精巣腫瘍をめぐる冒険 -2ページ目

精巣腫瘍をめぐる冒険

Ⅲ年b組 予後中間群

 「あっ。」
 ある日、トイレの鏡を見ると、左の首すじに黒っぽいあざのようなものができているのに気がつきました。3回目の抗がん剤の終わりの頃であったと思います。
 体調が安定せずあまり風呂には入れないし、入れてもゆっくりは入っていられなかったので、わたしははじめそこにアカがたまってしまったのだろうと思っていました。
 首すじをこすってみました。変わりません。爪をたててそこを引っかいてみました。なにも変わりません。引っかいた爪の先にもなにもついてはいませんでした。
 しつこいアカだな、と、わたしは思いました。

 「ん?」
 二、三日後、左前腕に黒っぽい引っかき傷のようなものがあるのに気がつきました。首すじのあざのようなものと同じような黒っぽい色をしていました。わたしは左腕を近づけて観察しました。近くで見ると、それはアカではないようでした。肌自体の色が変色し、本当にあざのような、しみのような、もののようでした。『そういえば昨日腕のこのあたりを掻いた気がする。』わたしは思いました。
 そんなふうに、いつの間にか、体のあちこちに、あざのようなしみのようなものができていきました。わたしの場合は特に肩や背中、腰のこすれるところにできたように思います。このような肌の変色は、抗がん剤を終えてもすぐには元通りにはなりませんでした。抗がん剤を終えて二ヶ月以上過ぎてやっと薄くなっていくようでした。