3回目の抗がん剤実施中のある日、右手の親指が少しはれているような感じがしました。いつの間にか、なにか虫にでも刺されたのだろうか、と、わたしは思いました。そんなふうなはれかただったのです。しかも、いくらかかゆい感じがあったので、やはりわたしは虫に刺されたんだろうと思いました。
次の日には、右手の人差し指が、親指と同じような様子ではれていました。ここも虫に刺されたのだろうかとは思いましたが、心当たりはありませんでした。人差し指もかゆいような感じがありました。
その日、わたしは、新しいペットボトルを開けようとしました。ところが、キャップがうまく回りません。どうやら右手の親指と人差し指がはれているので、ペットボトルのキャップをきっちりつかんで、ねじるということができないようなのでした。うまくつかめないので強く力を入れてみるのですが、そうすると例の右の二本指がひりひりと痛む感じで、キャップから手をはなして指先を見ると、そこにぎざぎざとキャップのあとが残ってしまっているのでした。そして、それでもキャップは開きません。わたしは右手でキャップを回すことは断念し、左手でキャップを開けたのでした。
さらに何日かすると、右の親指と人差し指は、また少しはれてきたようで、右手できれいに拳をつくることは難しくなっていました。他の指は、はれてはこなかったのですが、右手については他の指の指先がかるくしびれるような感じが出てきました。やはり右手でペットボトルは開けられず、缶ジュースのプルトップも起こせなくなりました。左手はなんともなかったので、そういった作業では左手を使うことにしていました。この頃になると、右手でペンを持って文字を書く場合にも、そうとうの違和感があったのですが、幸い、文字が書けなくなってしまうほどまでには至りませんでした。
右手についてのこのはれと、しびれは、4回目の抗がん剤を終えてからも一月程度は続きました。抗がん剤を入れていないのに、なかなかもとのように戻っていかないので、もしかするともうもとには戻らないのかもしれないとも思いました。けれど、少しずつですが、はれもしびれもひいていき、見た目にも、自分の知覚的にも、右手はもとのように戻ってくれました。