音楽の起源、音楽起源説について

 

音楽がどのような経緯で進歩してきたのかを知ることは、現時点では不可能に近いのですが、推理的に19世紀の後半から、科学的に論じられたと思われるものを紹介してみます。
あくまでも、私自身のメモリーとして残しておきたいので、異論・反論には応じられませんことを先に申し上げておきます。興味深いコメントは大歓迎ですが・・・。
また、以下に掲げた番号は唱えられた順番でもありませんので、なにとぞご理解ください。

 

①チャールス・ダーウィンの異性吸引説(求愛起源説)恋愛説(進化論的起源説)
動物は繁殖期になると、美しい姿態や魅力ある声で、相手を引き寄せる衝動を起こします。それが人類においては芸術や音楽を作る動機となって、愛の歌を歌うようになったと、説いています。
セミって求愛のために暑い中鳴いてると一緒です。人間にも異性にアピールするための歌や踊りがあり、それが民族音楽や民謡に進化したという説です。
種の起源を唱えたかの有名なダーウィンによる説。音楽は、性的興奮を表現する動物の求愛の鳴き声の進化の結果生まれたものである、という説です。どちらかというと感情起源説に近く思います。 ただ、子供でも音楽を楽しむし音楽を作成できることから、あまり信憑性は高くないそうです。
ダーウィンは誰もが知るところのイギリスの自然科学者ですね。
動物の鳴き声の進化したものに音楽の原点がある動物の鳴き声は恐怖や苦痛、異性に存在を示す、性的興奮などを表現しています。
太古の昔は闘いが絶えず人は種族の減少を補うために性的興奮を高めるためのリズム・歌・踊りがありました。
こういったものが民俗音楽や民謡に進化して動物的な求愛行動から恋愛的感情の歓喜や悲哀、苦痛など人間的な情緒の世界を表現する音楽へと進化した。そうダーウィンは言っています。
(ダーウィンといえば「種の起源」で進化論を著しましたが、進化論の中には、高等動物ほど音楽的なはずなのに、矛盾があり、性的に未熟な幼児の音楽好きな生活の説明がつかず、この説は不成功といわれています。)
 

②タイラーの呪詛起源説
原始人には、音楽が純粋に分化されていないことから、最初なんらかの宗教的、呪詛的要素の一つとして音楽を作り、歌を唄うことから始められたと説いています。(民族学者の間では権威を誇っているようですが、呪詛行事が起こる前に、音楽を弄ぶ生活がなかったという証拠がない限り、不完全さを残しているそうです。)
 

③ヒルンの肉体衝動説
動物には遊戯本能があって、人は感情に応じて、体の各部を衝動的に活動させる本能がある。四肢を動かせばダンスとなり、音声を美的に使えば歌になるといいます。
(ヒルンは「芸術の起源」で遊戯本能を著しています。これは芸術を発生させる動機になる、すなわち、動物の満腹時には、外敵の心配をせず、戯れて遊ぶのに対し、人間はダンスを作り、歌を唄った趣旨を著し、核心を突こうとしたのですが、音楽とは、音程や旋律を無視した面も、あるということです。)
 

④クローウェストの自然模倣説
自然現象を模倣し、またその暗示を受けたとするもので、これは鳥や虫の泣き声の模倣や、雷鳴、水、風などの音から、発音や発生を知るようになったといいます。
(人間が音楽を作るにあたり、自然の影響力は多大なものなのですが、鳥や虫の声を旋律として確立させた引例もないので例証は困難な状況下にあるそうです。)
 

⑤ワラシェークらのリズム起源説
ワラシェークは、狩猟歌や戦闘歌を例にとり、ビュッヘルは労働や行動にリズムを利用することによって能率が上がることから、歓声をあげたり、動作に音頭をとったのが歌に発展したということです。リズムがあると人は自然に身体を揺らす。リズムをとって踊りを踊っていた太古の人。
そんな中で伴走としての音楽が生まれた。
(アフリカ土人の喚声の反復が歌を作ったと考えたのですが、原始人が共同作業をするようになったのが、奴隷制度が出来てからで、それ以前は歌がなかったという証拠がないといわれているそうです。)
 

⑥シュトゥンプの合図起源説
原始時代に、ある一つの音声で、遠方の人に呼びかける合図が音程を自覚させるようになって、男女の声の自覚やその音程の移動から旋律に発展して音楽が作られたとのこと。(音楽の元は一つの音程の認識からと考えたのですが、なぜ音階を作るかに決定的な発言がなかったとされているそうです。)
 

⑦スペンサーの言語起源説
言語が、発想の程度に応じて、抑揚が極端に強められると旋律を作るとして、多くの歌曲を引例して、アクセントと旋律の関係を示しています。
言語起源説は、言語の抑揚やアクセントによって旋律が生まれたいう説です。この説は結構昔から信じられてきたようです。
歌曲においても、旋律の動きと言語の関係は大きいです。
(言語から音楽が作られたという説は、古くから信じられてきましたが、言葉からオクターブの音階に発展させることができなかったらしいです。)
 

