僕の瞳に輝きが戻り始めた頃

 

再び、院長先生に呼び出された

 

山田さんも同行していた

 

 

院長「最近調子がいいみたいじゃない」

 

院長先生はニコニコしていた

 

僕「いや…まあ普通って感じです」

 

院長「私ね、ちょっといいこと考えたんだよ」

 

僕「なんですか…」

 

院長「君にね、歌ってもらおうと思って」

 

僕「え…」

 

僕「どういうことですか?」

 

 

僕は意味がわからなかった

 

院長が暴走してると思った

 

 

院長「というのもね、7月に夏祭りがあるでしょ?」

 

ここの病院では、1年に一回地域を含めた夏祭りが行われていた

 

院長「そこで歌いなさい」

 

僕「は…?」

 

僕は動揺していた

 

僕「いやいや、スピーチカニューレもしてて声だってこれだけしか出ないのに…」

 

僕「無理無理無理…」

 

やっぱり院長は暴走している

 

 

すると、院長は山田さんに声をかけた

 

 

院長「山田くん…」

 

山田さん「はい…」

 

院長「君は、ギターが弾けるんだって?」

 

山田さん「一応、はい…」

 

僕は心の中で

 

”弾けないって言えよ”

 

と思っていた

 

院長はまたニコニコしていた

 

院長「じゃあ、そういうことで」

 

 

そんなこんなで

 

夏祭りに人前で歌うことが決まってしまった

 

 

僕たちは渋々、歌の練習を始めた

 

歌う曲は

 

HYの「AM11:00」

 

に決めた

 

 

数週間が経ち

 

夏祭り本番前日

 

僕「ねえ、こんな声で聞こえるの?」

 

山田さん「大丈夫!気持ちが大事だから頑張って歌えば絶対伝わるから」

 

僕は不安を抱えたまま本番を迎えた

 

 

夏祭り当日

 

歌うまで時間があったため

 

下見に行くと

 

僕の想像してた何倍もの人で賑わっていた

 

その瞬間、一気に緊張が走った

 

 

病室で待機していると

 

姉や妹が来てくれた

 

姉「マジで歌うの?」

 

僕「いや、もうマジだよ…」

 

姉はなんだかすごく嬉しそうだった

 

姉「頑張れっ!」

 

姉たちが来てくれて僕は少しホッとした…

 

 

そして、遂に出番が回ってきた

 

山田さん「行こうっ!」

 

山田さんに車椅子を押されながら

 

人前に出て、紹介をされた

 

司会の人「では!お願いします!」

 

 

山田さんがギターを弾き始めた

 

やると決めたらやるタイプの性格の僕は

 

その時出せる精一杯の声で歌った

 

歌ってる途中

 

最前列で聞いていた姉の目に、涙が浮かんでいるのが見えた

 

僕はそんな姉の姿を見て

 

”どれだけ心配をかけたんだろう…”

 

”どれだけ迷惑をかけたんだろう…”

 

僕には計り知れない姉の抱えてきた苦しみを想像したら

 

胸が押し潰される想いだった

 

 

歌いながら僕の目にも

 

うっすら涙が浮かんでいた

 

 

夏祭り当日の写真

 

 

 

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