けた奈良クラブは25分、CKからついに失点を喫します。
一方奈良クラブの攻撃はというと、SC相模原の積極的なプレスに苦しみチャンスを作れません。SC相模原のような前を向いて受けるパスが殆ど無く、疲れからか受け手の動きも少ないためパスを出すのにも迷いが生まれ、結果ボールを前線に殆ど運ぶことができませんでした。ここで吉田監督は1本目から辻村剛史に代えて矢部次郎を投入。李成浩を左サイドハーフに上げるという、前日の柏レイソル戦で機能した形に変更します。しかしそれでも事態は好転せず。パスの受け手の動きの少なさが出し手の判断の遅さを呼び、結果、人へのパスを出してしまうためすぐに囲まれて奪われる。ロングボールで事態を打開しようにも、精度が低く繋がらない。右サイドハーフでこの3連戦初めて先発で出場した蜂須賀も守備に追われ、また攻撃でも前を向いてボールを受ける場面は殆ど無く、輝きを見せることは出来ませんでした。
そんな中、気を吐いたのはGK日野優。1失点はしたものの後ろから声を張り上げて選手たちを鼓舞。更に1本目終了間際にはPKを止めるなど、必死に状況を打開するべく奮闘していました。1本目はこの日野の活躍もあり1-0で終了。
メンタルで負けた。それでも新たに生まれた強いメンタル
2本目。ここに来て一気に奈良クラブの選手たちの足が止まります。やはり3連戦の最終日。疲労もピークに達したのでしょう。選手交代で打開を図るも事態は変わりません。やはりみな疲れていました。
足が止まってしまうとどうなるか。1本目以上に相手にプレスがかけられなくなり、相手のスピードについていけなくなる。その結果、少ない人数での速攻で決定機を作られてしまうことになります。奈良クラブはSC相模原の速攻で失点を重ね、気がつけば2本目だけで5失点。少人数での速攻という戦術を採られると、カウンターもままなりません。たとえボールを奪ったとしても相手の守備には人数が揃っています。結局パスを回しながら、ここと言う所で攻撃のスイッチを入れる遅攻戦術になるのですが、相手の隙のない守備と疲れた体ではギアチェンジもできず、決定機が作れませんでした。
また、奈良クラブの1つの武器であるサイドからの攻撃。具体的に言えばサイドハーフ、FW、サイドバックの連携で崩してクロスを上げるあるいは中への突破を図るという攻撃を幾度か試みた場面もありました。しかしこの日はそれが決定機になることはありませんでした。原因を上げれば今までと同じになりますが、疲れ、焦りから来るミス、SC相模原の90分を通したプレッシャー、意思の疎通…。これらをひと括りに纏めてしまうなら、やはりメンタル的な弱さという言葉になるでしょうか。今季の奈良クラブは挫折を知らずにリーグ戦を終えました。敗北は最終節の1敗のみ。そんな中挑んだ関東遠征、最終日で地域決勝のライバル相手に一方的なサッカーをされてしまった。ここにきて味わった大きな挫折がそのままプレイにも表れてしまった。そんな印象を受けました。
しかしそんな中、僕は今まであまり無かった光景を見ることになります。それはMF李成浩が声を張り上げて、足が止まり下を向く選手たちを叱咤し、激励し、鼓舞している姿。普段比較的冷静な李が、奈良クラブが今季初めて味わう挫折の中でキャプテンシーを発揮した。これはこの関東遠征最大の収穫だと僕は思います。
試合は結局、SC相模原 6-0奈良クラブという結果に終わりました。関東遠征3連戦は0勝3敗。1得点13失点と結果だけ見れば散々な内容で終わりました。
全敗の関東遠征で得たもの
全敗した関東遠征。これは失敗だったのでしょうか。僕は全くそう思いません。奈良クラブは今年、設立以来初の地域決勝に挑みます。当然選手たちにとって3連戦というのは初の経験。それを地域決勝前に体験することができたということはとても大きいと思います。またその対戦相手も1つ上のカテゴリーのクラブ、日本の最高峰Jリーグに所属するクラブ、そして最後にJFL昇格を争うライバルと、地域決勝より厳しい3連戦のマッチメイク。これを選手たちに課した奈良クラブと吉田監督、本気です。
そしてこの3連戦を経て、選手たちの意識は変わったのではないでしょうか。ほぼ苦労すること無く制した関西1部リーグ、「自分たちは強い。」と思い込んでいたかもしれません。それが今回関東に来て、井の中の蛙であることを思い知らされた。今までも「絶対にJFLに上がる!」という思いはありました。しかし今回の惨敗で「もっと練習しなければ、もっと強くならなければ。」という思いが生まれたはずです。
井の中の蛙大海を知らず。されど空の青さを知る。この言葉の出所や解釈には諸説ありますが、ここでは井の中の蛙だった奈良クラブが、JFL、Jリーグという空を目指して飛び出そうとしている。その思いを込めて使わせて頂きます。井戸は深く空は遠いかもしれませんが、確実に見えているし、飛び出していくために奈良クラブはまた1つ強くなった。そう信じて今回の関東遠征トレーニングマッチ観戦レポートを締めくくらせて頂きます。