⑧ジャン・ジャック・ルソーの言語起源説
コミュニケーション自身が人間のみのものではないということです。人間に特有なのはコミュニケーションに言葉を使うことだということで、人間と動物の違いは2本足・言葉・道具・脳の発達により、情動を伴った会話表現が音楽の起源とされ、会話に於いてイントネーション及びアクセントが感情と共に協調された際に自然に生まれる抑揚のことだそうです。
なお、歌の旋律やリズムは、言語の抑揚、アクセント、そして感情的表現による誇張によって形成されたということらしいです。
ジャックルソーはフランスで活躍した哲学者でした。彼は情動を伴った会話表現が音楽の起源だと言っています。私たちは感情をともなった会話をするときに「抑揚」即ち、イントネーションやアクセントが大きくなります。
 

⑨カール・ビュッヒャー、エンゲルスの労働起源説
人間は農耕民族にしても狩猟民族にしても、古代から集団を形成していました。人間は社会動物であって、社会の中では農耕民族・狩猟民族関係なく集団を形成して共同作業が行われていました。協調のために「かけごえ」をかけて作業をおこなったそうです。そのかけごえから音楽が生まれた。
労働起源説とは、労働に音楽の起源を求める説。集団の労働者が協調のために行う「かけ声」が音楽の起源だという説です。集団で何かを行うことで生まれたという点では、魔術起源説と少し通づるところがあるようです。
エンゲルスはドイツの社会思想家政治思想家ジャーナリストで国際的な労働運動の指導者。
 

⑩ヴントの感情起源説
叫び声など、一度音が大きく発せられ、次第に音が下降旋律線を描いて弱まっていくという発想によるものです。
感情起源説は「叫び声」が旋律の起源という説です。長い叫び声は高い音に始まり、徐徐に弱くなっていく。それが旋律の起源です。


⑪ザックスの旋律起源説
「言語起源説」と「感情起源説」の両者が互いに混じり合い、より高度に洗練された様式に発展したとされています。この事で有力な説と考えられる要因になっているそうです。
単一の起源に囚われずに音楽形成を考えました。抑揚をつけて言葉を話す言語起源的と形にとらわれず感情を迸らせる、感情起源的の二つのバランスで説明しようとしました。
 

⑫イェスペルセンの恋愛起源説
イェスペルセンの恋愛起源説は、音楽が恋愛の表現として生まれたという考え方を示しています。この説は、音楽が人間の感情、特に愛情や恋愛感情の表現として発展したという視点から提唱されました。
 

⑬コンバリューの魔術起源説
魔術起源説とは、太古の昔行っていた雨乞いや豊作などの祈祷に音楽の起源を求めた説です。ケッハモルタァケッハモヌラタァ…きええええええい!!って言いますよね。あれは多分1人だったけど そういうのを集団で行ったりすることで旋律が生まれたのではないか、、っていうものです。
仏教の百八讃というお寺で歌われている音楽を聴き、集団で声を出すと、最初はばらばらだった音程が徐々に近い所に集約されてくるそう。そうして一本の線になる。
コンバリューは学術的な音楽研究の立役者としてフランスで活躍した音楽史家。
太古の昔、人は雨乞いをしたり悪霊払いをしたり死者を葬る際に魔術や呪術を使っていた。
その魔術などから音楽が生まれたのだとコンバリューは言っていました。


⑭シュトゥンプの信号起源説

これは遠方に合図をするために張り上げた声が音程を知覚させ、そこから旋律が生まれたというもの。旋律そのものの生まれ方は感情起源説に似ています。
狩りや戦の時に遠くの人に向かって送る合図に声や楽器を使ったとされる説です。戦の初めに吹くほら貝のイメージです。
シュトゥンプ はドイツの哲学者で心理学者だった人物。太古の昔人はある音声を合図にして遠方の人に呼びかけていた。その合図の音声から旋律に発展して音楽がつくられた。


⑮リズム衝動起源説
狩猟や戦闘の際、共同のリズムで士気をあげたのが音楽の始まりだという説。音ではなくリズムに始まりがあるとするところが他と違います。
音の無い音楽は存在しますが、リズムの無い音楽は実在しないです。人間の脈拍や体内時計、惑星の公転など話はでかくなりますがそれもリズムです。リズムを失った音楽は死ぬ、と作曲家の芥川也寸志さんが仰っていた、リズムなしで音楽をやるということは最早イデアです。


⑯「音楽は情報」であるという近代的な考え方
音響現象は,生物が生命を維持して行くために、情報を与えてくれています。人間が音楽を求める行動は,生物学的合目的性に基づきます。音楽、イコール、生物物理学的情報であり、生命活動には、運動と休息があって、次の運動のために蓄える時間が必要であります。即ち、時系列的に言うと,生命活動は1つのリズムを伴っています。この休息と運動のバランスが生きていく上で最も重要な課題なのであります。音楽のような外部刺激を求める行動も、実はそこから生まれてくるということらしいです。
 

その他にも、色々な背景の元に起源説を唱えてきた形跡があるのですが、どれも音楽創造の衝動論に終わってしまい、起源の本質には触れるまでには至らないといわれています。
音の世界は、そのまま音楽ではありません。音楽はリズムを持って、音程が確立して、はじめて音楽であるということができます。これまでに掲げた起源説には、音程や音階の形成について、科学的または実証的発言に欠けているとされています。音楽起源説は全て否定されてしまっているのが現状みたいです。その神秘的存在が「芸術」の好奇心をかきたてる引き金になるのかもしれませんね。