ゆっくりと時間をかけて家に着いた。

私「ありがとう」

彼『何でそんなこと言うの?』

彼はこっちを見ずに,そう言った。

私「送ってくれて,って意味もこめて」

彼『意味わかんない』


私「じゃあ,行くね」

そう言ってドアに手をかけたとき,

彼『なぁ!』

彼に手首を捕まれた。

彼『..好きだよ』

今度は目を見て,彼は言った。

私「迷惑ばかりかけてごめんね。ダメなところがいっぱいあるなぁを愛してくれてありがとう」

私は精一杯,涙をこらえて言った。


私「じゃあね。」


彼は「じゃあね」「バイバイ」「さよなら」って言葉が大嫌いな人だった。

デートの別れ際にあたしがそういう言葉を使うと,

『永遠の別れみたいだから,またねって言って』

って必ず直された。


でも,今回は何も言わなかった。

「またね」じゃなくて「さよなら」なんだって,改めて思った。


ドアを閉める瞬間。

彼『なぁ!!』

再び彼に呼び止められた。

私「なに?」

彼『ありがとう』

私「ありがとうはなぁの方だよ」


彼はもうこっちを見ていなかった。ハンドルに突っ伏して,声を殺して泣いていた。


私「じゃあね。」


ドアを閉めて,家に入った。


いつもは彼が角を曲がるまで見送って,ブレーキランプのアイシテルのサインを見てから家に入っていた。

なんか,ベタだけど(笑)


でも,今回は違う。


私が家に入ってからもしばらく,車のエンジン音は聞こえてこなかった。


5分程経った頃,ようやく車は走り出した。


いろんな感情がごちゃ混ぜで,涙がとまらなかった。